第64話 真実は小説より気になる【STAGE 講堂】


 私の挑発にガルム様とマーリスが前衛、セルゲイが中衛、ヴォルフとラファリィが後衛の2-1ー2の戦闘陣形フォーメーションを咄嗟に組んできた。


 少しは練習してきたのね。

『殺しちゃダメですよ?』


 殺さないわよッ!

『まあ、5対1でも戦力差は圧倒的ですからね』


 ラファリィは私よりも魔力が高いって言ってなかった?

『彼女は回復と補助しかできませんから』


 彼女が魔力を攻撃に使えない以上は勝負にもならないか。

『変なフラグを立てないでください!』


「……扶助の風よく走れ『加護の追い風』!……築けよ不落の天塁てんるい『女神の守護』!……愛もて授けよ生命いのちの糧『慈愛の恵』!」

「……害意をくだけ『剛力幇助』」


『ラファリィが使用したのは敏捷性上昇、防御力上昇、経時回復力上昇ですね。ヴォルフは攻撃力上昇です』

 ラファリィとヴォルフが補助魔法バフでガルム様とマーリスの能力ちからを底上げしてきたか。


「行くぞカレリン!」

「たりゃぁぁぁあ!」


 ガルム様が正面から上段斬りで、マーリスは横から刺突……まあまあかな?

『セルゲイは能力低下デバフを試みているようですが……』


「……かの者に戒めの鎖を『堅牢なる枷鎖かさ』!」


 敏捷低下?


 とっくに『令嬢流魔闘衣術・ドレス』を使用しているからセルゲイのデバフは無効ね。

『それって本当に反則ですよね』


 ラファリィは能力上昇バフの重ね掛けを試みているのかな?

『ヴォルフは攻撃魔法の詠唱に入っていますね』


「せいッ!!」

「突きぃぃぃい!」


 う〜ん瞬殺してもいいんだけど……

『戦闘中にさすがの余裕ですね……右足を引いて左半身でガルムの上段斬りを躱し、その剣の腹を叩いて右からのマーリスの刺突にぶつけましたか。貴女のスピードならどちらも余裕で躱せたでしょうに……花を持たせているのですね』


 少しは生徒達にガルム様のカッコいいところを見せてあげないとね。

『貴女なりにガルムを気づかっていたのですか――方向はおかしいですが……ヴォルフの攻撃魔法がきますよ』


「……『氷刃連撃』!」


 ヴォルフの魔法の氷刃は令嬢流のドレスで耐魔レジスト可能よ……私ってそんなに変だった?

『氷が触れる前に霧散しましたか……はっきり言って頭おかしいまであります』


 ヒドいッ!

『ガルムは未だに未練たらたらですよ……剣撃がまた来ます』


「はあっ!」

「払いぃぃぃい!」


 今度は挟み撃ちね。ガルム様は袈裟斬りで、マーリスは左からの薙ぎ払いか……


 ガルム様が私に未練?

 まさか……

『身を沈めてマーリスの剣を下から手背で打ち上げ、ガルムの剣にぶつけて弾きましたか……ガルムは貴女に惚れています。自分でも言っていたではないですか』


 それは……そうだけど……でも、最近はあんまり関わってこなかったし……マーリスは図体ガタイの大きさを利用して体当たりしてきたか――いい判断ね。

『通常なら申し分ないのでしょうが、貴女相手では……インパクトの瞬間に右足を引きながらマーリスの腕をとって左足を引っ掛けて引き倒しましたか――本当に踊りを舞っているようです。綺麗です……見なさいガルムを』


 ガルム様……

『貴女なら分かるでしょう。攻撃しながらも貴女を見る目に殺気はありません……後は貴女の気持ち次第だと思いますよ』


 私は……



「そこまでだ!」



 剣を振り下ろそうとしたガルム様の動きを止めた――この声って!?


 私達全員が講堂の出入り口へ視線を向ければ、そこにいたのは護衛の騎士に守られてた……

『国王と王妃ですね』


「「「国王陛下!!!」」」


 何でここに!?

『さあ?』



「父上! 何故この場に……」

「何故? それは私の台詞だ」

「ガルムちゃん……どうしてこのような真似を?」


『どうやらガルムの婚約破棄を聞きつけて、取る物も取り敢えずすっ飛んで来たようですね』

 どうして?


『貴女の価値を考えれば当然でしょう』

 私の価値?


『自覚がないのですね。貴女は1人でハーンメリ賢帝国を黙らせる武力を持っているのですから、国王としては手放せないでしょう』



「どうしてですって?」


 あ、ガルム様がワナワナと震えているわ。

 さすがに国王夫妻の前では緊張しちゃってるのかしら?

『いや、あれは怒りで震えているんだと思いますよ?』



「ならば教えて差し上げましょう。カレリンは妃教育を放棄し、必要な教養を学ばず、貴族としての良識に欠け……」

『反論できません』

 そんなはずないわ!

 私はちゃんとできてる……わよね?


「何かあればすぐ暴力に訴え、傍若無人で、身勝手で、我が儘で……」

『思い当たる事しかありません』

 私そんなにヒドい!?


「そして……いつも勝手し放題で私を振り回す!」

『憐れです……心が痛みます』

 私が悪いの!?


「カレリンは我が妻として……王子妃として相応しくありません……だから私はカレリンとの婚約を破棄します!」

『一部の隙もない至極真っ当な意見です』

 あんたどっちの味方なの!


『ガルムが完璧な理論武装をしてきました! て、手強い……論破できません!』

 そんなはずないわ!

 国王様は何で黙って聞いているの?

 少しはガルム様を諌めて!



「ガルム……お前の考えはよく分かった……」



 ほらほら! 黙って聞いていた国王様が厳しい顔になったわ。

 これはガルム様の誤った考えを正してくださるに違いないわ!



「お前の意見は尤も至極!」

「そうねぇ……私も正論すぎて何も言えませんわ」


『うんうん、国王も王妃も納得の理由ですものね』

 何でよ!



「では私とカレリンの婚約は……」

「だがこの婚約破棄は無効だ……」


 ほらほらぁ!

 国王様も今回の件はガルム様の暴挙だって思ってんのよ。

『貴女はガルムと婚約破棄してもよかったのではなかったのですか?』


 うっ……それはそれよ!

 こんな不名誉な言いがかりは断固抗議よ!



「何故ですか!?」

「それは王妃マリアがな……」


 国王様がチラッと王妃様を見たけど……ん?

『王妃が顔を赤らめてますが……』


「は、母上?」

「ガルムちゃん……ごめんなさい。私はカレリンちゃんのファンなの!」


 なんですとッ!?

『貴女のファンクラブは学園の外にもあったのですね』


「ファン?」

「そうなの! 私は冒険者ギルド公認のカレリンちゃんファンクラブの会員なのよ!」


『冒険者ギルドが黒幕でしたか』

 そんなの聞いてないわよ!


『本人が知らないところで暗躍していたみたいですね』

 きっと受付のセレーナさんね!


「カレリンちゃんはね、可愛く、凛々しく、格好良く、強くて美しい最強の美少女冒険者として国中で大人気なのよ。あッ、これカレリンちゃんの肖像画ブロマイドよ」

「こ、こんな理由で……」


 プロマイド販売までやってんの!?

『ギルドの収入源になっているのでしょうね……ガルムがワナワナ震えていますよ』


「怒らないで……この秘蔵のプロマイドあげるから」

「これは!?」


 なにあれー!?

『綺麗な上段回し蹴りですね……とても凛々しいのにドレス姿だから裾から太ももが露わになって凄く煽情的です』


「この躍動感溢れる蹴り姿のパワフルさとスカートの裾から覗く白い足のエロスの融合! 大人気の1枚よ。私がファンクラブ名誉会長だから手に入れられたんだから」


『ファンクラブは王妃公認になっているのですね』

 うそぉぉぉお!


「な、なんて破廉恥な……こんな絵……こんな絵……」


『あ、ガルムが貴女のプロマイド握りしめて震えていますよ』

 そりゃあ却下の理由がこれじゃあね……


「こんな絵!……は一応頂いておきましょう」

「ガルムちゃんも好きねぇ」


『あ、懐にしまった』

 何やってんですか!?


「ですがッ! これと婚約破棄は別問題です!!」

「えぇ〜じゃあプロマイドを返して」

「こ、これは私が没収します!」

「やっぱりガルムちゃんはカレリンちゃんが好きなのねぇ」

「なッ! ち、違います!」

『大事に肖像画ワイロをしまっていては説得力に欠けますね』


 まあ、でもガルム様の言い分も尤もよね?

『この衆目で宣言した婚約破棄を撤回はできませんからねぇ』


「だがなぁガルムよ。そもそもの話し、お前とカレリン嬢の婚約破棄はできんのだ」

「馬鹿な! これだけ大勢の前で宣言したのですよ。こんな下らない理由で宣言を撤回などできようはずが……」


 さすがの私でもこれは婚約破棄以外ないと思うんですけど……違う?

『これだけ大事になれば普通はそのはずですが?』



 だけど国王様の次の言葉に――


「いや、そもそも現在お前とカレリン嬢は婚約状態にないのだ」

「は?」

 は?

『は?』


「「「はあぁぁぁぁぁぁあ!?」」」


 ――講堂中のみなの声と心が完全に一致した……

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