第36話 踊る大捜査線【閑話パート】
――(翌日)――
早朝の王都――
まだ、人も
纏っている制服と襟元にある1年生の校章から、今年の王立魔法学園の新入生だと分かる。実際、彼女は魔法学園の方へ向かっている。
彼女の身長は低く、起伏に乏しい身体つきだが、制服の裾から白く細い華奢な四肢が覗き、その顔はとても愛らしい。
男なら誰もが庇護欲を掻き立てられそうな、見た目は清純で可憐な美少女だ。
少女は王立魔法学園の正門の前に到着すると立ち止まって学園を眺めた。門の前には守衛が2人不審者が入ってこないように目を光らせているが、学園の生徒達の姿は全く見えない。
当然だ――始業まで時間がかなりある。
だが、この少女には、この時間に学園へやって来なければならない訳があった。
「入学して2ヶ月……ガルム君や側近の3人の攻略は順調――」
攻略――そう、彼女はヒロインだった。
入学式以来この2ヶ月で彼女がクリアしてきたイベントが頭に浮かぶ。
オープニングイベントを順調に
今では、本丸の第2王子ガルム・ダイクンも攻略が終了している。
「――なんだけど攻略対象やイベント関連のキャラの様子がおかしいのよね」
少女がこの時間に登校してきた理由がそれである。
「確かにガルム君達は簡単に攻略できたんだけど――いえ、幾らなんでも簡単過ぎたわ」
彼女が思い浮かべたのは、イベントを殆ど消化せずに陥落していった攻略対象達との数々の思い出――にもならなかった何か。
「だってガルム君達、秒で堕ちるんだもん!」
もはや攻略でも何でもない。
出会いイベント以外の数々のイベントを見る機会は無かった。
会う→話す→完了である。
これがゲームならクソゲー認定間違いなしだ。
「それに――」
おかしな点は他にもある。
「――隠れキャラの暗殺者タクマ・ジュダーは何故か用務員になっているし、悪役令嬢を失墜させるやさぐれ教師のメイヤー・ロッテンは優しい教師になってるし――」
どうにもゲームと状況が色々と剥離している。
「――そして何より不良枠のマリク・タイゾン君の姿が見当たらないのよ!」
開始序盤からイベントがあるのはガルム達とマリクの5人。
カップラーメンより早い瞬間攻略のガルムと側近3人衆とは異なり、マリクとは会うことさえ出来ずにいる。
「ゲーム通り退院したところ迄は足跡を追えたんだけど……」
何故か彼の退院後から始まるはずのイベントが全く発生しないのだ。
ゲームの設定通りにマリクは入学式の後に大怪我を負って入院した――悪役令嬢カレリン・アレクサンドールの手によって。
「やっぱり原因は彼女なのね――ッ! 悪役令嬢カレリン!」
少女の優しげな顔が一気に険しいものへと変貌した。
「ブラックな会社に潰されたわたしを憐んで、『恋の魔法を教えます』略して『恋魔教』の世界に転生させてくれた神様の言ってた通りだったわ――」
少女はいつもの穏和な表情に戻ると門衛に挨拶をして敷地内へと進む。
「――この世界を破滅に導く彼女は危険ね」
何としてもゲーム通りにストーリーを修正しなければならないと、握り拳を天に掲げ少女は決意した。
「その為にもマリク君を探さないと」
そう、今回の彼女のミッションは行方不明のマリク・タイゾンの捜索。彼女は各所への聞き込みの結果、遂にマリクが他の不良仲間と早朝や放課後に何かをしているという情報を掴んだ。
そして、その影にいるのは、やはり悪役令嬢カレリン・アレクサンドール。
「必ずマリク君を悪役令嬢の魔の手から救ってみせるわ!」
意気込んでマリク達がいると
「情報では、彼らはいつも校庭に集まっているらし――ッいぃぃぃ!!!」
目的地に到着した少女の眼前に広がる異様な光景に絶句した。
学園が綺麗だったのだ。
いや貴族の通うこの学園は確かにいつも綺麗だ。
しかし、今までの綺麗の次元とはレベルが違った。
「学園が光り輝いていてる……(な…
文字通り余りの清潔さに学園が光り輝いていた。
まるで神殿のような清浄な空気さえ感じられる。
しかし、そんなものはまだmだ序の口であった。
その校庭で活動する彼らの異様さに比べれば……
見れば2〜30人ほどの男子生徒が清掃活動に
いや、清掃そのものは良い事だ。
それはいい…それはいいのだが……
しかし――ッ!
「なんでみんなモヒカン!? なんでみんな肩パッドぉぉぉ!?」
そう、彼らは全員その髪型をモヒカンにし、ショルダーには分厚い肩パッドをしていた
――
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