第70話 らすとばとるッ!!!
そして、カレリンはラファリィだけに己の全力を、力を、魔力を、技を、持てる全てを注ぎ込む……
その姿はとても美しく、とても生き生きとして、とても煽情的で、とても躍動的で……だけどそれは全てラファリに向けられるもので……
「くくくッ……嫉妬かルナテラス」
『――ッ!』
邪神の不躾な指摘に魅入っていた私はハッと我に返る。
「2人を見る顔が悔しそうに歪んでいるぜ」
『何を馬鹿な――』
「そんな嫉妬に燃えるお前の表情も
『貴女、死になさい』
私はニタニタ
「俺を百合ビアンなんて呼んでたくせに……」
『私のはそんなのではありません!』
全く誰が嫉妬ですか!
「なあなあ、いいじゃねぇか。俺やお前でカレリン囲ってさぁ。気にかけてんなら胸は足りんがピンク頭も入れていいぞ……」
『俗物が!』
「そう言うなよ。そうだ後は攻略対象どもは奴ら同士で絡ませてよぉ……くっくっくっそれも愉しそうだ」
『攻略対象同士って、貴女はそっちの気もあったのですか!?』
「女は女同士、男は男同士の方が美しいだろ?」
『このド腐れ百合
決められた
「格調高く
『ホントに死ねッ!』
「そんなカッカしなさんな」
『誰のせいですか!ラファリィは正気を失い、カレリンはあんなに傷ついているのですよ――ッ!!』
突然、ラファリィが右拳を脇に引き、左足の踏み込みと共に突き出した――正拳突き!
ブオォン!
カレリンは意表をつかれながらも大きく左足を前に出し、姿勢を低くしてラファリィの拳を掻い潜って逆にアッパー気味な拳を打つ。
「グガッ!」
ラファリィは顔を歪めながらも耐え、クルリと背を見せたと思ったらカレリンの顔目掛けて蹴りを放った――中段回し蹴り!!
ゴォッ!
カレリンはそれを受けず、身体を左に寝かせ、左手で自身を支えながらラファリィの軸足を狩る。そして、サッと立ち上がると宙に舞ったラファリィに踵落としを見舞った。
「ギャッ!」
『カレリンの動きを見て技を盗んでいるのですか?』
「ほぅ……ラファリィのヤツ想像以上の天才だな」
『何を呑気なッ!』
「心配すんな」
『ですがこのままではカレリンがどんどん不利に……』
「大丈夫だって……もう結着がつく」
ラファリィの動きは次第に洗練されていき、時間の経過と共にカレリンは疲弊していく。この状況のどこにカレリンに勝つ要素が?
「さっきの攻撃でカレリンは正確に掴んだみたいだ――ラファリィの防御力を」
『それではカレリンは今から――ッ!!!』
突然、ラファリィの動きが信じられない速度でカレリンに迫った。
「ちッ! マジか縮地じゃねぇか」
『カレリンの歩法まで!?』
横で見ていてあのスピード……カレリンからすれば殆ど消えた様にしか思えないでしょう。あっという間に目の前に迫られカレリンの表情が強張ったのが分かります。
「ダァッ!」
「くッ!!」
ラファリィの小柄な身体からは想像もできない豪腕がカレリンに肉迫し、躱せないと判断したカレリンは腕を交差して防御姿勢を取る。
バキッ!!!
初めて綺麗にもらったラファリィの右ストレートにカレリンは大きく後方へ吹き飛ばされた――完全なクリーンヒット!
ドゴォォォオン!!!
瓦礫の山に衝突し、もうもうと砂埃が舞い、カレリンの姿を隠す。
『カレリン!!!』
私は思わず彼女の名を叫び、駆け寄ってカレリンの安否を確認するが返事がない。
『カレリン! 返事をしなさい!!』
私はどうしてこんなに取り乱しているの?
ううん……そんな事は今はどうでもいい。
「だ、大丈夫よ……生きてるから……」
ガラッと音を立てて瓦礫の一部が崩れ落ち、彼女の身体が現れる。私は近寄って膝をついて覗き込むが、とても大丈夫とは思えない。
『カレリン……貴女……』
「なぁに?泣いてんの?」
カレリンの手が触れることのできない私の顔に添えられた――私は泣いている?
「はは……あんたの泣き顔……初めて見るわね……澄まし顔や何考えてるか分からない微笑よりもずっと綺麗よ……」
力無く笑って
『バカ……その殺し文句は邪神みたいですよ』
「それは嫌だなぁ」
よっと掛け声と共に立ち上がったカレリンだったが、その左腕はダラリと垂れた。
『貴女その左腕!?』
「ん? 凄いわね。一応インパクトの瞬間に後方へ飛んで力を削いだんだけど……それでももってかれたか。折れてるわね」
『カレリン! もうラファリィは諦めなさい……このままでは貴女が……』
「大丈夫よ。ここまでラファリィがやるなんてね。だから――」
満身創痍で左腕まで失ってなおカレリンは笑った。
「――ラファリィの才能はこんな形で失うのはもったいないと思うの」
『ですが、もう貴女の身体がもたないでしょう』
「大丈夫だって、もう掴んだから……次の一撃でキメるわ。だから――」
真剣な眼差しでラファリィを見据えるカレリンは、だけどその表情に悲壮な印象は1ミリもない。
「――ラファリィを救って……そして私は彼女と霊長類最強を目指すの!」
『ラファリィは多分そんなものを目指してはいないと思いますよ?』
「問題ないわ。これだけ暴れればきっとラファリィも
全くこの娘はどこまでも……
『……本当に大丈夫なのですね?』
「大丈夫よ! まっかせなさ〜い!!」
カレリンはそう言うと右拳を腰だめに構え、全身から魔力を
「令嬢流魔闘衣術・奥義!
全身を覆う凄まじい魔力。今まで使っていた《ドレス》の比ではありません。おそらく短期決戦用の全魔力を使う技。
「ラファリィ!!!」
カレリンの叫びにラファリィが反応し、天へと大きく両腕を伸ばした。まるで獣が敵を威嚇する様に。
カレリンの大きな魔力に警戒しての本能的に畏れた故の構えだったのだろうが、これは明らかに悪手――胴がガラ空きになった。
「いま私の全てをあんたに
「グゥルゥゥゥ! ガ、カ、カぁレぇリぃ〜ン!!!」
カレリンを見るラファリィの瞳に一瞬だけ正気の光が灯った。怒り、羨望、憎しみ、憧れ……それはきっと彼女のカレリンに対する複雑な想い。
それを目にしたカレリンは刹那ニッと笑い前へと突出した。
その速度は神である私でも完全には追いきれず、ラファリィにはもう何が起きたか判断できなかっただろう。
何故ならラファリィがカレリンの姿を認識した時には既にカレリンの右拳がラファリィの腹にめり込んでいたのだから……
見事な渾身の一撃……
ラファリィは後方へは吹き飛ばされず、寧ろ前にのめり込む様な姿勢となり、カレリンの肩に身体を預けている。
余すことなくカレリンの拳の力が加わった証左。
「ぐッ……がッ……うぅ……カレリン……さま?」
「ラファリィ……もうぜんぶ終わったわ……今は眠りなさい……」
「は……い……」
ラファリィはカレリンに身体を預けたまま意識を手放した。
その眠るように堕ちた彼女の顔は安堵に緩み、とても安らかな幼女の様な表情でした……
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