第35話 本日をもって貴様らはウジ虫を卒業するッ!【STAGE 校庭】

 

【訓練最終日】



「本日をもって貴様ら清掃隊新兵ニュービーはウジ虫を卒業する!」



 私の激励が校庭に響く――



 仮説壇上から眺めるは整列する元落伍者ヤンキーだった精鋭の清掃隊員達。

 訓練を終え一皮剝けた清掃隊新兵ニュービー達は綺麗に整列し、一言も発さずに私の言葉に耳を傾けている。



 誰一人欠けることなくカレリンズ・ブートキャンプを乗り越えるなんて――ブラボーッ!



 みな精悍な良い面構えよ!

『そうですか? みんな表情が死んでいるだけでは?』


 ケチをつけないで!

 見なさい! 彼らの自信に満ち溢れた顔を!

『なんだか異様な雰囲気ですが……』


 嘆かわしいわ。ポンコツには理解できないのね。

 そこで大人しく彼らの勇姿を眺めていなさい!



「本日から貴様らは清掃隊員である!」



 見て!――あの落ちこぼれだったゴマー・パイエル二等兵さえも今では精悍な清掃員よ。

『まあ、贅肉も落ちて頼もしくはなっていますね……目は死んだ魚のようですが』



「貴様ら清掃隊員は兄弟の絆に結ばれる。

 いつか貴様らのくたばるその日まで、

 どこにいようと清掃隊員は貴様らの兄弟だ!」


 このキャンプを乗り越え、彼らは自分に対する自信だけではなく、母校への愛と仲間との団結力も養ったのよ!


 見よ! 彼らの素晴らしい強き友愛!

 褒め讃えよ! 彼らの深き愛校心!


『これって悪質な洗脳じゃないんですか!?』

 とんでもない誹謗中傷だわ!



「多くは清掃活動に従事する。

 ある者は二度と戻らない。

 だが肝に銘じておけ!

 どうせ清掃隊員は死ぬ。

 死ぬために我々は存在する。

 だがこの魔法学園は永遠である。

 つまり――貴様ら清掃隊員も永遠である!」

「「「軍曹ぉ〜〜〜!!!」」」


 全員が咽び泣く――ムサイわね。

『酷いッ! さっきまで褒めていたくせに』



「貴様らは私の誇りだ! そして学園の希望だ! 各員が立派な清掃屋スイーパーだ!」



 私が新兵一人一人をゆっくり見回し満足げに頷くと、感極まった新兵がすすり泣く。



「今の貴様らなら、この学園の――愛する我らの母校の秩序と、平和と、衛生を守ってくれると信じている」

「「「サーイエッサー!」」」



 私は訓練で1番最初に反抗してきた新兵に顔を向けた。


「ジョーカー・ティーヴィス二等兵!」

「サーイエッサー!」

「貴様達、清掃隊員の仕事はなんだ!」

「我ら愛する学園の衛生環境を守るため、清掃活動に従事する事であります!」


 その答えに私は満足気に頷く。

 次に顔を向けるのは、この隊きっての落ちこぼれだった新兵――


「ゴマー・パイエル二等兵!」

「サーイエッサー!」

「では、清掃活動とはなんだ!」

「我ら愛する学園に蔓延はびこるゴミ屑や汚物どもを適切に処理する事であります!」


 模範的回答よ! 良い仕上がりね。

 顔つきも、体つきも申し分ないわッ!――ナイス筋肉!


「良い回答だ! これでカレリンズ・ブートキャンプは全ての課程を修了する! 残すは新兵卒業のための最終選抜試験のみである!」


 全員がこれから行う試験への不安と緊張に顔を強張らせる。



「この試験を突破する事は非情に難しい。この場にいる貴様ら新兵の内の幾人かは道半ばで挫折するかもしれない……しかし、私は信じている!

――この2ヶ月の訓練を乗り越えた貴様らの一人一人がどの様な難局にも立ち向かえるほどに屈強で頼もしく成長したと!

――仲間が倒れれば手を差し伸べ、友が苦難に苦しめば助けに向かい、同じ清掃隊員が強敵に遭遇すれば一丸となって立ち向かうと!」


 私は拳を握りしめ、新兵達を鼓舞する。見れば表情にあった不安と緊張は和らいでいた。試練を乗り越えた自信と誇りを取り戻したようね。


「私は確信している!――貴様らは誰一人欠けることなく、この試練を乗り越えることができると!!!」

「「「サーイエッサー!」」」


「この最終試験を乗り越えて初めて貴様らは人となる! 新兵を卒業する!――本物の清掃隊員となるのだ!」


 元不良の新兵達がみな大きく頷く。



 さて締めるとしましょう。

 私は大きく息を吸い込み――


「貴様ら――ッ! ゴミ屑の処理方法はなんだ!!」

「「「排除! 排除! 排除!」」」


「――ッ汚物は発見次第どうする!!」

「「「消毒! 消毒! 消毒!」」」



「この学園にはまだ以前の貴様らのようなクズが蔓延っている! 貴様らの最終試験せいそうは、そんなゴミ屑や汚れを見つけ出して殺処分サーチ・アンド・デストロイするだけだ――準備はいいかッ!」

「「「サーイエッサー!!!」」」



「貴様らは学園の清掃を望むか? 情け容赦ないクソどもの清掃を望むか? 清掃スキルの限りを尽くし三千世界のクズどもをことごとく処分する様な清掃を望むか?」

「「「工和ガンホー!  工和ガンホー!  工和ガンホー!」」」



「よろしい! ならば清掃クリーンだ!――状況開始かかれッ!」

「「「サーイエッサー!」」」




 こうして《カレリンズ・ブートキャンプ》という試練を乗り越え、不良どもは最終試験を無事に全員が突破した。

『無事なんですか? これ本当に無事と言えるんですか!?』



 みなを見れば、決意と自信とやる気と――筋肉に溢れている。

『どこまでも筋肉なんですね……』



 この学園に蔓延はびこるクズどもを排除し、常に学園の衛生環境を整える立派な清掃隊員達の誕生!――これは疑う余地のない学園史に残る偉業だッ!




 これで学園のゴミ屑どもが消えるばかりか、それらを有効活用できるわ。再利用リサイクルもバッチリよ! 間違いなくメイヤー先生の株も上がるわね――メイヤー先生! 私はやり遂げました!

『間違っています! 激しく何かが間違っています!!』




 よし! 調きょ――状況終了!

『――ッ! 貴女やっぱり分かっていてやっていたでしょう!!』




 K.O.



 YOU WIN

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