第25話 ハートフル軍曹「本日よりヒゲモジャと呼ぶ良い名前だろ?」【STAGE 街中】
もうこの特訓ももう十分ね。
さてと……
「フェンリル~帰るわよ〜」
お気に入りのお姉さんの(現段階で私より大きい)胸で恍惚の表情を浮かべるフェンリルを呼びつける。
『大魔獣から
あッ! フェンリルのやつ少し嫌そうな顔をしたわね。
この野郎!
私がちょっと威圧すると、フェンリルは慌ててお姉さんの腕から飛び降りて尻尾を丸めてすっ飛んできた。
『
有無を言わせずフェンリルにリードを繋げると私は家路についた。
その私の耳に女の子の鳴き声が届いた。
その発生源では小さな女の子の前でオタオタするヒゲモジャの姿とその周囲を何事かと見守る人だかり。
『あの髭の大男は確か山賊の……』
ええそうよ。
あれから全員お父様に売り渡して私の小遣いとなった男よ。
『貴女という人は……』
いいじゃない。
きちんとした仕事を斡旋してあげたんだから。
『
失礼ね。
彼らも服役した後は、お父様がきちんと賃金を払っているわよ。
『お父上はまともな方のようで安心しました』
まあ、最低賃金すれすれ……いえ少し割っているけど。
『完全にブラックでした!?』
今ではアレクサンドール領の貴重な
『もと山賊ですよね?大丈夫なのですか?』
奴の牙はバッキバキにへし折ったから大丈夫よ。
今じゃ大人しいものよ。
『見た目は恐いままですけどね』
そうなのよね。
見た目はそのまま。
あのナリで子供に近づくから恐がられちゃって……
『そりゃあの巨漢でヒゲモジャ強面ですからね』
全くあのバカは!
毎度々々懲りないんだから!
「何をやっているの!」
私ヒゲモジャと女の子の間に立って一喝すると途端にヒゲモジャは顔を青くし、へこへこと委縮した。
でっかい図体して情けない。
『貴女が恐怖のどん底に落としたからでしょう』
「こ、これは教官!」
『教官?』
山賊たちに私の考案した矯正プログラムを施したのよ。
『……内容は聞かない方がよさそうです』
「ヒゲモジャ! 民間人には迷惑をかけるなとあれほど言ったでしょう」
「い、いえ自分はただ……」
「口答えするな!」
「サーイエッサー!」
『ヒゲモジャが敬礼している……』
矯正プログラムの参考にしたのは前世の映画『フルメタル・ジャンパー』(注1)のハートフル軍曹(注2)よ。
彼はわざと嫌われ者になりながら新兵たちを一人前に育て上げる熱い男よね。
最後はみなが心を1つにして闘いに赴くの。
スポ根に通じるものがあるわ。
『……違うと思いますよ』
「それで? この女の子は誰?」
「はッ! 迷子であります教官!」
私は腕組みをして下からヒゲモジャを睥睨した。
「ふむ……保護しようとして泣かれてしまったのね」
「サーイエッサー!」
「あんたじゃ保護じゃなくて人攫いにしか見えないわよ」
「それはあんまりなお言葉であります」
「もういいわ。この子は私が保護します」
「そ、それは自分が……」
ギンッ!!!
殺気を乗せた視線をきつく送ればヒゲモジャはすぐに震え上がった。
『可哀想に……』
「この私に意見しようとは偉くなったものね」
「――!」
私は直立して硬直しているヒゲモジャの胸倉を掴むと、グイッと引き寄せた。
身長差のためヒゲモジャは情けない前傾姿勢となるが、構わず私は彼の耳元に口を近づけ囁いた。
「もう1度カレリンズ・ブートキャンプへ行きたいか?」
「サーノーサー!!!」
「そうかそうか行きたいか……近いうちに召集をかけるから楽しみにしておけ」
「サーノーサーッ! ノーサー! ノーサー! ノーッ! ノーーッ! ノォォォオッ!!!」
私は手を離すと頭を抱えて叫ぶヒゲモジャの胸をポンと軽く叩いた。
「ふふふ、そんなに喜ぶなよ」
『完全に恐慌状態に陥っていますが……』
その後、ヒゲモジャは魂が抜かれたようにフラフラと人混みの中へと消えて行った。
大丈夫かしら?
『貴女が追い詰めたんでしょう!』
『こうしてガルムのカレリン視察はとんでもない方向で幕を閉じた……』
えッ!? 見られてたの?
『カレリンに一目惚れしたガルムは……』
どこに惚れる要素が!?
《美しく、優しく、気高いところらしいですよ。あと艶めかしい脚?》
うおッ! ポンコツが増殖した!?
『王都に戻るとカレリンとの婚約を成立させようと各方面に働きかけ、この1年後、ゲームの設定通りにカレリンはめでたく彼の婚約者となったのでした』
何故に!?
――《注釈》――
注1:『フルメタルジャンパー』
某国の映画産業地区で制作された架空の国家メリケン合併国の海兵隊
注2:ハートフル軍曹
熱いハートに溢れる鬼教官。決して似た名前の叱責と罵倒、殴る蹴るの体罰与える鬼軍曹ではない。
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