第14話 哭かせの幼女【STAGE 冒険者ギルド】
アレクサンドール侯爵家の本拠地である領都グレコローには、冒険者ギルドグレコロー支部があるの。
3階建てだからこの辺りじゃそこそこ大きな建物ね。
「なかなか立派じゃない」
『まあアレクサンドール領はこの国でも有数の領地で、領都グレコローはここダイクン王国の副都とまで呼ばれる大都市ですからねぇ』
それだけに冒険者ギルドも大きいということね。
口の端を軽く吊り上げふっと笑う。
「幾らの
『貴女は何処の雀鬼ですか!』
いやぁ、懐が寂しくって。
獲物の換金率が気になるのよ。
『貴女は侯爵令嬢でしょうに』
お父様もお母様も
『当たり前です。貴族令嬢は現金を持たないものでしょう……だから冒険者に?』
私は女神から視線をギルド会館に戻すと再び口の端を軽く吊り上げふっと笑う。
「それもあるけど……どんな
せっかく手にしたこの力……『令嬢流魔闘衣術』を試せる強敵がいるといいのだけど。
『その厨二病全開の名前なんとかなりませんか?』
えーっ!
これメイヤー先生と三日三晩寝ずに考えた渾身の名前なのにぃ!
『そんな下らないことに無駄に情熱燃やして』
「おいクソガキ! 邪魔だ退け!」
扉の前で女神とだべってた私の背後から近づく巨大な妖しい影。
どうやらギルドに入ろうとした冒険者のようね。
その巨漢が私の背中を足蹴にしようとしたけど――ふっ、甘いわ!!
男から繰り出された足を半身で躱し男の蹴りの力を利用して掬い上げる。
ドッシーン!!!
「ぐはぁ!」
巨体が一瞬宙を舞い、そのまま派手に背を打ちつけた。
大きな音を立て地が揺らぐ。
ふふふ……私はとっくにこの男の殺気に勘づいていたのよ。
『だったら邪魔してないで脇に避けておけばいいものを……この男も可哀想に』
こういう演出って燃えるじゃない?
『貴女の演出のために彼は被害者に……哀れです。人に思い入れのない女神の私でもさすがに涙が出そうです』
「こ、このクソガキ! 何しやがる!」
巨漢の冒険者が起き上がると私に掴み掛かろうと手を出してきたけど、私は逆にその腕を取って軽く捻って関節をキメると簡単に地に組み伏せる。
「『令嬢流魔闘衣術』を使うまでもないザコね」
『可哀そうに。悪いのは貴女でしょうに……』
物語を盛り上げるための尊い犠牲はつきものよ。
『人間の道徳観念のない女神の私でも呆れてしまいそうです』
「何を表で騒いでる!」
ギルドの中から1人の赤シャツの青年が出てきた。
黒髪の地球でいえば東洋風のイケメン細マッチョ。
ふむ……足運び、立ち姿、少しはデキそうな奴ね。
美幼女である私を前にしても油断のない眼光も気に入った。
『自分より遥かに大きい男を組み伏せる幼女を見れば誰でも警戒しますよ』
「何があったザッコ?」
なぁんだホントにザコだったのね。
私に腕の関節をキメられて地で無様を晒すザコは、黒髪イケメン細マッチョを組み伏せられた状態で見上げた。
「タ、タクマ……」
『(ふむ……この男は隠し攻略対象のタクマ・ジュダーですね。本来なら3年後にカレリンの手によって冒険者生命を絶たれるはずだったのですが……)』
「このザコが私にちょっかいかけてきたから可愛がってあげたのよ」
にやりと笑いながら私は長く美しい金色の髪をかき上げる。
ふっ! 決まったわ。
『貴女が8歳児でなければ艶のあるシーンになったでしょうね』
「ちょ、ちょっかいって……ザッコお前まさかそんな幼女に手を出そうと」
「ち、違う! このガキが扉の前で……イタタタタッ!!」
私はザコの腕をさらに捻る。
「ザコのくせにこの美しい私に手を出そうなんて身の程を知りなさい」
「ザッコ、お前――幼女趣味だったとは……」
黒髪イケメンはドン引きよ。
『可哀想にこの男はロリコンの汚名を着せられてしまいましたか……』
「それで嬢ちゃんは何者だ?」
私はザコの腕を離すと立ち上がり、乱れて肩にかかった自分の長い金髪を手で払って胸を
『反らすほど胸はありませんけどね』
黙れ! ポンコツ駄女神
「カレリンよ! 今日からこのギルドでお世話になります!」
「世話にって……冒険者になるつもりか!?」
ナニ驚いてんのよ?
「お前はまだ子供だろう!」
「もう8歳よ!」
「8歳だとぉ!?」
黒髪イケメンは起き上がったザコに呆れの目を向ける。
「ザ、ザッコ……お前はまさか……」
「ち、違う! 俺はロリコンじゃねぇ!!!」
「言い訳は見苦しいですわ。あンた、背中が煤けてるぜ」
うわぁぁぁん!
違うんだぁぁぁ!!!
と泣き叫びながらザコのやつは消えた。
所詮はザコね。
『か、可哀想すぎる……女神の私でも同情を禁じ得ませんよ』
「まあ、あのザッコを倒す腕前だ。嬢ちゃんを侮ったりはしねぇよ。受付カウンターで登録してきな」
「俺はタクマ・ジュダーだ」と名乗った黒髪イケメン細マッチョは私を受付まで案内してくれた。
ふむ、中身もイケメンね。
お礼を言おうと思ったんだけど、さっさと背を向け去ってしまった。
あのザッコがロリコンだったとはなぁ、との言葉を残して……
うん……さすがに私もあのザコが可哀想になってきた。
『100%貴女が悪いクセに』
……とにかく冒険者登録をしちゃいましょう。
『流しましたね』
「こんにちは! キレーなお姉さん」
「あら? こんにちは。可愛いお嬢ちゃんね」
なかなか見る目のある
ギルドの受付嬢ともなると鑑定眼も一流みたいね。
『たんなる社交辞令でしょう』
「私は当ギルドで受付をしているセレーナよ。何かご用かしら?」
「今日からお世話になります」
「お世話にって――」
受付の優し気なお姉さんが、私をまじまじと見詰める。
セレーナさんが熱い視線を私に……可愛いって罪なのね。
『あなたの頭の中身の方が罪だと思いますよ?』
「――まさか冒険者になるつもり?」
ザワ… ザワ…
ザワ… ザワ…
受付のキレーなお姉さんの言葉にギルド内が騒々しくなり冒険者どもが私に注目する。
「そのつもり……年齢制限があるんですか?」
「いいえ。でも、お嬢ちゃんみたいな小さくて可愛い女の子が冒険者になる子は珍しいかな?」
まあ、採取系の依頼もあるからいいか、と割とあっさり許可が降りた。
受付のお姉さんが説明してくれたけど冒険者の仕事はランクごとで受けられるものが違うんだって。
ただし、採取や狩猟などの常時依頼などは契約があるわけではないので、現物を持ってくれば依頼の受諾達成が承認されるから冒険者ランクは関係ないらしいわ。
冒険者ランクは昔の冒険者が使用していた剣や防具などの装備素材から呼び名が定着したようで、
木級
革級
青銅級
鉄級
鋼級
ミスリル級
アダマンタイト級
オリハルコン級
の8等級に区分されているそうよ。
ちなみに現在の冒険者の防具はほとんど革製。今どき青銅製を身につける者なんていないから本当に名残りね。
今日初めて登録した私のランクは木級よ。当たり前よね。
いくら私が強いからって、もっと上のランクにしろなんて非常識なバトルマンガの主人公みたいな要求はしないわよ?
だって、私はと~ても常識的だから。
『さっき非常識にも無実の男に汚名を着せたくせに』
うっさい! そんな過去の男なんて忘れたわ。
いい女は過去の男には縛られないものなのよ。
『なに昔フった男の話みたいに言っているんですか』
「それじゃあカレリンちゃんは木級スタートだけど依頼はどうする?」
セレーナさんが心配そうに尋ねてきたけど……まあ、こんないたいけなか弱い美幼女が冒険者なんて心配して当然よね。
『さっき大男をボコった幼女がいたいけ? か弱い?――プーックスクス』
くッ! このポンコツ駄女神いつかコロス!
見てなさい! 私の比類なき美幼女力を!
「えーっと……うーんっと……」
後ろに手を組みモジモジしながら上目遣いで可愛いアピール!
どうよこの愛くるしさ。
「きゃーッ! なにこの子! すっごい可愛い!」
ふっふっふっ、私の「可愛い」をまともに食らったセレーナさんが口に手を当てて顔を真っ赤にしてるわ――ふッ! チョロいな。
これでこの女はもう私の虜。
『貴女ロクな死に方しませんよ――って、既にトラ転というロクな死に方していませんでしたね』
「分かったわ! 私がカレリンちゃんのためにとっておきの仕事を紹介してあげる!」
ホントにチョロいなこの人。
『貴女は違う方向性の悪役令嬢になれそうですよ』
「それでも可愛い女の子を1人で行かせるのは心配ね……タクマ・ジュダー!!!」
「えっ!? 俺?」
大人しそうな美人のセレーナさんが見た目に反した大声で呼び出したのはさっきの黒髪イケメン。
「なんだよ突然」
「これからカレリンちゃんが仕事をします。ですが、こんな小さな女の子を1人にするのは私の精神衛生上よろしくありません。そこで――」
セレーナさんはビシッとタクマを指差した。
「――貴方のパーティでカレリンちゃんの仕事を護衛しなさい!」
「はい?」
はい?
『おかしな方向になってますよ』
あれ?
あれれれ~?
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