第63話 開戦の狼煙【STAGE 講堂】


「そこまでにしろッ!」



 あら? ガルム様が声を荒げてしまったわ。

『相当に激昂していますね』


「いつもいつも傍若無人に振る舞いおって!」


 ビシッと指差されてしまいました。

 ガルム様……他人を指差してはいけませんと習わなかったのかしら?

『論点はそこですか?』


「今日こそは横暴な貴様に鉄槌を降し婚約を破棄してくれる!」

「そして、お隣の可憐ひんじゃくなご令嬢と結ばれると?」

「貧弱言うな! ラファリィこそ私の最愛、私の真実、私の唯一だ!!!」


 ガルム様……

『本当にいいのですか? 今の貴女はとても寂しそうですよ』

 くどいわよ! 今日の私は華麗な悪役令嬢よ!

『非道ないじめっ子の間違いでは?』


「あらあら公衆の面前で大胆な浮気発言ですか」

「黙れ! 貴様によって傷つけられた私の心をラファリィだけが癒やしてくれたのだ!」


『貴女いったい何をやったんですか?』

 えーと……私ってガルム様に何かしたかしら?

『無自覚なんですね』

 やったこと前提なの!?



「私が? 殿下を? いつ?」

「分からんのか! 貴様は婚約が決まってから私が贈ったプレゼントの数々を踏みにじった!」

「宝石の指輪よりオリハルコンのメリケンサックが良かったとけなしたことですか?」


『うわぁ貴女そんな事を言ったのですか?』

 だって指輪とかいらんし。


「王室御用達の細工師によるブレスレットを贈った時は、竜皮の籠手じゃないのかとの暴言も!」

『いやもう貴女を擁護できません』

 えぇ〜私が悪いの?

『100%貴女が悪いです!』


「ガルム様の瞳色のドレスの時には幻獣の道着を要求したっけ……懐かしい思い出です」


 これこれ! これなんて微笑ましくて良い思い出じゃない?

『どこがです! 立場と物を逆にして自分に当てはめてみなさい』


 えッ?……



 ……………………



 ……なんかちょ〜っぴり悪かったような気がするような……しないような?

『ガルムが哀れすぎます』



「他にも数々の心を込めた贈り物を貴様は心ない言葉で足蹴に……」

『まだ他にもあるのですか!?』

 しょうがないなぁ。

 それじゃ、悪役令嬢としてガルム様とラファリィの花道となってあげますか。


「そんなことで……みみっちい男」

「うがぁぁぁあ! 貴様のそういう所が嫌なんだぁぁぁあ!」

「殿下しっかりして下さい」

「殿下ファイト!」

「殿下ガンバ!」


「くそぉ……私の初恋を返せ」


 ガルム様が泣き出しちゃった……

『少しは反省してください』

 そ、そうねぇ……ガルム様には悪い事しちゃった……かな?



 でも――


「あいつ見た目だけは極上ですからねぇ」

「幼少期から絶世の美幼女で通っていましたしねぇ」

「婚約が決まった時は殿下も大喜びでしたもんねぇ」


 ――こいつらはとっちめてもいいんじゃない?

『それは私も全面的に賛成です』



「ぐっ! だがそれも今日まで!貴様との婚約を破棄し、この因縁に終止符を打つ!!」

「国王陛下がお許しになりますかねぇ」

「貴様との婚約、国王が許そうとも私が許さん!」

「それは暴挙というものでは?」

「貴様を王子妃にするほうが暴挙だ! 貴様は満足に王子妃教育も修めていないではないか」


『カレリン……貴女まさか……』

「――はい?」

 ――はい?



「ま、ま、まさかカレリン! お前は自分がきちんと妃教育を習得できていると思っていたのか?」

「えーと……何か問題がありました?」

「ダンスのステップも友好国の言語も社交としての舞踏会も熟せていないだろ!?」

「何だそんなことか……」


『それ本当ですか!? 貴女は最高の悪役令嬢の身体なんですから、それらは問題なく習得できたはずですよね?』

 もちのロンで大丈夫よ。

 バッチリに決まってるじゃない。


「ダンスなぞ武技の歩法ステップパートナー対戦相手を翻弄!」

『翻弄してどうするんですか――ッ!』


「肉体言語があれば世界の強敵達V.I.Pとばっちり会話!」

『戦争でも起こすつもりですかッ!?』

 なによ……カマちゃんとの交渉は上手くいったわよ?

『あれは恫喝と言うのです!』


「武闘会に参加して強敵ゆうじん達との社交も十分ね!」

『武闘会に出場したのですか!? 何人殺したんですか!』

 人聞きが悪いわね。

 殺してないわよ――再起不能が何人かでたけど。


「アホか貴様!」

「相手が死ぬわ!」

「俺よりも脳筋とは……」

『不本意ですが私も同意です』


 あんたまで!

『馬鹿だ馬鹿と思っていましたが……超弩級の大馬鹿でしたか』


「な、なによ! みんなで寄って集って! 私は何も間違っていないわッ!」

『貴女は脳みそどころか骨髄の全てが筋肉でできているのですね』


「まだ言いやがりますか、この史上最強の脳筋令嬢!」

「私はセルゲイより成績良いわよ!」


「成績云々ではなく、思考パターンを言っとるんじゃあ!」

「モヒカンのマーリスには言われたくないわ!」


「いつもいつも弱い者いじめばかりの残虐非道令嬢!」

「なによ! ヴォルフなんて逃げてばかりの軟弱薄弱男の娘じゃない!」


『何という低レベルな言い争い……もう子供の口喧嘩ですね』

 ホントよね。

『貴女も同レベルです!』


「「「この令嬢類最強の脳筋がぁ!!!」」」

「私は霊長類最強の令嬢よッ!!!」


 なによ! 令嬢類最強って!

『私にもそちらの方がしっくりきますよ』


「殿下! 大丈夫です。霊長類最強がなんです!」

「そうです! 僕の攻撃魔法で叩きのめしてやりますよ!」

「しかりしかり、我が家の家宝魔剣『オーガ斬り』の錆にしてくれる!」

「私の魔法でみんなを援護、回復するわ!」

「そ、そうだな! 私には皆がついている――私とて王家の漢だ! 無駄死にはしない!!」


『なんだか私もガルム達を応援したくなってきました』

 あんたまで!

『ここまで貴女が理不尽だとは思いませんでした……力も言動も』

 判官贔屓はんがんびいき極まれり!?

『貴女は強すぎるんです。義経に同情して贔屓した気持ちが理解できました』


「カレリン・アレクサンドール侯爵令嬢! 私ガルム・ダイクンは貴様との婚約を破棄させてもらう!! そして、禍根を残さぬため国外追放を言い渡す!!!」

「婚約破棄? 国外追放?……ふん!」



 くっそぉぉぉお! どいつもこいつも……もういいわよ!



「ごちゃごちゃうるさい! かかってこい!」

『カレリンが切れた!?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る