第20話 Shall we ダンス?【STAGE ダンスフロア】


――ガルム SIDE――


『カレリンが山賊達を討伐し、タクマの破滅フラグをベキベキにへし折ってから月日は流れ…はや3年が経過しましたか。


 カレリンも12歳。


 そろそろ次の破滅フラグ、第2王子ガルム・ダイクンとの婚約が決まる頃のはずですが……


 おや?


 あそこに見えるは、そのガルム本人ではないですか。側近兼攻略対象の3人を引き連れてアレクサンドール領まで何をしに?』



「おいマーリス、そんな堂々と目立つように歩くな。お忍びなんだぞ!」

「そうは言うがなヴォルフ。こんなコソコソとするのは性に合わんのだ」

「元はと言えばお前が直接確認すればよいと提案したびが発端だろうが!」

「まあまあ2人とも落ち着いて。もう少しで侯爵の館に着くからさ」


「何を騒いでいる。置いていくぞ」

「「「あっ! 殿下お待ちください!」」」



『ふむ、全員でカレリンを確認しに来たのですか……

 まあ自重しない彼女の評判は凄いことになっていそうですからね。

 もしかしたら、これでカレリンに幻滅して婚約が不成立になるかも……そうすれば破滅フラグは完全に消滅です』



『さて、どうしますか。カレリンの状況も確認しに行きたいのですが、ガルム達の様子も気になりますね。

 ここは分体を彼らの元に送りましょう』

《というわけで、分体の私がガルムたちを偵察すればいいのですね》


『よろしくお願いします』

《ラジャー! では覗いてきますか》


『定時連絡ヨロ』

《おk》



《本体はカレリンの方へ行きましたか。それでガルム一行は……》


「急な訪問に応じて頂き感謝するアレクサンドール侯爵」

「これはガルム殿下。アレクサンドール領へようこそいらっしゃいました(招かざる客だがな!)」

《カレリンのお父上、笑顔が引き攣っていますね》


「これは内密にしていただきたいのですが、私の降下先としてアレクサンドール侯爵の御息女が最有力候補として名前が上がっているのだ」

《ふむ、この流れはゲーム通り》


「それは……我が愛娘には勿体ない申し出。しかし、カレリンはとても殿下の妃になれるような娘ではありません(ちっ! 王家め私のカレリンちゃんに目をつけるとは)」

《お父上はカレリンをお嫁にやりたくなさそうですね》


「いや、カレリン嬢の評判は王都にまで鳴り響いておりますよ」

「噂とは時に無責任なものでございます(このクソガキにうちのカレリンちゃんを嫁にやるなど論外だ)」

《お父上の殺気にガルムたちは全く気がついていないようですが……》


「そうですね。私も噂ではなく彼女を実際この目で確かめたいと思い、こうして王都よりやって参りました」

「(ちっ!)それはそれは娘のためにご足労いただき誠に恐縮です(カレリンちゃんに難癖つけるつもりか小僧! 殺す!)」

《このオッサン、殺す気満々ですね》


「できればカレリン嬢に面会を許可していただきたいのですが……」

「そうですな……(カレリンちゃんをこんなクソガキと引き合わせるのは―――いや待てよ。カレリンちゃんはあれで令嬢としてのマナーは完璧だから直接合わせるとこの小僧が気に入ってしまうかもしれない。だが、素の姿は冒険者やったりと破天荒で令嬢らしくないから幻滅してくれるやも)」

《少し悪い顔になりましたね。こういうところはカレリンと似てます。さすが父娘おやこ


「殿下、直接会うよりカレリンに気づかれぬよう、窺うのはいかがでしょう?(そうすればカレリンちゃんに直接合わせる必要もなく、令嬢らしからぬカレリンちゃんを見て婚約も諦めるだろう。まさに一石二鳥!)」

「ふむ……(それは願ってもない)」


「ちょうどカレリンはダンスを学んでいるところです。ご覧になられますか?(規格外のカレリンちゃんに度肝を抜かれろ!)」

「それではお言葉に甘えて(この目で見定めてやる)」

《思惑が噛み合っていそうで噛み合っていませんね……なんだか楽しくなりそうです》



――――――――――



 通された部屋はちょうどダンスフロアを見下ろすことのできる位置にあった。



「あれがカレリン嬢……」

 剣にしか興味のないマーリスが珍しく女の子に見惚れていた。



「ふわぁ〜すっげぇ美人。今まで見てきた子たちが霞むなぁ」

 ヴォルフは相変わらずだが、その目はカレリン嬢に釘付けだ。



「聞きしに勝るとはこのことですね」

 冷静で絶対に心が動かないと思ったセルゲイもか……



「ああ……」

 私はそれだけしか言葉にすることができなかった。


 かく言う私が1番この中で目を、心を、魂を奪われていたのかもしれない。



「ダンスの講師がいないようだが……」

「そうだね。侍女はいるみたいだけど。この女性もけっこう美人だね」



 マーリスとヴォルフのお喋りが耳に入って初めて、カレリン嬢以外に目を向けていなかった自分に気がつく。


 私はいったいどうしてしまったというのだ。

 彼女ばかりに目が行ってしまう。

《おやおや〜ゲームと違って、ガルムがカレリンに一目惚れですか? 本当はまずいんですが、面白そうでにやにやが止まりませんなぁ》



 そんな私の視界の端に白い影がよぎった。


『わん!』


 犬だ。

 ふさふさの真っ白な愛らしい子犬だった。



「おう! 随分と可愛いワンちゃんだ」

 マーリスは12歳にして身長160cmを超える、ごつくガタイのいい少年だが、こんな見た目に反して可愛いもの好きだ。特に犬が好きらしい。


「彼女の飼い犬なのかなぁ?」

「そのようですね」



 その白い子犬は嬉しそうに尻尾を振ってカレリン嬢に近づいた。

 カレリン嬢は破顔すると、その12歳とは思えぬ豊かな胸にその子犬を抱きかかえた。


 その子犬は嬉しそうに彼女の大きな胸に顔を埋めている。


 くっ! 羨ましい。



『フェンリルは今日も元気で可愛いですねぇ』


 子犬の頭を撫でる彼女の声がホールに響く。



「フェンリル?…あの子犬の名前だろうか?」

「そうすると『大魔獣フェンリルさえも大人しく従う』という噂の出どころはあれですか」

「なーんだ。ただの子犬に尾鰭はひれがついただけなのかぁ」



 噂話などそんなものか。

 子犬の名前に踊らされるとは……



「おっ、ダンスの練習を始めたぞ」



 マーリスの言葉に私はカレリン嬢を目で追った。

 その動きはとても洗練されていて、それでいて鮮烈だった。



「不思議なステップですね」

「ああ……」



 セルゲイの指摘に私も頷いた。が、それは私を魅了し、目が離せない。

《不思議も何もあれダンスのステップじゃないでしょう》



「美しい……」

「ああ……とても綺麗だ」



 私の呟きに、普段は美意識を持ち合わせていないのではないかと思わせる朴念仁のマーリスまでもが同意した。



「あれほど犬が懐いているんだ。悪いやつじゃないだろう」

「子犬を見る目は優しかったしねぇ」

「ダンスは独特なステップでしたが、悪くはないようです」



 地上に舞い降りた女神のような美しい少女の姿が頭から離れなくなっていた。


 私はいったいどうなってしまったというのか?


《プッ! クスクス……いけません。ガルムと婚約は成立しない方がいいのですが、彼の勘違いが面白すぎます!》

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