第49話 奪還作戦の計画をするハーレム(後)

「うるさいよ、玲有さん。違うから。みんながちゃんとしてくれないと、知火牙を奪還する作戦を練れないからだよ。正気を保って作戦を一緒に考えてくれないと困るからだよ。昔の藍朱みたいな役立たずはいらないからね」



 ボクはみんなと違って大人の女だからね。

 この場を進行するために、多少の無礼は適当に流してあげる度量があるのさ。


「衣莉守ちゃんこそ、何度も同じ話を蒸し返してきてうるさいよ。..................けど、チカを奪還って......。藍朱たちはあれだけ探しても見つからなかったんだよ? ビデオレターにも証拠らしい証拠はなかったし......」


「そーだよ。あたしだって便利屋のツテを使って調べてみたけど、それらしい情報は手に入らなかったし......」


「だね。私も見つけられなかった......。さっきのビデオだと、ちーくんを連れ去った女の名前の部分もピー音で消されてたから、誰に連れ去られたのか顔しかわかんないし......」



 3人とも、正気に戻ってるはずのくせに、なんかめちゃくちゃ弱気なこと言ってる......。

 まだ正気に戻りきれてないのかな?


「いや、犯人の顔がわかっただけでも調べられることはいっぱいあるでしょ......。みんな頭回ってなさすぎだよ。癪だけど、みんないつもならもっとデキる人たちでしょ......。しっかりしてよね」


「そうはいってもさ......。知火牙くん、あたしたちのこと、どうでもいいみたいな扱いだったじゃん......。もう、捨てられちゃったんじゃ......」


「何いってんだよ」



 この人たち、心が弱りすぎてて本気で頭回ってないんだな。


「知火牙は明らかに洗脳かなにかされてたでしょ。多分、薬とかを使われてて記憶がないんだ。その上で嘘の記憶を刷り込まれてる。そうじゃなきゃ、知火牙のあの・・変化は説明がつかないからね。知火牙は嘘はつかないんだ。ボクたちを一生幸せにするって誓ったんだから、自分の意思でボクたちを捨てるはずがない」


「「「..............................」」」



 ボクの言葉が根拠のない戯言だと思ってる顔だな? 失礼な。まぁいいけど。


「それに、相手の名前はわかってる」


「「「っっっっ!?!?!?!?」」」



 ボクの一言に、俯いてた3人がバッと勢いよく顔を上げる。


桃郷凛夏もものさとりんか。それがあの女の名前だよ」


「「「..................桃郷、凛夏..................っ!」」」



 怨敵の名前を噛みしめるように呟く3人の目には、さっきまではなかった火が灯ってるように見える。

 うん。よし、これで知火牙を探せるね。


「けど、なんで衣莉守ちゃん、あいつの名前なんてわかったの? 動画の中になにかあった?」



 藍朱め、やっぱり知らないか。

 まぁどっちにしても玲有さんと唯桜さんには話さないといけないから、ボクがきちんと説明してあげるよ。

 泣いて感謝してほしいね、まったく。


「桃郷凛夏は..................知火牙のハジメテを喰った女だよ。ここまで言えば、藍朱はわかるでしょ?」


「んなっ!? ............ってことは......例の依頼を最初に出した張本人......ってこと?」


「そう。見た目は多少変わってたけど間違いないよ」



 藍朱の表情が忌々しげに歪んでる。まぁそうだよね。ボクらが苦汁をなめさせられた相手だ。そういう顔になるのもわかる。


「えーっと、ごめん、私、よくわからないんだけど、そのナントカリンカって人は何者? ちーくんの......ハジメテの女って?」


「うん、あたしもしらない。藍朱ちゃんは知ってたの?」



 まぁ2人はそういう反応になるよね。


「じゃあ、ちょっとだけ長くなるけど、ボクたちの中学時代の話をしようか」



*****



「というわけで、そのハーレムを最初に作った原因である桃郷凛夏が、今回の犯人ってこと」



 20分ほどかけて、主に玲有さんと唯桜さんに向けて、いかにボクと知火牙が仲良しだったかって自慢を交えつつ、桃郷凛夏の悪行を共有した。






「......なるほどね。つまり衣莉守ちゃんが取り逃がしたせいで、あの女は復活して知火牙くんを奪っていったってわけ、か」


「............その言い草はムカつくけど......まぁそれはその通りだよ。あのときボクがちゃんと仕留めてれば、今回のことはなかったと思う」


「そっか。でも、過去のことを悔いてても仕方ないよね。私たちは、ちーくんを取り戻さないといけないんだから!」


「だね。それに、敵が桃郷凛夏センパイだってわかったわけだし、きっとかなり探しやすくなるよ。衣莉守ちゃんが知っててくれてよかった」


「はぁ......こういうときだけ調子のいいこと言うんだから」



 つい30分前までお通夜みたいな空気を醸し出してたとは思えない活気のある雰囲気の3人に、ちょっと呆れつつも、頼もしさも感じる。


 この3人はボクにとって、知火牙を独占するために打倒すべき敵。だけど、だからこそ、ボクはこの3人のやっこさを知ってる。

 みんな何かしらの情報源は持ってるし、動かせる力もそれぞれが持ってる。


 総動員すれば、知火牙だってすぐに見つけられるはずだ。





「......ボクはみんなのこと大嫌いだけど、知火牙への愛情の深さと執着心の強さくらいはわかってるつもりだ。ボクほどじゃないにしてもね」


「は? 急にどうしたの」


「ボクはハーレムなんて許すつもり無いけど、それでも桃郷凛夏に奪われてボクの元からいなくなることに比べたら全然ましだよ」


「「「まぁ、それはそうだね」」」



 うん、めちゃくちゃ癪だけど、ボクたちは今、かつてないくらいに意気投合してる。


 知火牙に毎日毎日、同じように犯されまくって、知火牙の唾液を飲みまくって、似たような思考を共有した子たちだ。

 『同じ釜の飯を食った仲』ならぬ、『同じ男の唾液をしゃぶった仲』......まぁただの竿姉妹だけど。

 だからこそ、知火牙に関する考えは似てきたのかもしれない。


「だからこそ、ボクたちの知火牙を、ここに......このハーレムに取り戻さないと。まずは、ボクたちの愛で、知火牙のハーレムを取り戻すんだ!」


「うん!」 「だね!」 「そうね!」






「それじゃあ知火牙が廃人にされちゃう前に、みんなで知火牙を見つけるよ!」


「「「おー!!!!!」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る