第六死合!悪役令嬢VS恋する殿下!!
第19話 それは乙女ゲームの攻略対象【対戦予告】
―――≪OPナレーション≫―――
『さて、ガルム・ダイクンは婚約者候補の一人のカレリンを尋ねて、ここアレクサンドール領の領都グレコローへとやってきました。彼女には様々な噂があり、その真偽を確かめることが目的のようです。
そこで、ガルムはカレリンの父アレクサンドール侯爵からある提案を持ち掛けられます。果たしてガルムは数々の噂を持つカレリンの真の姿の手がかりをつかむ事ができるのでしょうか。
それでは、令嬢類最強!レディィィゴォー』
――――――――――――――――
「お顔が優れないようですが…いかがなさいましたか?」
私の曇った表情を心配して宰相令息のセルゲイ・ハートリフが声をかけてきた。
「どっか悪いんなら僕の魔法で診てあげるよ?」
これは魔法省長官令息のヴォルフ・ハーン。
「いや、体調に問題はない」
「じゃあ悩み事か?…剣でも振って汗を流せば気も晴れるぜ」
俺と立ち会うかと脳筋発言をしたのは騎士団長令息のマーリス・ツナウスキー。
この3人は私の幼馴染兼側近達だ。
「遠慮しておこう。問題の解決にはならないからな」
私が断るとマーリスは詰まらなさそうな表情を見せた。王族の私にそんな明け透けな態度をとるマーリスに私は苦笑いしたが、立場を超えて友人でいてくれる彼がありがたかった。
私の名前はガルム・ダイクン。
この国の第2王子だ。
3人兄弟の私には上に将来を嘱望されている3歳年上の優秀な兄がおり、下には私を慕ってくれる1つ歳下の弟がいる。
王位継承には低劣な連中が利権を巡って合い争いながら
だいたい兄が優秀過ぎて私も弟も王位を争う気は毛頭なかった。だから私は臣籍降下し、兄上を支えるつもりである。
私を悩ます問題はその臣籍降下にあった。
「殿下を悩ますのは臣籍降下の候補のことですか?」
さすが私の懐刀のセルゲイだな。
的確に私の胸の内を言い当てる。
「ああ、父上から幾つか有力な候補を教えてもらったのだが……」
「私の情報網からすると最有力候補はアレクサンドール侯爵家のカレリン嬢ですね」
そうだ。
私の臣籍降下先としてアレクサンドール侯爵家が最有力。
アレクサンドール侯爵の娘カレリン・アレクサンドール。
自領から出てこない彼女に面識はない。
ないのだが、彼女はとかく有名人だった。
「カレリン・アレクサンドール? すっごい美人らしいねぇ」
同い年のくせに既に女癖の悪いヴォルフらしい物言いだ。
「カレリン? 俺もその名前聞いたことあるな。アレクサンドール領の凄腕冒険者が確かそんな名前だったな。若くしてオリハルコン級に上り詰めたとの噂だが……」
マーリスは冒険者に憧れがあるようで、冒険者ギルドにも顔を出した時にでも聞いてきたのだろう。
そう……
このようにカレリン・アレクサンドールには多種多様の様々な風聞があるのだ。
曰く、女神と
曰く、200人近い大山賊を1人で討伐した
曰く、自領の発展の為に多大な貢献をなした
曰く、ギルドの影のドンとして君臨している
曰く、小さな体でありながら怪力無双である
曰く、幼い身でオリハルコン級冒険者である
曰く、スタンピードをたったの1人で鎮めた
曰く、その圧倒的な暴力で街を支配している
曰く、平民に寄り添う慈母の様な貴人である
曰く、大魔獣フェンリルさえも大人しく従う
曰く、その悪虐非道は極悪人さえ背筋が凍る
曰く、曰く、曰く、曰く、曰く、曰く―――
とにかくアレクサンドール領のカレリンという名には信じ難いほど多くの
「私のところにも彼女の似たような評判が入ってきております」
「僕らと同い年だってのにすっごいねぇ」
「おいおいヴォルフ、その噂を全部統合したら極悪非道な無敵の鬼神で、誰にでも優しく民思いな聖女のような人物になっちまうぞ」
そうなのだ……
数々の噂話を全て真実としてカレリン・アレクサンドールという人物を考察すると――
冷徹非情な極悪人でありながら慈しみ深き聖女。
花も恥じらう可憐な美少女でありながらゴリラの如き怪力筋肉女。
「普通に考えるならば王都へ流れる風聞を操作しているか、カレリンという人物がアレクサンドール領内に複数いるかですか……」
そう分析するセルゲイであったが、本人自身がその仮説を信じきれていないのが表情から読み取れる。私もセルゲイと同じこの結論に至ったのだが、何となくしっくりこない。
噂を操作するなら悪い噂は隠そうとするものだ。しかし、そのような痕跡はないし、むしろ令嬢として致命的な
カレリンという名は確かにそこまで珍しい名前ではないから同じ名前の別人物という説も考えられる。だが、こんなに大きな噂になる同名の人物が同じ領内にいるものだろうか?
「2人とも納得できないといった顔してるねぇ」
「悩むくらいなら直接アレクサンドール領へ行って確かめればいいだろ?」
「マーリス。さすがにそんな無策な行動は……」
「いや、待て」
マーリスの提案を嗜めようとしたセルゲイを私は止めた。
「案外いい考えかもしれん」
マーリスは確かに直情的だが、だからこそ直感的で縛られない自由な発想を口にする。それが難題の打開に繋がることもしばしばだ。
今回の件もそうだ。
良い案だと思ったなら即行動だ。
即断即決は上に立つ者に必要なスキルだ。
「考えても答えは出ない……ならこの目で確認するのが早道だ」
私はカレリン嬢が如何なる人物であるかを見定めるため、アレクサンドール領へ行くことを決めた。
『ガルム・ダイクン12歳。
この時の決断が、彼の今後の運命を決定付けた。
これがボーイ・ミーツ・ガール。
ああ、かれの初恋、
この時のことを思い出すと、
あまりに憐れ、あまりに道化、あまりに滑稽、
人間相手なのに女神である私でも同情を禁じ得ません、
あ、涙が……』
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