第30話 チャンプを継ぐ男【STAGE 校舎裏】


 校舎裏へと続く通路の中央で腰に手を当てデンと胸を張る。

『その胸を張るポーズだとホントに強大なおっぱいがデデン!ですね』


 くッ!――あんた私より大きいでしょ!

『私はそんな破廉恥なポーズはしません。胸を張ると胸圧でブラウスのボタンが飛びますよ』


 ボタンの耐久力がゼロになる前に決着をつけないと。

『そんな危険なフラグを立てるのは止めなさい……』


「さて、情報ではマリク一党はここの校舎裏にいることが多いとのことだけど……」

『校舎裏は不良のたまり場の代名詞みたいなものですからね』


 このあたりが目的の場所よね?

 だんだん周囲が薄暗く汚くなってくんですけど……なんで貴族の通う学園にこんな場所があるのよ。

『まあ、お約束というやつでしょう』


 いらないお約束ね。

『おっと、さっそくお出ましのようですよ』



 まあ、察知はしていたんだけど、周りから人相の悪い男たちがわらわらと涌いてきやがりましたよ。


 どいつもこいつも制服をひどく着崩しているけれど、間違いなく我が校の制服ね。


 うーん……こんな悪人ヅラでも貴族の子弟なのよね?


「ヒュー! いい女だぜ」

「へっへっへっへっ、見ろよあのデカい胸」

「クゥーたまんねぇ」

「マブいねーちゃんオレたちと遊ばない?」


 お決まりの口汚いセリフね……

 いや、マブいはもう死語じゃないかしら?

『一周回って新しいかもしれません』


「あんた達が私のメイヤー先生を困らせる諸悪の根源ね」



 ざっと見回して、おおよそ20人くらい?

 少ないわね。

 がっかりだわ。

『この人数を相手にそんなこと言える令嬢は貴女だけですよ』



「校舎裏のじめじめして汚らしい場所ね。あんた達ゴミ屑どものたまり場としてはうってつけね」

『相変わらず煽りますね』


「なんだぁ!」

「このクソアマ!」

「犯すぞゴラァ!」


 生きた化石ヤンキーどもがいきり立っちゃって。

 この程度で怒るなんてカルシウムが足りてないんじゃない?



「私のメイヤー先生のお手を煩わせたのは貴方たちね! 先生を困らせる学園の汚物は消毒よ!――てめえらに今日を生きる資格はねぇ!!」

『貴女はどこの世紀末救世主ですか!』


「なんだとぉ!」

「殺すぞゴラ゙ァ!」

「チョーシこいてんじゃねぇぞゴラ゙ぁ!」


 おうおう! 一丁前に半人前未満どもが殺気だっているわ。

『ボキャブラリーも半人前未満のようです』



 その時――

「ちっ!」



 何こいつ?

 デカいずうたいで大きな舌打ちをしちゃって……態度もデカいわね。

『態度のデカさは貴女にだけは言われたくありませんよ』


 ん~?

 青い髪に碧い瞳。

 高身長でガタイがよく。

 顔もこいつらの中ではカッコいい方。

 だらしなく着ている制服のブレザーには最高学年の校章エンブレム


 この特徴は情報通りね。

 間違いない。


 こいつが諸悪の根源――マリク・タイゾン!


「おい! 痛い目みねぇうちに消えな」


 何その恫喝おどし

 ちゃんちゃらおかしいっての。


「はん! 弱い者イジメしかできないヤツが随分と粋がるじゃない」

「オレは弱い者イジメなんてしてねぇ!」


 弱い者イジメする奴はみんなそう言うのよ。

『盛大なブーメランに聞こえますが……』


「オレはワルだが硬派なんだよ!」

「弱い者イジメばかりする絶滅危惧種ヤンキーども番長あたま気取って何が硬派よ!」


「なッ! ひ弱な女や子供に手を出すようなカッコ悪いマネするかよ!」

「男にだってひ弱な人はいるでしょうに。女子供に手を出さないことを免罪符にしているの?――プーックスクス!」


「このぉ! オレは最高学年ヘヴィー級絶対強者チャンピオンだ! 強いヤツにしか興味はねぇ!」

「プゲラ――ッ! サル山の大将の癖に。ボス猿がチャンプとか烏滸おこがましいのよ!」


「てめぇ……その軽口の代償は高くつくぜ!」

「戦う力も満足にない者しか相手できないあんたたち落ちこぼれに何ができるのかしら?」


 怒らせ過ぎた?

 血管が浮きまくって、いよいよマリクの顔に青筋が入りきらないわね。

『煽りすぎですよ』



「魔法が使えるからって勝てると思うなよ」

「魔法? 何それオイシイノ?」

「はぁ?」


 何こいつ?

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔なんかしちゃって。


「てめぇは魔法が優位だと思ったから煽ってきたんじゃねぇのかよ?」


 どうやらマリクこいつも魔法優勢信者のようね。

 この世は物理こそが最強だというのに……嘆かわしい!



「ふっ、魔法が至上? 魔法の力が勝敗の優劣を決める? 下らない!」



 胸を反らしてマリクを睥睨してやる。

 あ、まずい――ッ!

 ブラウスのボタンが弾けそう!

『女の子なんだから気をつけなさい!』



「魔法なんて使わせる前に全員ぶっ潰してきたわ。まあ、魔法なんて使われたところで……」


 私はマリクに向かって拳を握って突き出してみせる。


「拳で粉砕すればいいのよ」

『そん真似は貴女しかできません!』

 私の拳は魔法を突く拳よ!


「私を誰だと思ってやがる! この拳一つで数々の敵と戦ってきたのよ……今のところ、このカレリン・アレクサンドールより強い奴はいなかったわ」


 ああ、早く私より強い奴に会いに行きたい。



 ザワ… ザワ…

「カ、カレリン・アレクサンドールだと!」

「最年少でオリハルコン級冒険者になったっていう?」

「噂では『スピードスター』タクマ・ジュダーを一蹴したとか……」

「オレは200人斬りして死体の山を築いたと聞いたぞ」

「スタンピードで溢れた魔獣を討伐隊ごと全滅させたらしいな」

「その時に西の大魔獣フェンリルさえも討伐したってよ」



 ヤンキー共が私の名前でビビってるわ。

 私も随分と有名人になったものね。

『悪名の方が高そうですが』


「て、てめぇがあの・・カレリン・アレクサンドールだと!」

「あのがどのかは知らないけど、私がアレクサンドール侯爵の娘カレリンよ!」


 ふふふ……

 恐れおののけ!

 泣き喚け!



 ヒソ… ヒソ…

「モノホンか?」

「はったりだろ?」

「じゃあお前行けよ」

「いやオレ今日は調子悪くて……」

「ビビってんのかよ」

「な――ッ!ビビッてないしぃ!調子よければワンパンだしぃ!」



 ふむ……これはこのまま試合終了じけんかいけつかしら?



「おおい、嬢ちゃん! こんなとこにいたのか――まったく探したぜ」



 一件落着と思っていたら、用務員服の男に声をかけられたんですが……ってッ! その手に持っている白い物体は!!!

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