第31話 炎の友情?【STAGE 校舎裏】


「タクマ?」



 その用務員服の男はタクマだった。



「この危険物なんとかしてくれよ」



 そして、私の眼前にずいっと突き出されたタクマが手にしていた白い物体……


「わん!」

「フェンリル!?」


 なんてこったい!

 こいつ勝手に屋敷を抜け出してきたのね。


 えッ!? なに? 「とうが立ったメイドではなく、若くボインボインのねぇちゃんがいる楽園を俺から奪うな!」ですって!?



「こいつ勝手に学園の中に入って――」

「「「ぎゃ~はっはっはっはっはっは――っ!!!」」」


 タクマが苦情を言っていると、不良どもがバカ笑を始めたんですが……うっさいわね!


「おい聞いたかぁ?」

「あのとっぽい用務員のおっさんがタクマだとよぉ」

「そして子犬がフェンリルだってさ」

「カレリン・アレクサンドール、噂ほどではないわっ!」


 周囲で私たちを蔑む言動が巻き起こる――なんなのよ!?

『貴女の数々の噂が偽りであると思われたのでしょう……』



「なんだぁ? このガキどもは……」


 顔を顰めて不愉快を表にだすタクマ。

 一方、フェンリルは――くぁ~っと欠伸をしてる。

 興味無さそうね。


 フェンリル……あんたバカにされてんのよ?

 え?「どうでもいいって?」


 西方最強の魔獣としてのプライドは無いの?


 なに?「プライドで餌がもらえるか? 女の子にチヤホヤしてもらえるか? クソの役にも立たんプライドなんぞ犬にでも食わせておけ」ですって!

『貴方がその犬畜生でしょう!』



「とんだ大魔獣とアダマンタイト級冒険者様だぜ!」

「大方、他の噂も同じように作ったもんなんだろ?」

「へっ! ビビって損したぜ」

「ぎゃははは――おめぇやっぱビビッてたんじゃねぇか!」



 バカ笑いを始める不良ども……

 現金なものね。

 噂が虚像だと分かって、途端に元気づいたわ――虚像じゃないけど。



 そして、ここに活気づくバカが一人――


「どうすんだ? もうはったりは効かないぜ」


 ――マリクが得意げにそう言ってくるのだけれど……



「はったり?」

「――?」



 私が不思議そうに小首を傾げてタクマの方を見れば、タクマも肩をすくめて首を振ってる。



「何こいつ? さっきまでビビって縮み上がってたくせに。カッコ悪!――プーックスクス!」

「勝てるかもと思ったら、途端に強気になるあたり恥かしい奴だな」

『小物臭がぷんぷんしますね(こいつ攻略対象のくせに)』



 私が嘲笑し、タクマの呆れるとマリクが怒声を上げてきたんですけど。


「ああっ! いつまで強がってやがる! もうブラフだって分かってるんだよ!」

「顔真っ赤! ウケるw」

『貴女はどうしてそう煽るのか……』


 ビシィッ!!!


「言ってろ! もう誇張された噂に踊らされねぇ」


 なんかこいつ、ジョジョ立ちで指差してきて。

『地味にイラッときますね』


「なぁ、嬢ちゃん――このバカ殺ってもいいか?」

「ダメよ。こんなザコでも私の獲物よ」



 タクマ! 人の獲物に手を出すんじゃありません。


 さて、どう料理してやりましょうか。


 マリクは右拳を顎下あたり、左拳を僅かに前に出す構え――いわゆるボクシングのオーソドックススタイル取ってるわね。


 喧嘩屋にしては堂に入っている。

 ただの腕力に物を言わせただけの不良ではなさそうね。



「だからもうフェイクは通じねぇって!」



 右足と左足を前後に軽くステップを踏んでいたマリクが、右足を大きく前にスライドさせながら前傾姿勢で身を沈め、私との距離を一気に縮めてきた。


 悪くないフットワーク――


 ダンッ!!!


 マリクは左足を強く踏み込み、更に身を沈めると下からすくい上げるように右拳で鳩尾みぞおちを狙ってくる――ボディアッパーだ。


「終わりだ!」


 ドヤ顔のマリク。



 だけど……



「遅いッ!」

 バシンッ!



 ハエの止まるようなブローね。

 こんなの平手打ちで簡単に横へはたいて流せるわ。

『いや、常人からしたらかなり速いですよ?』



「な、なんだと!?」



 たくッ――この程度で驚愕しないでよ!

 あまりの低レベルに私は怒り心頭よ!



「貧弱貧弱ゥ…ちょいとでも私にかなうとでも思ったか! マヌケがァ〜〜!」

「なんだと!?」


 さて、お返しのジョジョ立ち――ビシィッ!!!

 やられるとイラッとくるけど、やると楽しいわね。


「遅い! 鈍い! 弱い!――未熟! 未熟ゥ!」

「み、未熟だと?」


「一流の格闘家ならあんた程度のブローなんて簡単に防げるわよ!」

「クソったれ! これならどうだ!」


 マリクのやつギリッと歯ぎしりしてる―悔しいのぉ悔しいのぉ

『貴女ホントに性格悪いですよ』


 おっと!

 こいつ狂ったように襲い掛かってきた。


「オラオラオラオラ! オラオラオラオラ! オラオラオラオラ――――ッ!!!」


 なんですかぁ――オラオラですか?


「無駄無駄無駄無駄! 無駄無駄無駄無駄! 無駄無駄無駄無駄――――ッ!!!」


 そんなガムシャラなおらおらブローなんて簡単に叩き落とせるわよ――ハエを叩き落とすようなもんね。


「ハァハァハァ……」


 こいつもう息が上がったの?

 ホント貧弱! 貧弱ゥ!


「飽きたわ……あんたの児戯とは違う本物の打撃技を――見せてあげるッ!」


 マリクに対し正面に向いて腰を落とし、左腕を前に突き出し右拳を脇に引く――これぞ正拳突きの構え!


「くっ! オレのフットワークでどんな攻撃もかわしてやる!」

「躱す?……ふふふ、あーっはっはっはっ……」


 おもわず笑っちゃったわ。

 こいつコメディアンの才能あるんじゃね?


「躱せるわけがないでしょう。令嬢流魔闘衣術――『羽衣』!」


 この技は『ドレス』とほぼ同じく全身に魔力を纏い、全ての能力を向上させるもの。

 違いは纏う魔力量だけ。


 『ドレス』よりも圧倒的に魔力量を抑えている。まるで、薄い膜を羽織っているような感じね。


 つまりは手加減技ってわけ。


 マリクが身構えたけど……私の攻撃を受けるつもり?――ウケるw


 私の正拳突きを躱す?

 無理に決まってるでしょ!


 私の拳を受け止める?

 もっと無理でしょ!


「格の違いを教えてあげるッ!」


 振り込み左腕を引き込むと同時に右拳をマリクのどてっぱらにねじり込むように叩き込む――打つべし!!


「あべしッ!!!」


 ありゃりゃ。

 あっさりお腹を抱えて前に倒れ伏しちゃった。


「これが本物のブローよ」


 ちょっとカッコつけて告げるがッ――なによこいつ!


 せっかく教えてあげているのに聞いていないわ!

『ピクリとも動きません……既に気絶していますよ』


「え? もう終わりなの?」


 ちょんちょんとマリクを突くが――へんじがないただのしかばねのようだ……


「ん~~~」


 さてどうしましょう?


 周囲に視線を送ると、ボスを倒された不良どもが戦々恐々としている。


「ふむ……次に死にたいやつ前にでろ!」

 くいッ!くいッ!と手招きするが――


 なにこいつら?

 あれだけ威勢が良かったくせに尻込みして。


「誰もこないの?ええい!面倒くさい!全員まとめてかかってこいッ!」

「「「――――ッ!!!」」」




『ここからカレリンによる一方的虐殺ショーが開幕し、途中で目を覚ましたマリクを含めて不良達は全員ぼこぼこにされたのでした……』

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