エンディングデモ

第71話 戻った非日常


『カレリンとラファリィの激闘からもう1ヶ月以上経ちましたか……カレリンは元気にしているでしょうか?』

 お陰様でね。



『おや? あれだけ手傷を負っていたのにもう完治したのですか。相変わらず常識外れですね』

 久しぶりに顔を出して言う事はそれ?

 ラファリィとの戦いで吹っ飛ばされた時にはあんなに涙を流して心配してくれたくせに。



『そのような記憶はございません』

 あんなにハラハラと泣いてたじゃん!


『記憶にございません』

 なによその日本の政治家みたいな答えは!

 すっごい可愛い顔してたのに!

 さてはあんたツンデレ?


『そのような事実はございません』

 顔を真っ赤にして澄ましても説得力ないわよ。


『ちッ!』

 なによその舌打ちは!

 いいじゃん可愛かったんだから。


『貴女それよりそれ・・は宜しいので?』

 ん?



「カレリ〜〜〜ン! 私を見捨てないでくれぇぇぇえ!!」

「ガルム様!」


 なに人聞きの悪い事を言っちゃってるんですかこの旦那様は!

『おやおや、もう離婚ですか?』


 しないわよッ!

『ですが泣きながら貴女の足に縋りついて懇願していますよ』



「お願いだから行かないでくれェェェえ!!!」

「学園へ行くだけです。ちゃんと夕方には帰りますから」



『何で登校するだけで修羅場みたいになっているんです?』

 あれからガルム様は退学して私のところに転がり込んできたのよ。


『あら! それでは名実ともに夫婦になったのですね』

 まあ、ね……ガルム様は今じゃ完全な専業主夫よ。


『それはそれは……おめでとうございます?』

 なんで疑問系!?


『いや、この状況を見るに祝ってよいものか判断に迷いまして』

 素直に祝いなさいよ。これでも幸せにやってるんだから。




『それで、2人は結婚したのにどうして貴女はまだ学園へ通っているのですか?』

 今回の騒動の全ての責任をガルム様が負って退学したのよ。


 だけど、私まで学園からいなくなってガルム様と新婚生活を謳歌したら周囲に示しがつかないでしょ――まっ、形の上だけど。


『つまり、形式上ガルムは社会的に抹殺されているわけですか』

 そう言うことよ。だから私とガルム様は籍は入れているけど、対外的には結婚はしてないと周知されているの。


 なんで、私はまだアレクサンドール侯爵令嬢として学園に通う必要があるのよ。


『なるほど理解できました。ほとぼりが冷めるまでガルムはお預けを食らったわけですね』

 私が学園を卒業したら正式にガルム様とは名実ともに夫婦になるわ。


『ふふふ……だからガルムは貴女が少しでも離れるのが心配なのですね。いつ捨てられるか不安で堪らないと……』

 まあ、それでもガルム様は私と一緒にいられて嬉しいみたいだけど。


『はいはいご馳走様です』

 その言い方ムカつくわね。


『それで、このままエントランスホールで愛憎劇を繰り広げていていいのですか?』

 はッ! みんな集まってる!?


『侍女やメイド達が微笑ましいものを見る表情しながら口元はニタニタ、ニヤニヤしてますよ。この様子だと、この光景はいつもの一幕って感じですね』



「カレリンに見捨てられたら私はもう生きていけない!」

「ただ学園に行くだけで毎朝毎朝騒がないでください!」

『ガルムも貴女に捨てられまいと必死なのですね』


「後生だから私を置いて1人にしないでくれ〜」

「泣きながら腰に抱き付かないでください!!」


「一時でもカレリンの傍から離れたくない!!」

「仕方ないでしょ私には学園があるんですから」


「それならせめて行ってきますのキスをして!」

『朝っぱらから熱々ですねぇ』


 もう!毎朝毎朝せがんできてぇ!!

『毎朝ですか!? それは煮えたぎってますねぇ』


「昨晩もあんなに激しかったじゃないですか!」

『カレリン! 人前ではしたない!』


 どうせ貴族は最初に見届け人がいるんだから今さらよ。

『そう言う問題ではありません!』


 どうせあんたも覗いてたんでしょ。出歯神でばがみのくせにうるさいわよ。

『誰がデバガメです! だいたい何が悲しくて貴女とガルムの絡みなんて覗かないといけないんですか!』


 あらあら、なぁに?

 ヤキモチですかぁ?

『ふんっ!』


 にっひっひっひっ女神様がガルム様に嫉妬ぉ?

『……それよりガルムそいつはいいんですか』



「昨晩は昨晩! いつでもどこでもカレリンの愛が欲しい!」

「なに言ってんですかぁ!?」


 まだ駄々捏ねてた!?

『ほら、皆さんお待ちかねですよ』



「「「『キース!キース!キース!』」」」


 キスコール!?

 侍女やメイドどころか家令の爺さんまで――ッて、ポンコツ! あんたも何しれっと混じってんの!

 くッ! 意趣返しのつもり?

『ほらほらガルムも期待の熱い眼差しを送ってますよ』



 えぇーいッ!

『おお! ガルムの腰を支えながら後方へ倒して覆い被さるなんてッ!』


 ブチュッとな!

「「「キャーーーーッ!!!」」」


「今日もカレリン様が格好いいわ!」

「唇を奪われて乙女な表情のガルム様が尊い……」

「やっぱりガルム様が右側よねッ!」

「でもでも夜はガルム様の方が主導なのよね」

「意外とカレリン様は打たれ弱いとか?」

「それじゃカレ×ガルじゃなくてガル×カレ?」

「待って待ってカレリン様は女よ! 前提がおかしいわ!!」

「「「いいのよ! カレリン様は男よりカッコいいんだから!」」」


 こいつらぁぁぁあ!

『これを毎朝ですか……マグマよりも沸き立っていますね』


 とにかくガルム様が乙女の花畑からしょうきに戻る前に出立よ!


「じゃあ行ってくるわ! みんなガルム様をよろしくねッ!」

「「「はーーーーい」」」



『ここの使用人達は随分とユル軽いのですね』

 我が家の家風よ。


『このゆるゆる環境でゲームのカレリンがどうして悪役令嬢に堕ちたのか分かりません』

 ホント永遠の謎よね。

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