第21話 独創的な彼女【STAGE 庭園】


 カレリン嬢がひとり踊る姿は、とても美しく、可憐で、神秘的ですらあった。

《いえ、あれは明らかに踊りではないですよね?》


 そして、何よりも不思議と勇ましかった……

《そりゃ武術の型ですから》


 練習が終わったらしくカレリン嬢は子犬を連れて外へ出ていった。

 彼女についていけば到着したのは見事な花が満開の花壇のある庭。



「アレクサンドール家の庭園もなかなかのものですね」

「ああ……」


 セルゲイが庭を軽く見回して述べた感想に、私は上の空で相槌を打った。


 儚げな彼女の前には可憐な花たちも恥じらいでしまうだろう。

《この男の視力は大丈夫でしょうか?》



「今度は散歩かなぁ?」

「犬に散歩をさせる。実に素晴らしいことだ」



 自由に駆け回る子犬に向けるカレリン嬢の瞳はどこまでも優しい。


 不意に、花壇の前で彼女は身を屈めた。

 どうやら今度は花を愛で始めたようだ。


 愛らしい子犬との戯れも良いが、花に囲まれるカレリン嬢も素晴らしい。


 ああ、花の妖精と戯れる女神のようだ。

《私、私、女神は私ですよぉ》


 これはもはや高名な画伯の描いた一枚の絵画。

 《確かに、まさしく絵になる娘です……だけど絶対にカレリンが見てるの花じゃないですよね?》



「可憐だ……」



 無意識に私の口から讃辞がこぼれる。



「随分と殺伐とした噂が多いご令嬢でしたが……子犬を可愛いがり、花を愛でる。情緒豊かな方とお見受けします」

「そうだね。女神のような絶世の美少女って噂は正しかったけどねぇ」



 全く人の伝聞など信用できんものだ。


 この時、私は誓った。


 人の言葉にはきちんと耳を傾けてつつも、その真偽は己の曇りなきまなこで見定め、決める……と――



「おや? どうしたのでしょう」



 カレリン嬢が突然スクッと立ち上がった。

 いったいどうしたのか?


「何だあれは?」

「ダンス……でしょうか?」


 彼女はぴょこぴょことお尻を突き出したりと何やら奇妙な動き? 踊り? のような動作をしだした。



 そして……



 おお!

「――ッ!」

「なッ!?」

「うわぁお!」

「は、破廉恥な!」


 またもや突然の行動だった。


 なんと彼女は片足立ちをすると右膝を高く上げたのだ!!

 その拍子に彼女の素足がスカートの裾から覗いて見えた。



 太すぎず、細すぎず、均整の取れた脚は真っ白で、裾から覗いた太腿は少女とは思えぬほどに艶かしい。

《あの子いったい何を? 本体に確認を……はぁ? 虫ぃ? なんで?》



「――はッ!? き、貴様ら見るな! 見るんじゃない!!!」


 我に返った私は慌てて側近3人の視界を遮ろうとした。

 こいつら3人とも目を血走らせてガン見しやがって!!


 ああ、確かに私も見たさ。

 なんならこの曇りなきまなこにしっかりと焼きつけたしぃ。


 だが、私はいいんだ。

 いずれあの脚は私のものに――じゃなくてッ!

 いずれはカレリン嬢は私の妻になるのだからな。


 それにしても、目を閉じれば鮮明に彼女の色っぽい脚が脳裏に浮かぶ。


 筆舌に尽くしがたい美しい脚線美。

 白く、細く、長い脚は艶めかしい。


 思い出しただけで、頭に血が上り、顔が真っ赤になるのを自覚する。



 えがった〜

 ええもん拝ませていただきました~



 何なのだ。彼女(の脚)が頭から離れず、目が彼女を追ってしまう。

 ああ、彼女(の脚)を思い出すだけで、私の心臓が煩く音を立てる。

 彼女(の脚)を思い浮かべると、胸が高鳴り張り裂けそうに苦しい。



 はッ! まさか!

 これが――恋!!



 私は彼女に……女神の如き美しく神秘的な彼女に恋をしてしまったのか!?

《ブワァハッハッハッ! カレリンが女神! カレリンが神秘的!》



「いかがなされたのですか?」

「顔が真っ赤だぞ殿下」

「目もなんか潤んでるし」


 3人が心配してくれるのだが、頭がボーッとしてそれどころではない。



「少し熱っぽいか?」

「何かの病い?」



 ああ、そうだ私は病いにかかったのだ。



 これがきっと巷で言われる――



――恋の病い

《ヒ〜ッヒッヒッ! い、いけません! ガルムが愉快すぎます。お、お腹がよじれて痛いです!》

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