第八死合!悪役令嬢VS道化の転生ヒロイン!!

第38話 それは乙女ゲームの転生ヒロイン【対戦予告】


―――≪OPナレーション≫―――

「ついに悪役令嬢カレリンの前に乙女ゲームのヒロインが現れました!その名はラファリィ・マット。彼女はカレリン同様に騙されて邪神によって転生してきた元日本人なのです。そして彼女はカレリンについて世界を破壊する使者であると聞かされているようです。果たして彼女とカレリンの邂逅によっていったい何がもたらされるのでしょうか。


それでは!令嬢類最強!にレディィィゴォー」

―――――――――――――――


 

 わたしの名前はラファリィ・マット。

 ダイクン王国のマット男爵の娘なの。


 なんの変哲もない下位貴族の令嬢なんだけど……わたしには誰にも言ってない秘密があるのよ。


 実はね、わたし転生者なの。


 これは両親にだって秘密なんだから。


 わたしは地球の日本と言う国に生まれ、普通のOLとして生活してたわ。だけど、通勤中にトラック事故に巻き込まれて死んじゃったの。


 えッ? トラックに轢かれてグチャグチャのスプラッタになったのかって?


 わたしは直接トラックに衝突したわけじゃないの。


 なんかお年寄りの前に立ってトラックに挑んでいた女の子がいたけど――


 とーぜん吹っ飛ばされたわ。

 あのいったい何だったのかしら?


 えッ? だったらどうしてわたしは死んだのかって?


 その後トラックが塀に突っ込んで、何か大きな破片が飛んできてわたしの頭に直撃したのよ。


 ものすッご――い衝撃だったわ。


 誰ッ! 今、間抜けな死に方って言ったの!


 ゴホンッ!


 まあ、そんな訳でわたしは死んだんだけど、気がついたら光りの世界にいたの。そして、そこにいたのはなんと神様だったの!


 神様は不幸な――不幸だからねッ! 間抜けじゃなくって!……不幸な死に方をしたわたしを憐れんで、異世界に転生させてくれたの。


 その異世界と言うのが、前世でわたしがはまっていた乙女ゲーム『恋の魔法を教えます』――略して『恋魔教』なの!


 凄いわ! この乙女ゲームの世界のヒロインになったのよわたし!

 えッ!? 『恋魔教』のヒロインって、まるで怪しい新興宗教の教祖みたいだって?――失礼ねッ!


 このヒロインは現在のマット男爵が冒険者をしていた若かりし頃に同じパーティの女性との間にできた落とし胤なの。マット男爵のお兄さんが急死したため、爵位を継ぐため連れ戻されて2人は離れ離れに――なんて悲劇!


 その女性は悲嘆に暮れ儚くなってしまったの――泣けるわ!


 遺されたヒロインは幼少期を孤児院で過ごす事になるの。マット男爵は愛する女性がヒロインを産み、儚くなっていると後になって知り、慌ててヒロインを孤児院から引き取るのよ。


 その時のヒロインは14歳。

 そして1年の令嬢教育を経てダイクン魔法学園に通う事になる。

 これが、あらすじで、ゲームは入学式から始まるのよ。


 キレイで素敵なストーリーよね。

 ヒロインの両親の悲恋もこのゲームのスパイス――誰ッ! 今ベタ過ぎって言ったの!


 そんな生前に大好きでやり込んだ乙女ゲームの世界でヒロインできるなんて夢のよう……


 ただ、神様から転生のための交換条件があったの。


 とある女神がこの世界の秩序を乱し、破滅をもたらそうとしているらしいの。女神はとても美しい容姿とは対極的に、その中身は捻くれて性格が悪いんだって。


 世界の流れをゲームの設定から大きく逸脱させる事で、この世界の人々を混乱と絶望の坩堝るつぼに放り込んで愉悦する最低最悪の邪神――女神ルナテラス!


 世界の流れを正常に戻し、この性悪女神の思惑を挫いて欲しいというもの。


 とーぜん答えはYesよ!

 義を見てせざるは勇無きなりって言うでしょ。


 恩を受けたら返すのは日本人として当たり前の行いよねッ!


 だからわたしは、この世界をあるべき姿にするため、『恋魔教』のヒロインであるラファリィ・マット(デフォルト名)に転生した。


 生まれたばかりで、まだ何もできないわたしだけど、これからヒロインとして恥ずかしくないように生きなくっちゃね。


 よくある乙女ゲーム転生もののお話だと、転生ヒロインが己の力やゲームの矯正力に胡座をかいて、逆ハー狙って「ざまぁ!」されるのが定番だけど、わたしは日本人として恥じないようにきちんと清く正しく美しく生きるわよ。


 ヒロイン力にもゲームの矯正力にも頼らず、自分を磨いて謙虚、堅実をモットーに生きていくのよ!


 ちゃんと勉強もするし、礼儀作法だっておろそかにしない。

 それに魔法も頑張る!

 いえ、魔法の勉強はむしろ楽しみよね。


 だって魔法よ魔法!


 日本人なら誰だってわくわくするわよね。


 しかもこの世界は魔法が絶対優位なのよ。そこで高い魔力持ちのヒロインになれたんだから!


 これを頑張らずして何を頑張るって言うの?


 もちろん神様の依頼もちゃんとやるわ。この世界の秩序と平和を守るため、一生懸命ゲームのストーリーを死守するわよ!


 だけど誰を攻略すればいいのかしら?

 攻略対象は隠しキャラも入れると意外と多いのよね。


 え? そこは全員を堕とす逆ハーじゃないのかって?

 冗談言わないでよね。私は生粋の日本人よ。


 日本は一夫一妻なの!

 逆ハーなんて気持ち悪い!

 私はたった1人と想い想われたいの!

 ドゥーユーアンダースターン?


 王道なら第2王子のガルム・ダイクンよね。

 名前は厳ついんだけど、きちんと正統派の王子様なのよ。

 そして次点で側近の3人になるんだけど……


 ホントはできればマリク・タイゾンかタクマ・ジュダーがいいのよね。

 だって高位貴族の奥さんって大変そうじゃない?

 王妃なんて論外よね。


 それに、ガルム王子やその側近を攻略した場合、悪役令嬢のカレリンの顛末が悲惨なのよ。いくら世界のためと言っても可哀想でしょ?


 何とか処刑ルートは避けて修道院行きや国外追放あたりを狙って、後から助けてあげないと。


 なに?

 悪役令嬢を懲らしめないのかって?


 しないわよ、そんな事。

 だって、わたし純日本人らしい小心者の小市民なんだから!


 悪い!

 和を以って尊しとなす。

 長い物には巻かれよ。

 お・も・て・な・し。

 が日本人の心なのよ!


 よくある小説みたく悪役令嬢を陥れて処刑して悦に入るなんてマネできるわけないでしょ。


 それにカレリンの虐待される生い立ち知ってる身としては同情しちゃうのよね。空気を読むのが日本人ってもんでしょ。



 だけど――


 まだ赤ん坊だった私がそんなことをツラツラ考えていたら、私を転生させてくれた神様が枕元に現れてお告げをしてくれたの。


 例の邪神が神様の動きを察知して、悪役令嬢カレリンに自分の手足となる者を転生させたって。


 なんて性悪な女神なのかしら。


 どうやらカレリンに転生した魂も日本人みたいだし、きっと性悪女神に騙されているだけよね?


 きっと話し合えば分かり合えるはず。

 同じ日本人なんだもん。


 方針は決定ね。


 まず、令嬢教育や貴族としての学問、そして絶対外せないのが魔法の勉強!

 ヒロインの力を最大限発揮するため努力する。


 そのためには設定よりも早目にマット男爵に引き取ってもらわないと。教育は早ければ早いほどいいのよ。


 何としても魔法学園入学までに、ヒロインとしての能力をMAXにしないと!


 このゲームは一部の攻略対象を除いて、どの攻略対象とハッピーエンドを迎えるにしても全体的に攻略対象達との友好関係を上げておかないといけないわ。


 だから入学式から好感度イベントを総ナメにするつもり。

 大丈夫! このゲームをやり込んだわたしならできる!!


 次に悪役令嬢カレリンの対処ね。彼女が邪神に騙されているのなら助けてあげないと。それを見極めるためにも序盤で彼女と接触したいけど、こちらは入学するまでは保留ね。


 よーし! そうと決まったら今からできる事を考えないとね。


 生まれたての赤ちゃんにもできる事って……異世界ものの定番!

 やっぱりあれよね――魔力量アップ!


 とにかく色々試してみましょう。どうせ赤ちゃんの今では他にする事もないんだし。


 さあ、世界一勤勉な国民性を見せてあげるわ!

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