第62話 婚約破棄イベント始動!大進撃ガルム五車聖【STAGE 講堂】


――で、始まった入学式なんだけど。



「カレリン・アレクサンドール侯爵令嬢! 第2王子の婚約者にあるまじき行為の数々、もはや我慢ならん!――私、ガルム・ダイクンは貴様との婚約を破棄させてもらう!!!」



 あらら……突然、壇上に上がって何事かと思ったら、入学式でぶちかましますか。

『周囲の生徒は呆れていますね』


 まあ、ここのところ私に頻繁に突っかかってきてたから、もう日常風景みたいなもんなんでしょ。


 だけど、婚約破棄かぁ……

 本当にこの時がきたのね。

『そう言う割に随分と落ち着いていますね』


 婚約破棄この事態になる可能性は生まれた時から分かっていたでしょ。


 その為に私は心身を鍛え上げてきたのよ。

 私は何者にも負けるつもりはないし、負ける気はしないわ!

『まあ、貴女に勝てる者はこの学園には存在しないでしょうね』


 私が壇上をキッと鋭い目つきで見上げると、そこにはガルム様と3バカが私を見下ろし、その背後からラファリィが伺い見るように隠れていた。



 ラファリィ・マット――


 小柄な身長、淡いピンク色の髪、青く澄んだ大きな瞳、可愛い顔立ち……

 そして何より薄い胸と足が短く重心が低い――いつ見ても格闘家にとって理想の寸胴体型ッ!

『本気で言われている彼女が哀れでなりません』


 あの理想体型にガルム様が惚れ込むのも無理ないわ。

『私はあの娘とガルムが可哀想になってきましたよ』


 さて、今日はガルム様と3バカとピンク頭の揃い踏みなのね。

『いつも各々で難癖つけてきていたのに珍しいですね』

 まあやる事は変わらないけど。



「これはこれはガルム殿下と側近の御三方おさんばか……とキンギョのフンゲフン、負け犬男爵令嬢」

「マット男爵令嬢よ! "ま"しかあってないじゃない!」

「お前誤魔化せていないからな! 言っちゃってるから! 3バカって、金魚の糞って言っちゃってるから!」

「今のワザとだろ! 絶対ワザとやってるだろ! その不遜な態度も今日までだからな!」

「今日こそ積年の恨みを晴らし、その性根叩き直してくれる!」



 壇上で騒ぐラファリィと発言の順にヴォルフ、セルゲイ、マーリスの3バカ。



「今日まで? 恨みを晴らす?――ッくす」

「そう言う寝言は1度でも私に勝ってから言ってね」

「「「「くっ!」」」」



 喰らえッ! 私が唯一悪役令嬢になって良かったと思った人を殺せる眼力ゴーゴン・アイ

『女の子としてその誇るべきところはどうかと思いますよ?』


 ラファリィと3馬鹿は屈したか……軟弱者めッ!


 おっと、ガルム様は耐えきったんだ。

『ずいっと前に進み出て全身から黄金の魔力をほとばしらせ耐えたのは、さすが王族と言ったところでしょうか』


 ガルム様……本気なのね。

『寂しいのですか?』


 そんなわけないでしょ。

 ガルム様が婚約破棄を望むなら、それも止むなしよ。

『本当にそれでいいのですね?』



 と~ぜん!


 さあ、婚約破棄に向けて一世一代の悪役令嬢……見事演じてみせるわ!



「いつもいつも物理ちからで解決できると思うなよ!」

「ふっ、戯言たわごとを……」


 ガルム様ったら何バカな事言ってんの?


「力こそ真理! 筋肉ちからこそ至高! パワーちからこそ全て! 物理ちからで解決できぬものは無し!」

『バカは貴女の方です!』

「なんという脳筋発言!?」


 ガルム様が驚愕しているけど……なんで?

『当たり前です!』



 あッ、一歩前に出たセルゲイのヤツがズレてもない眼鏡くいッした。

『あの眼鏡くいッて何の意味があるんですかね?』


「そのなんでも筋肉で片付けようとする思考は天才の私には理解の範疇を超えています」

「私より定期考査の順位が圧倒的に・・・・低いくせに天才が聞いて呆れるわ」

「テ、テストの点数が全てではないッ!」

「それはそうだけど……あんた私に勝てるもの何かあるの?」

「うがぁぁぁあ!」


『何だか今の貴女は悪役令嬢と言うよりいじめっ子みたいですよ』

 私の指摘にのたうち回るセルゲイを見ていると確かに弱い者いじめしているみたいになってくるわね。



「そういうところだ! 他人に対して思いやりが欠け情け容赦のない言動の数々に俺達は断固として立ち向かう!」


 って、今度はマーリスか……相変わらずモヒカン肩パッドの世紀末スタイルファンキーファッションね。


「あんたは強さに欠け、あまりに情け無い筋肉はガルム様の護衛としては落第よね」

『それよりもモヒカン肩パッドの方が問題では?』

 全くね。ガルム様の護衛としての自覚に欠けるわ。

『あれって貴女の発案ですよね?』


「そんな事はない! 強さより……筋肉より大切なものが人にはある!」

たわけッ! 護衛にとって最も重要なのは筋肉つよさ!! もしここで私がガルム様に危害を加えようとしたら貴様はどうするつもり? 今の貴様では私を倒す事はおろかガルム様を守る事も逃す時間稼ぎもできないわよ。それとも――」



 私が凍てつくような視線をマーリスに向けたら顔が真っ青になったわ。

『マーリスが固まってますよ。貴女の目力はもう凶器ですね』



「――また逃げ出すのかしら?」

「僕は逃げてない! 僕は逃げてない! 僕は逃げてない!」

『逃げ出すという単語にヴォルフが過敏に反応していますね』


「あんたはいつも逃げてるでしょうが! 魔法の勉強から逃げて、訓練からも逃げて、男の娘……じゃなかった女の子からも逃げて」

「ぼ、僕は男の娘じゃなーい!」


 こいつホントに男の娘に魔改造してやろうかしら?

『……本当にいじめっ子になっていますよ』



「そこまでにしろッ!」



 制止の大声を上げたのは怒りの籠った目をしたガルム様だった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る