第24話 迷きゃっぱ―鳥の飛び立つメカニズム―【STAGE 中央広場】


 今日の私の服装は淡い緑色のAラインのワンピースに、つばの広い麦わら帽子。


 いつもの令嬢スタイルや冒険者スタイルとは違う街娘がちょっとおしゃれしたような感じね。


「わんわん!」


 嬉し気に尻尾を振って走り寄ってきたフェンリルに咥えていたリードを首輪につけると、一緒に正門を抜けて屋敷を出た。



『フェンリルは人語を解していたはずですが……』

 子犬の姿だと喋れないんだって。


『しかし、リードを付けられに来るフェンリルって……』

 リードはフェンリル的にはおしゃれみたいよ。


 時々首輪やリードつけた自分の姿を鏡で見入っているわ。

『犬の分際で色気付きおって』


 街を歩いていると、みんなから餌もらったり女の子にチヤホヤされるの。

 一度それに味を占めちゃって、外出しようとすると絶対についてくるの。

『もう野生のカケラもありませんね』


 太るからあんまり餌を与えないでって言っているんだけど、フェンリルにジーッと見られるとみんな餌あげちゃうのよね。

『散歩の意味がないですね。それなのにどうして街まで?』


 私にも日課があるから。

『日課……ですか?』



 フェンリルのリードを握りながら私は目的地に向けて街中を歩いていく。


「カレリン様こんにちは」

「こんち!」

「お嬢!この間は助かりました」

「いやいや」

「カレリンちゃん!最近ギルドに顔を出さないじゃない」

「今お父様にギルド出入り禁止令出されてんの」

「嬢ちゃん一狩り行こうぜ」

「だから今はリームーだって!」


 行き交う人々の中に顔見知りが多いせいかやたら声を掛けられる。


 面倒だけどそれに挨拶や軽口などをいちいち返す。

『なかなかの人気ですね』


 冒険者としてだいぶん活躍してるからじゃない?

『冒険者以外の方も大勢いますが?』


 まあ、しょっちゅう街に来てるしね。

『そうなんですか……それで、この街の広場が目的地ですか?』


 ええ、そうよ。



 私は広場中央の噴水あたりでリードを外すとフェンリルがさっそく餌をくれそうな(胸の大きな)若い娘へと突撃をかけてるわ。


 先々で若い娘の黄色い歓声が上がってるわね。

『もはや魔獣の本能も失ってますね』


 餌さえもらえればフェンリルは無害よ。

 あれは放っておきましょう。


 こっちも間もなくしたら来るわ。

『来るって……もしかしてデートですか!?』


 なんであんたが嬉しそうなの?

『貴女もやっと色気づいたのかと思うと……』


 あんたは私のおかんか!

 デートなんてするわけないでしょ!

『何故!? いいじゃないですかデート。逢引、逢瀬、密会、乙女なら憧れるワードでしょう』


 あんたホントに昭和の親父なんじゃないの?

 だいたい今の私が異性に興味持てるわけないでしょ。

『どうしてですか?』


 私は12歳よ。

『そうですね。見た目は随分おとなっぽいですが』


 だけど中身は元女子高生なのよ。

 とても同年代と付き合う気にはなれないわよ。


 悪いけど私にショタの趣味はないの。

『歳上とならいいのでは?』


 12歳と付き合う歳上男性ってロリコンじゃない!?


 いやよ気持ち悪い。

『貴女の容姿なら十分ありと思うんですが、まあ仕方ありません。それではいったい誰と待ち合わせを?』

 もう来たわ。


 私は空を見上げた。

『あれは……』



 パタパタ―― パタパタ――

  パタパタ―― パタパタ――


『鳥?』


 白に青いラインの入った数羽の小鳥たち……

 私の周りに群がってくる。

『かなり人に慣れていますね』



 チチチチチ……

  チチチチチ……



 鳥たちが期待の眼差しで私を見上げる。それに応えるように私が鳥の餌を取り出すと、彼らは肩や腕に飛び乗ってきた。


「こらこら、そんなにがっつかないの」

『随分と貴女に懐いているのですね』

 けっこう餌付けしたからね。


 私は小鳥たちに順に餌を与えていく。


『囲まれた鳥と戯れる少女ですか……ホントに絵になりますね』

 ん? ありがと。


『で、鳥を餌付けして、いったい貴女は何をしているんです?』

 見ての通り小鳥たちと戯れているのよ。


 時折、小鳥たちが翼をパタパタと羽ばたかせていたが、食べ終わった後も飛び立っていかない。


 小鳥たちも私から離れたくないのかしら?

 私の魅力は種族も超えるのね。

 ふっ、美しすぎるのも罪ね。

『……』


 そんな疑りの目で見ないでよ。

 そうよ! 小鳥たちは飛び去らないのではなく、飛び立てないのよ!

『あの訓練ですか……』


 さすがサブカルの腐女神ふじょしん

『いえ私サブカルを司っていませんし、腐女子でもありませんから』


 そう……あれよ。

『(聞いてねぇし)』


 鳥の飛びたつ際のメカニズム――

 つまり一度ジャンプしてから羽ばたくという習性を利用し

 最初はじめのジャンプを自らの肌に感じ取り手をわずかに下げ

 初動作を封じることにより飛びたたせないというものである



 これで機を読み、機を合わせる訓練を行なっているのよ。

『貴女はどこぞのグラップラーですか!?』


 いつかは地上最強の生物を打倒しないといけないしね。

『全羽同時にそれをやる貴女はもう人間を超越していますよ』


 これで、1対1タイマンだけでなく、多対1でも機を読み切れる自信がついたわ。

『貴女はいったい何を目指しているのか……』


 もちろん霊長類最強よ!

『そうでした……』


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