第16話 冒険者サイド 討伐

 冒険者ギルドに3人の戦士と1人の魔法使いがテーブルを囲んでいる。

 誰も言葉を発せず、ひたすら待ち人が来るのを待っている。

 やがて、書類を抱えた僧侶がやってくる。信仰する商売の神ラーダを信仰する僧侶だ。名前をハインリッヒという。30過ぎで少々お腹が出てきた中年男である。

「あのダンジョンの情報とダンジョンマスターの討伐許可だ」

 そう僧侶はテーブルに書類を広げる。ここまで大した運動はしていないのに、顔にはポタポタと汗が伝っている。

 僧侶の男が広げた書類に目を通す戦士。彼はこのパーティのリーダー。名前をエインという。年齢は40を超えるベテラン戦士だ。鋼製の胸当てとバスタードソードを主武器にしている手練だ。

 2人目の戦士は背の高い30代だろうと思われる男。名前はルード。武器は巨大な戦斧である。

 3人目の戦士は若い。20代前半だろうという青年だ。武器はロングソード。短くした金髪がスポーティな印象を与える。装備も軽装でスピードを売りにしているようである。

 魔法使いの男は老齢で50代。このパーティのご意見番を務めている。魔法もベテランらしく中級の魔法までを使う。

 これは市井の冒険者パーティの魔法使いの中では滅多にない人材で、これだけでこのパーティが中堅クラスのレベルであることを示していた。

「これが現在判明しているダンジョンの地図だ」

「ハインリッヒ、これだけしか分からないのか?」

「ああ」

 中年の僧侶はそう答えた。この新しく出現したダンジョンは、66という番号がついているだけで名前はまだない。

 攻略に出かけた初心者パーティがほぼ全滅したという情報が書き加えられていた。カテゴリー1に認定された初期のダンジョンを管理しているのは冒険者ギルド。

 よって、潜るにはギルドの許可が要る。この世界ではダンジョンは稼げる場所であり、一攫千金を狙える場所である。但し、カテゴリー1~5に認定されたダンジョンに関する一切の権利は、冒険者ギルドがもっており、ギルドはここから収益を得る仕組みなのだ。

 ダンジョンで得た利益の半分は冒険者ギルドが貰う契約になっており、その代わり、ギルドはダンジョンに関する情報の管理をする。その情報を売ることで更なる利益をあげる仕組みなのである。

 そのためにもダンジョンに潜るパーティの数は最初のうちは制限されている。これはギルドが一つのダンジョンから収益を細く長く得るためなのだ。

 1つのパーティが挑戦し、戻ってくると得られた情報をギルドに売る。ギルドはその情報を転売して、次のパーティに許可をする。

 できるだけ、ダンジョンを支配するダンジョンマスターをすぐに倒さないように調整しているのだ。ダンジョンマスターを殺したエリアには、宝物の再配置はされなくなるし、ダンジョンマスターをすべて殺せば、そのダンジョンは廃棄されるのだ。

 但し、ダンジョンマスター討伐は国の方針となっている。倒せば、ギルドに国庫より報奨金が支払われるので、ダンジョンをくまなく調査して、しかるのちにダンジョンマスターを討伐することは都合がよかったのだ。

 最初のうちは情報も少なく、危険度は増すがその分、比較的楽に置いてある宝物を得ることができる。

 ただ、難易度が低いダンジョンにはめぼしいものもないことが多いので、できたばかりのカテゴリーが低いダンジョンに高レベルなパーティが臨むことはあまりない。

 ダンジョンに潜るには登録料をギルドに支払い、情報を買う必要がある。それでも初期のダンジョンは実入りも大きいので魅力的なのだ。

「最初の西エリアには岩石トラップとゴブリンの大群がいるらしい。さらに正面は矢が飛び出す壁エリア……」

「ガーディアンがゴブリンの大群なら、わしの魔法で一網打尽だ」

 そう魔法使いゲルドが自慢げに話す。ゴブリン如きなら、ファイアボールで焼き尽くすなり、スリープで全員眠らせるなりの攻撃ができる。

「これだけしか分からないとはな」

 リーダーのエインは腕を組んで考える。情報が少なすぎて危険の匂いを感じたのだ。

 確かにダンジョンが現れたばかりの頃は、情報も少ないので危険が伴う。だが、まだ荒らされていないエリアが広大で宝も多くあると推察できる。

 なにより、4人いるというダンジョンマスターを倒すチャンスがあるのだ。ダンジョンマスターを殺す報酬は結構でかいので、4人もいるのはありがたい反面、死への恐怖も伴う。

 冒険者たちを死に追いやるトラップや強力なガーディアンが潜んでいるかもしれないのだ。

「どうする……。もう少し情報を得てから挑戦する方法もあるが」

 エインは慎重なリーダーだ。自分たちの実力を考えて石橋を渡るのを常としている。

「エイン、やろうぜ。まだ、1パーティしか挑戦してないダンジョンだ。せっかく、抽選で当たったんだ。ここは挑戦だろ」

 戦士ルードは少し乱暴なところがある。ある程度の困難なぞ、腕力で解決できると思っている。

 まだ若い戦士クルスはルードに同調する。若いだけにリスクをとっても大きな利益に結び付けたい。

「どうじゃろ。わしらの実力なら挑戦してもよいと思うのじゃ。危ないと分かれば、さっさと脱出すればいい。まずは最初のパーティが壊滅した西エリアから攻略しては」

 魔法使いのゲルドはそう助言した。年長のゲルドの判断で、リーダーのエインはこの『66番』のダンジョンに臨むことを決めた。

 ダンジョン攻略には色々と準備が必要である。ダンジョンにはマスターが住んでいて、管理がされているから明かりがあるエリアが多いものの、暗がりもあるのでトーチは必須である。

 道具屋で買うトーチはただの棒きれではなく、特殊な油を染みこませた布を巻き付けてある。この布と油の加減で火が長時間持つのだ。1本で2時間は十分使える。これを20本購入する。

 これに魔法使いの『ライト』の魔法があれば、帰還まで視界は良好であろう。

 ダンジョンには数多くのトラップが存在する。それを発見するのにも明かりは役立つ。

 また、近づいてくるガーディアンを見分けるのにも使える。いち早く、強いガーディアンが近づいて来るのが見えたら、一目散に逃げ出すこともできるからだ。

 これに2日分の食料。乾パンに水、固形のスープ。干し肉に干したブドウ。簡単な調理も場合によっては行う。あとは毒消しや麻痺に対する薬。傷を治す薬を少々手に入れると、新しくできたダンジョンの入口へと向かった。

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