第45話 佳音唯桜への挑発

<会社。ウチらが新しい会社立ち上げる準備してるとこだって話! ほら、お友達には近況をちゃんと伝えとかなきゃでしょ?>



 んなっ!?!?!?

 か、会社!?


 それはあたしと一緒にやるはずだったはずじゃ......。

 半年後には起業する予定だったのに......知火牙ちかげくんが代表であたしが副代表で......。


 便利屋マクロから独立して新しいなんでも屋を始めるって......。

 そのためにこれまでたくさん準備してきて、屋号だってもう決めて......。


<ほら、会社名、教えてあげて?>


<あ、あぁ......えっと、僕と**さまで会社を立ち上げるんです。会社名は株式会社御霊みたま総務......って言います。社長は**さまのつもりですし、僕は本当なら**さまの名前を入れてもらえないかってお願いしたんですけど、どうしてもダメって言われてしまいまして......>



 御霊総務......。やっぱりあたしらが準備してきた会社名......。

 ......って、まさか、あたしらの準備してきたものを横取りするつもりなの!?


<そうだね〜。ちかちゃん、ちゃんと覚えててえらいね〜。ウチとちかちゃんの2人で準備してきたんだもんね〜。名前だって、会社になにかあったら、ちかちゃんがすべての責任を負ってくれるって言うからそうしたんだよ。しっかりウチのこと支えてね? 副社長さん?>


<は、はい。僕なんかになにかができるるのかはわかりませんが、精一杯**さまのことを支えさせていただきます!>



 だめ......ダメでしょ......。そのポジションはあたしの......。

 あたしの唯一のアドバンテージだったのに......。


 出会った順番も、知火牙くんについて知ってることの情報量も、一緒に過ごした時間も、2人で残した思い出の数も、知火牙くんにしてもらった調教の深さも、えっちの回数だって、何もかも他の3人に負けてるあたしが、唯一勝てる知火牙くんの一番。


 一緒に仕事した時間が一番長いこと。一緒に渡ったやばい橋が一番多いこと。新しい会社での代表と副代表っていう夫婦みたいな一番離れられない立場にいること。起業にあたってたくさんの苦労をともにしていること。

 そういうのを心の支えにしてハーレムメンバーへの嫉妬心を堪えてたのに。劣等感をギリギリのところで抑え込んできたのに。


 この女は、あたしから知火牙くん本人だけじゃなく、そういうあたしの大事なものを全部全部奪い去って。

 なんの努力もしてないくせに知火牙くんの隣に立とうとしてる......。


 許せない......。


 けどまだ......まだ。知火牙くんに刻んだあたしの証はまだある。

 腰のタトゥーを見て精々悔しがりなさいよ。


 それに、あたしから奪い取って会社を立てるってことは、そこからこの女の......ひいては知火牙くんの足取りを追えるかもしれない。


 株式会社にするってことなら必ず表に出てくるはず。

 仮に当初の予定通り裏の仕事を中心にこなす会社になるにしても、マクロを経由さえすれば見つけられるはず。


 会社を奪ったってこともそうだし、指輪の話も妊娠の話も、完全にあたしらのことを個人狙いした話題の振り方だった。

 この女からしたらあたしにダメージを与えたつもりかもしれないけど......それは確かにダメージ食らったけど、それでもそれは悪手だったね。


 あたしだってそこまでバカじゃないんだよ。

 あたしに知火牙くん奪還の可能性を繋いだことを後悔しなさい。


<そういえば、ちかちゃんってば腰に訳わかんないタトゥーほってたよね? あれもちゃんと消したこと伝えておかないと! 若いときはちょっとヤンチャしたくなるのもわかるけど、ウチが消してあげてなかったら一生消えない傷になってたところだよ? だからほら、ウチに感謝しながらお友達に報告してあげて?>


<あ、はい。**さま。えっと......この辺でしたっけ?>



 こ、こんのクソアマぁ〜!


 ほんとになくなってるし〜!

 そ、そういえばさっきから腰のとこ見えてたのに、そこには確かになかった・・・・


 知火牙くんの身体を傷つけるのを日和ってた他の3人と違って、なりふりかまってられなかったあたしだけが知火牙くんの身体に刻んであげた愛の証が、そこにはなかった。


<けど僕、なんであんなの・・・・彫ってたんでしょう? 昔の僕って、安易にタトゥーをいれちゃうようなかなり軽い男だったんですかね? ......**さま、僕のこと......捨てないで............>



 あ、あんなの、だなんて......。

 なんだかんだ言いながら知火牙くんもちょっとは喜んでくれてるって思ってたのに......。


「年増女......じゃなかった。唯桜いおさん......。あんたが彫った余計なタトゥーが消えたのはボク嬉しいな。会社も、ボクたちに内緒で立ち上げようとしてたみたいだけど、ボクは知ってたからね。どうやって奪い取ってやろうか悩んでたんだけど、ざまぁないね。これで唯桜さんにはなんにもなくなっちゃったわけだ。可哀想に......。ボクには想い出があるからまだいいけど......」


<ありゃりゃ、不安になっちゃった? かわいいね。でも大丈夫だよ〜、ウチはどんなちかちゃんでもちゃんと可愛がってあげるからね〜。まぁ確かに昔のちかちゃんはちょっと漢らしさってものを履き違えてた部分もあるかもしれないけど、これからはウチが旦那さまが本当にあるべき姿ってのをしっかり教えてあげるから。これまで教えてあげたことも、忘れちゃダメだよ?>


<やっぱり僕、漢らしくない人間だったんですね......。**さま、これからもよろしくおねがいします......>


<はい、ウチにお任せあれ! ま、昔のことなんて全部忘れて、これからウチと新しい想い出をもう一度積み重ねていけばいいんだよ>

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