第15話 凍場―冒険者ギルド闘牌録―【STAGE 冒険者ギルド】


「はい?」

 はい?

『この受付嬢、完全にぶっ飛んでますね』



 セレーナさんは左手を腰に当て、唖然として体も思考もフリーズ中のタクマをビシッと指差した。



「聞えなかったのですか。私はあなたのパーティーでカレリンちゃんの仕事をフォローしなさいと言っているのです。その命に代えても!」



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…

――マジか?

――ミスリル級冒険者のタクマさんを護衛に!?

――アレクサンドール1番の冒険者パーティに子供のお守りをさせるなんて……

――ちょっと贅沢すぎないか?

――いや、タクマさんもさすがに断るだろ?

――バカ! このギルドの裏ボス、セレーナさんの命令だぞ。

――ああ、拒否権などない。



 周囲が騒めいているけど、これは私も想定外。



「おいおい、他の冒険者の仕事を護衛するなんて聞いたことないぞ」

「カレリンちゃんが心配です。貴方がたのパーティが護衛につけば薬草採取くらいは問題ないでしょう」

「いやいやいや! 正気か!?」

「私はいたってまともです」



 まともかしら?

『まあ、貴女が普通の幼女だったらそうでしょうね』



「貴方こそ正気? こんな可愛いカレリンちゃんを1人で森に行かせるつもりですか?」

「い、いや、だが、この幼女はなザッコを表で瞬殺にして……」


「何をバカなことを……あんな大男をこんな小さな女の子が倒せるわけないでしょ!」

「いやホントだって」


「つべこべ言うな!」

「はい!!」


 セレーナさんの一喝でミスリル級イケメン冒険者が直立不動になってるわ。



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…

――ホ、ホントだ。あのミスリルのタクマさんが……

――だから言っただろう。

――あの人このギルドのフィクサーだし。

――セレーナさんはえげつねぇんだよ。

――見た目は優し気で大人しそうな美人なんだがなぁ。

――個人情報からギルドメンバーの弱み握ってるんだよ。

――タクマのやつぁ駆け出しのころセレーナの正体知らずに熱上げてたから。

――色々と弱味を握られてるんだよ。



「分かっているでしょうね? もし断ればあなたが私にあてた恋文の恥ずかしい内容を……」

「わーッ! わーッ! わーッ! 分かりました! やります、やります、やらせていただきます!!」

「よろしい」


『どうやらこのギルドのヒエラルキーの頂点トップはこの娘のようですね』

 セレーナさん……恐ろしい子。


「ちっ! 何で俺が子守で薬草収集なんて……」

『まあミスリル級冒険者がする仕事じゃありませんね』

 ちょっと可哀想?


『可哀想ではすまないでしょう……』

 しょうがないなぁ……


 バシッ!

「いてっ!」


 ホントは背中に喝を入れたかったけど、背が届かないのでタクマのお尻を引っ叩いて気合をいれる。



「あンた、背中が煤けてるぜ」

「何すんだこのガキ!」



 いきり立つタクマに私はニヒルににやっと笑う。



「背中に勝とうという強さがない」

「お前のせいだろ!」


 何よ! ちょっと元気付けてあげようとしただけじゃない。

『貴女ホントに馬鹿ですか?』


「カレリンちゃんへの暴言は許しませんよ!」


 ふっふっふっふっ!

 私には私の可憐さで傀儡と化した女神がついているのよ。

 反抗的な態度は許しまへんでぇ。


『まあ確かに女神わたしがついてますが……』

 ポンコツ駄女神と私の女神セレーナさんを一緒にしないで!


『……それで、彼はどうするんですか?』

 そーねぇ……野菜の戦士戦闘民族の戦いに中華料理どもがいても邪魔なだけよね。



「セレーナさん、申し出はとてもありがたいのですが、私は狩猟系がやりたいの」

「そ、そんな! ダメよ!」


 セレーナさんは一気に青褪め、カウンターから出てくると私の小さな手を両手で包んだ。


「こんな可愛いカレリンちゃんにもしもの事があったら……」

「だいじょーぶ! 私はつおーい! そしてあのお兄ちゃんは邪魔だから要らなーい」



 ピシッ!


 なに?

 一瞬で周りの空気が凍ったけど。



「て、てめぇ……」


 あら?

 タクマの顔に青筋が入ってる。何を怒っているのかしら?


 せっかく、嫌がってた仕事から解放してあげようとしてるのに。

『貴女は真正のアホですか!』



「あのねカレリンちゃん。このお兄ちゃんはこう見えて意外と強いのよ」

「え~、私より弱そう」


「おい嬢ちゃん! お前はザッコをボコれるくらい腕に覚えがあるみたいだが、俺とアイツを一緒にすんなよ」

「うーん……十把一絡じゅっぱひとからげ?」



 首を傾け人差し指を頬に当てる私の愛らしい仕草にセレーナさんは黄色い悲鳴を上げた。


「なんだとぉ!?」

 タクマは怒声を上げたけど……何故に?

『当たり前でしょう!』


「じゃあ五十歩百歩?」

「お前なぁ! 俺はミスリル級冒険者だぞ!」


 タクマは左手で自分の胸を叩く。

 そこにはミスリル級冒険者を証明する認識票ドッグタグがぶら下がっていた。


「みくびる級でもミスする級でも関係ないわ。要らん子は要らん子よ」

「俺は見縊みくびられてもミスもしてない! ましてや要らん子ではない!」


 何よコイツ!

 私がせっかくやんわり護衛を断っているのに。

『貴女、底無しのアホですよね』



「えーなんなの? そんなに私と一緒にお仕事したいのぉ?」


 可愛いって罪ね。

 タクマも私の色気とミステリアスな雰囲気にメロメロなのかしら。

『8歳の幼女に色気も神秘性もないでしょう』

 黙れ!



「ミスリル級冒険者も惑わす私……罪作りな女だわ。この美しさがいけないのね」



 ザワ… ザワ…

  ザワ… ザワ…

――え!? タクマさんってロリ!!

――ミスリルの冒険者が幼女趣味だと!

――このギルドの面汚しめ!



『とんでもない風評被害ですね』

 私の可愛さ天元突破ね。


 もはや止まるところを知らないわ。

 皆がこの美貌にメロメロね!

『貴女の残念思考は既に天元どころか天界も突破してそうですが』



「もう勘弁ならねぇ!」

「やめて! カレリンちゃんはまだ子供なのよ!」


「どけセレーナさん! ガキの戯言でも許せん!」

「んーなに? 私と勝負する気? 私はいつ何時誰の挑戦でも受けてたーつ!」

『貴女は赤マフラーのレスラーですか!』


 まあプロではないけど元アマレス選手よ?

『そうでした……』



 結局その場のノリと勢いで私とタクマは対決することになりましたとさ。

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