第38話 今日からの桃郷凛夏
「はっ!?」
「えー、まだ意識を覚醒させられるのー? ほんとすっごいねぇ。さすがはウチの旦那さまだよ」
ウチが抱きついて刺してあげてから数秒、彼は自分のお腹に刺さった包丁に驚きを隠せない様子でヨロヨロとたたらを踏むも、数歩で持ちこたえていた。
驚きすぎたのか、一瞬意識がなかったように見えたけど、それもほんの僅かも瞬間。
ウチじゃなきゃ見逃しちゃうね、なんてね。
普通なら象でも数秒で気絶するような強力な神経毒だけど、さすがはウチのお婿さん。人間離れした強靭な肉体でいらっしゃる。
包丁も、最高の逸品を、この瞬間のために何日もかけて限界まで研ぎ続けた甲斐があった。
ここまでしてもまだ刺した瞬間には固く刺さりにくい感触があったんだもん。
なんとか無理矢理押し込んだけど、あれが鍛えられた肉体によるものだっていうんだから、いっそ化け物みたいだね。
「り、
「痛い? でもね、そんな痛みなんて、ウチの心の痛みにはきっと敵わないよ。だからね、しっかり反省して大人しくウチのものになろうよ」
中学を卒業して
最近になって知火牙くんを見つけて、長年積み上げた恋心が完全に燃え上がったのに、キミの隣には変な女がたくさん。
その内の2人は知ってた。中学時代から知火牙くんの近くをウロチョロしてた負け犬幼馴染ちゃんたち。
多少は大人っぽくなったとはいえ、雰囲気は当時のままだったからすぐわかった。
残りの2人は知らない。見たこともない子たち。
知火牙くんにべったりくっついて、知火牙くんの前ではニコニコとしてるくせに、知火牙くんがいないところでは喧嘩ばっかり。
さらに悪いことには、別の男との面倒事をウチの知火牙くんに押し付けて自分たちは遊びに出かけたり。
全く知火牙くんに相応しくない。
自分が知火牙くんに愛されることしか考えずに知火牙くんに迷惑ばっかりかけるような、キミに相応しくない女ばっかりがキミのことを囲んでるのを見せられて。
どれだけ涙を流したか、想像できるかい?
ウチは1人で苦しかったのに、キミは幸せそうな表情しちゃってさ。
そんなにあのお便女ちゃんたちの具合はいいのかな? ウチより? そんなわけないよね?
ハジメテを交換し合ったウチの身体が忘れられないけど、身体の疼きが止められないから処理させてるだけだよね?
離れ離れになっちゃったのはウチのパパとママのせいだし、キミに寂しい思いをさせちゃったのは申し訳ないと思ってるけど、だからってこんなヒドイ仕打ち、イケナイことだってわかるよね?
だから、知火牙くんもウチと同じ、いやそれ以上の苦しみを味わわないと不公平だよね?
大丈夫。お仕置きが終わったら、ちゃんとラブラブしてあげるから。今後は2度とウチの傍を離れられないように教え込んであげるから。
ウチの代わりに一時的に使ってたお便女ちゃんたちは、ウチが処分しておいてあげるからね。
だからしっかり、反省するんだよ?
「は......ははは、俺の腹に穴開けるなんて、やるね......ぐっ......」
へぇ、この状況でもまだ笑顔を晒せるんだ。
けど額には脂汗がにじみ出てるし、口元も引き攣ってる。
わかるよ、限界なんだよね? 辛いんだよね?
でもね。
「悪いのはあなただよ。わかってるでしょ。それに、これでわかったよね? 自分が誰のお婿さんになるべきなのか。こんなにも愛してるんだよ? 受け入れるしかないよね? ううん、返事はしなくて大丈夫。二度と逆らえないようにしてカワイがってあげるから! 他のお便女ちゃんたちには、わけてあげないも〜ん♡ ね? 一緒に幸せな家族になろ?」
「もしかして、俺のこと包丁でぶっ刺すのが『一番配偶者に相応しい子』の条件だとか思っちゃった? 俺、殴られるのも刺されるのも、別に趣味じゃないんだけど?」
『配偶者に相応しい子』の条件?
なんのことはよくわからないけど、キミの趣味と違ったとしても愛を伝えるためには必要なことだったんだから仕方ないだろう?
他の女に渡しておけないんだから、ちゃんとつかみ取りにいかないとダメだからね。
にしても......そろそろ意識もはっきりしてないだろうに、まだニッコリする余裕があるなんて、いい加減ナマイキすぎるんじゃないかい?
「......こんな状態でもまだナマイキなこと言えるんだ。違うよ、愛情を伝えたいだけ。やっぱり愛は自分で掴み取りにいかないとねっ。もちろん、包丁を刺した程度で無力化できるなんて思ってないからね。このトンカチはダメ押しだよ。しばらく眠っててね」
もちろん毒だけで知火牙くんを落とせるなんて油断してないから安心してね。
ウチの愛を証明するんだからね。
「ぐっ、痛! ..................だ......か............っ!?」
知火牙くんってば、口をパクパクさせて......。
ふぅ。ようやくかぁ。時間かかったなぁ。
「あっは! ようやく効いてきたかな?」
「......包丁、に......毒でも、仕込んで......た?」
わっ。すぐに気づいてくれるなんて、ウチの愛が伝わったんだね。嬉しいよ!
脳みそが溶けてなくなっちゃう前に、ウチと両思いだってことを確認できてよかったよ!
「お〜。さすがだねっ。そうだよ、包丁にたっぷり塗っておいたの! 大丈夫、死んだりはしないから! おつむはくるくるぱーになっちゃうかもしれないし、手足くらいは、壊死しちゃうかもしれないけどねっ♡ でも、もういいよね? もう自由なんていらないもんね? 五体満足じゃなくっても、いいよね?」
「ほ、ほん、と......やる、ね......」
へへっ、褒められちゃったよ。
時間をかけて準備した甲斐があったよ。
ありゃ、知火牙くんってば、まぶたがうつらうつらしてるよ。
眠いんだね。ほんとに限界なんだね。大丈夫、安心して眠ってていいからさ。
眠そうな知火牙くん、赤ちゃんみたいでカワイイ♡
「ゆっくり眠ってていいよ、ち・か・げ・ちゃん?」
「お......れを、『ちゃん』付けで......呼ぶ......な!」
ありゃりゃ、限界なのにまだそんなに睨みつける力があるなんて、びっくりだ。
知火牙くんってば、今でもそう呼ばれるの嫌いなんだよね。
漢らしくないって思ってるんだよね。
それも心配ないよ。すぐに男らしさなんてどうでもいいって思うようにさせてあげるからね。
それに、これくらいの意地悪許してよね。
「ううん、いやだ。これまでたっくさん意地悪されたお返しだよっ。それに、今のあなたはとっても可愛いよ。力もよわよわでまるで女の子みたい♪ ね、知火牙ちゃ〜ん?」
あ、もう言い返す力も残ってなさそう。
よかったよかった。
おやすみなさい♡
それにしても、ハーレム、か。
ゴミみたいなアイデアだよね。
知火牙くんがこんなダメな子になっちゃったのは、昔のウチがやったことのせい、かな......。
そのせいで、そんな考えを持つようになっちゃったのかな。
だとしたら......いや、そうじゃなくっても、昔のウチをぶちころしたい..................。
素敵なものはみんなでシェアするのが幸せだなんて、間違ってた。
そんなわけがないのに。
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