第6話 令嬢類最強誕生【STAGE 屋敷】
【紗穂里カレリンに転生】
ついに私は生まれ変わった!
I'll be back!よ。
いや違うわね。
どこぞの人間核弾頭のように不発弾も抱えていないし。
だけど彼も不発弾なんて不名誉なあだ名をつけられて可哀そうよね。
局心空手の中々の使い手なのに残念だわ。
だけど……
うーん別人になったのだからなんて言うの?
I reborn!かしら?
家庭教師にも殺し屋にもなるつもりないけど。
私がなるのは霊長類最強!
全世界に挑戦よ!!!
『間違っています。I was rebornです』
あら?
ポンコツ駄女神ついてきたの?
『ポンコツ言うな! 貴女が心配で様子を見に来たのです。とりあえず無事の誕生おめでとうございます』
ありがとう。
じゃあ……
お祝いに乙女ゲームの情報頂戴!
はっきり言って佳緒里ねぇの話しって半分以上聞いてないのよ。
『残念ですが私からは情報提供できません』
何でよ!!
『神が干渉すれば世界の多様性の観察に意味がなくなるからです』
観察って!
さてはあんた面白がって覗きに来ただけなのね!
『……』
ダンマリ!?
やっぱ、ポンコツは使えないわね。
まあいいわ。
今はそれよりも最大の問題があるの。
『問題ですか?』
ええ、それは赤ちゃんの姿では鍛錬が難しいということ!
これでは霊長類最強への道が……
『霊長類最強よりも悪役令嬢脱却を考えてほしいのですが』
そんなの無理よ。
私はゲームの登場人物とカレリンの
『まったく使えない女です』
――ッ!
あんたが言う!!
私と佳緒里ねぇを間違えたあんたが言う!!!
間違えて私を転生させたポンコツのくせに!
ゲーム情報くれなかった駄女神のくせに!!
『
ふん!
だいじょーぶよ!
『随分と余裕ですね?ヒロインのフラグが分からないのですよ。破滅フラグ回避できないでしょう?』
問題ないわ!
『本当ですか? 婚約破棄で済めばいいけど、悪役令嬢の結末には国外追放、幽閉、死刑エンドまであるのですよ?』
もういいのよ考えたって知らんもんは知らん!
『開き直った』
違うわ!
私は悟ったのよ。
『何をですか?』
とにかく私がハッピーになれればいいんでしょ?
『まあ、それはそうですが……』
だから――霊長類最強を目指すの!
『なぜそんな結論に!?』
ふっ!
簡単なことよ。
破滅フラグ?
そんなもの物理で捻じ伏せれば問題なし!
婚約破棄?
貧相な肉体に興味なし!
国外追放?
最強の力があれば万事解決よ!
だから私は霊長類最強を目指すのよ!
なんという完璧な三段論法!!
『結局行き着く先はそこですか』
だから私は今から霊長類最強を目指すための英才教育を始めるのよ!
『……また様子を見に来ます』
あ、逃げたわね。
まあ、あんなポンコツ駄女神いるだけ邪魔よね。
さあ今日から芳田紗穂里改めカレリン・アレクサンドールの霊長類最強ロードが始まるのよ!
――(5年早送り)――
『5年経過しましたか。さて、紗穂里は……いえ、今はカレリンでしたね。彼女はちゃんとやっているでしょうか?』
やってるわよ。
『おや、さすが絶世の美女になる悪役令嬢。幼女の姿も可愛いですね。(確か設定どおりなら5年間乳母のナニー・マァムに虐待を受けているはず。この設定を知っていたところで赤児では対処もできなかったでしょうが)』
ありがと。
でも容姿なんてどうでもいいのよ。『霊長類最強』には関係ないわ。
『い、いまだにその思考から離れてないし!(おかしいです。虐待を受けているようには見えません……そう言えば誰もいませんね)』
『ところで侍女や乳母はどうしたのですか?』
5歳だから専属侍女はまだね。
乳母はね、
『いた?今はいないのですか?(なんだか暗い顔ですね。やはり虐待があったのでしょう。もしかして幼児にして乳母を撃退した?これは期待できますか)』
ええ……いたのつい最近まで。
『最近まで……いたと言うのは?(ますます暗くなって……はっ! まさか
『(さすがに殺人は! 誰が死のうと神の私にはどーでもいいんですが、カレリンが闇堕ちするのは不味いです!)』
彼女の名はナニー・マァム……
私の
『は?』
とても素晴らしい女性だったわ。
彼女は愛! そう、私に愛を教えてくれたの!
『え!?(虐待乳母だったはずじゃ?)』
私は生まれてすぐに霊長類最強を目指し自分を虐め抜こうとしたの。
浅はかだったわ。
それでは強くなれない……
愛が、強くなるには愛が必要だったの。
微笑み忘れた顔をしてはダメなの。
愛を取り戻さないといけなかったの。
彼女はそれを私に気づかせてくれた。
『(なんだか話がおかしな方向に)』
あんたが去った後にすぐ彼女はやってきたわ。
可哀相に彼女は自分の子供を亡くしたばかりだったの。
『(そこは設定どおりですね。それが何故?)』
意気消沈している彼女は乳母の仕事どころではなくてボーッとしてたみたい。赤ちゃんの視力って悪いからよく分からんけど。
『それはネグレクトだったのでは?』
そうなの?
とにかく私は成長しなくちゃいけないからお乳を貰うためカルガモの如くつけ回し、笑顔を振りまいてお乳をねだったわ。
この可愛い顔ならメロメロ間違いなし!
なんて打算的なことばかりで我ながら自分本位で恥ずかしいわね。
でも彼女はそんな自分勝手な私に優しくお乳を飲ませてくれたものよ。なんて愛情深い。
『設定では彼女はお乳を与えてないはず』
えっ?
そう?
でもちゃんと飲ませてくれたわ。私によく構ってもくれたし。
『ネグレクト乳母が母乳をですか!?』
他人のことを悪様に言うなポンコツ駄女神!
彼女は素晴らしい女性よ!
いつも私に手を差し伸べてくれたし。お陰で肉体言語の良い練習になったわ。
『ん? 何故手を差し伸べることが練習に?』
時として棒の様な物で突いてきたわね。
『それは虐待では!?』
何を言ってるの? あれは回し受けの練習よ。
基礎は怠るとすぐ腕が鈍るもの――さすがね!
『違う! 絶対違う!』
しかし、彼女は甘やかすだけではなかったわ。
時には厳しく突き放すこともした。
『どこの甘やかしていた要素が?』
私も彼女の愛情に自分本位なところを見直すべきと愛情を返そうと思ったの……
でも赤ちゃんではできることもない。歯痒かったわ。
できることは愛らしく甘えて彼女の心の傷を癒すことくらいかしら。そう思って私は甘えてみたの。
満面の笑顔でね。
『嫌な予感しかしません』
だけど彼女は自分に厳しい方だったのね。
そんな私の意図を察したみたいだった。
『いや、赤ちゃんに意図があるなんて誰も思いませんよ』
私が飛びついて彼女の胸で甘えてみたのだけど……
『赤ちゃんが飛びついたんですか!? なにそれ! こわっ! 赤ちゃんこわっ!!!』
んっ?
そうかしら?
めちゃくちゃ可愛い赤ちゃんよ?
モモンガが飛びついたみたいで可愛くない?
『普通の赤ちゃんは飛べませんから。考えてみてください。ハイハイしている赤ちゃんがいきなり飛び跳ねてくるんですよ。恐怖でしょ!』
え~、可愛いと思うんだけどなぁ。
まあ、いいわ。
私は彼女の胸にがっしりとしがみついたの。
だけど彼女は私を振りほどこうとしたわ。
きっと握力のトレーニングだったのね。
『そりゃ赤ちゃんが飛びついてきて、自力で胸にぶら下がってきたのでしょ? 驚いて振りほどきますよ。それが落ちもせずにしがみついてくるなんて軽くホラーですね』
いいえ、彼女はきっとこう言いたかったのよ――「私に愛情を振りまく必要はない!」と。
そして時には甘やかし、時には厳しい修練を私に施してくれたの。
まこと素晴らしい女性だったわ。
『それでよく感慨に浸れますね』
この深い愛情を持って育てられてカレリンが悪役令嬢になる意味が分からん!
よほど捻くれた人物なのか、そもそも設定に無理があったのか……
糞ゲーの匂いがするわ。名前からして『恋の魔法を教えます』よ。
ありえん!
教えるなら肉体言語でしょう!!
『あり得ないのは貴女の思考です!』
とにかく彼女は私の
残念ながら出家してしまったわ。きっと万人に愛を与えるためね。愛情の深い方だったから。シスターの方が天職と思ったのかもしれないわね。
『無自覚に撃退したんですね』
本当に素晴らしい人だった……
私としては惜しい人を失ってしまったけれど仕方がないわ。
『虐待乳母を退けたのは喜ばしいことのはずなんですが……何となくナニー・マァムに同情したくなりました。(これはナニー・マァムに何がおきたか確認しないと)』
K.O.
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