第37話 日曜日の御霊知火牙
「あ、やっほー、知火牙くん! 久しぶりだね〜!」
「あ、もしかして
「ねっ! そうなんだ〜。高校は遠いところだったんだけど、最近こっちの方に戻ってきたんだよ。今日は珍しく1人なのかな?」
「そうなんですね。いや、ほんと久しぶりだ......。ですね、今日は1人ですね」
........................ん?
今日は珍しく4人ともいない日。
昨晩みんなが暴れまわってたり、あまりにもいやらしく誘ってくるから、全員足腰立たなくなるまでやってたら全員いろんなものを撒き散らして気を失っちゃって。
それ自体は割といつものことだけど、そろそろベッドが汚くなってきたから新しいのを買おうと思って、1人で街に繰り出してきたってわけだ。
本来なら昨日来る予定だったんだけど、みんなとの睦み合いでそれどころじゃなくなっちゃったからね。
そんな中たまたま懐かしい先輩に出会った。
あの頃はまだ
......なのに。
「珍しくって、よく知ってますね?」
「いやぁなに、君の噂は千里を走ってるからね。たまたまウチの耳にも入ってきたんだよ」
......まぁ、そういうこともあるか?
「俺、別に千里を走るような悪事働いてないんですけど?」
「何を言うの! ちかちゃんってば、何人もの女の子を毎日毎日とっかえひっかえしてるらしいじゃないか! これは一般的に見れば明らかに良くないことだと思うけど?」
ピクッ。
『ちかちゃん』、だって?
「ちょっと。俺のことちかちゃんって呼ぶの辞めてください。忘れちゃいました? 俺、そういう女みたいな呼ばれ方するの嫌いなんです」
「............
凛夏先輩が俯いて、ぼそっと小さく何かを呟いたけど、内容は聞き取れなかった。
「なんです?」
「なーんでもなーい。それで?
凛夏先輩、相変わらずだな〜。
この人、心の中で何考えてるかあんまりわかんないんだよなぁ。
ニコニコしてるし優しい感じなんだけど、その笑顔の中には何か得体の知れないものが隠れてる気がしてならないんだよな。
俺の考えすぎで、ただの気の所為ならいいんだけど。
「ほんとよく知ってますね。けど、悪事じゃありませんよ、人聞き悪いですね。俺は4人とも全員を心の底から本気で愛してます。遊びじゃありませんから。全員、必ず幸せにしますよ」
「へぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぇ。そぉ〜〜〜〜なんだぁ。うん、やっぱり君は変わらないね。ヒドイ男だ。最低のゴミ野郎だね♪ まぁその方がウチにとっても都合が良いわけだけど。じゃあどうだろう。ウチもその輪に入れてくれないかい?」
ニヤニヤと怪しいことこの上ない感じ。
何が目的かは知らないけど、この人はダメな気がする。
「いやですけど」
「即答!? どっ、どうして!? 知火牙くんの初体験の女だよ!? 一緒に性技を磨いた仲だろ!? 年上好きなんでしょ!? ハーレムメンバーの半分は年上だって聞いてるけど!? 昔は知火牙くん、ウチの中に入ろうとする途中で出しちゃうくらいウチの身体好きだったじゃないか! 繰り返してたらスる度に上手にはなっていったけどさ!」
確かにあの頃の俺はダメダメだった。
性行為が女性を幸福に導く重要な要素だと気づいていなかったせいで、なんのテクニックも堪え性もなかった。
「いや、あれは凛夏先輩が『好きな人が処女は嫌だからもらってほしい』とか『練習してから告白したい』とか依頼してきたからヤッただけでしょ。結局、凛夏先輩、誰にも告白せずに卒業しちゃうからムダになっちゃいましたし。あの頃は俺も童貞でなんもわかんなかったし、気持ちよすぎてびっくりしただけですよ」
「言い訳するの〜? 漢らしくないよ〜?」
挑発的な笑みを浮かべながら上目遣いに見つめてくる。相変わらずキレイなお顔をしていらっしゃる。
それは、確かにダメだな。ダサかった。反省だ。
「ぐっ、確かに。気持ちよかったのは事実ですね、失礼しました」
「いいよいいよ〜。それで? ウチをお嫁さんにしてくれる? ウチ、今はモデルのお仕事もやってるくらいには綺麗になれたと思うし、髪はピンクにしてるしネイルとかもばちばちだけど、もし知火牙くんが望むならキミの好きな見た目になれるよ?」
確かに見た目は抜群だ。
昔からだったけど、あの頃以上に生粋のギャル。
玲有さんは大学に入ってから意図的にギャル風にしてるわけだけど、凛夏先輩は生粋のギャル。中学時代からバッチリ決めてた。
かといって、自分の見た目に激しいこだわりがあるわけじゃないみたいで、格好はころころ変えるところがあるし、俺の好みの見た目に変えるってのも本当だろう。
胸のサイズも、多分4人よりも大きい気がする。
けどなぁ。この人、なんかヤバいんだよなぁ。
しかも、彼女じゃなくてお嫁さんとかって言ってきてるし。
「無理です。しかも要求上がってるじゃないですか」
俺の即答に、心底がっかりしたような表情で落ち込む凛夏先輩。
さすがに良心の呵責に苛まれなくもないな。
「ウチ......本気なんだけど......? 本気で知火牙くんの彼女にしてほしいんだけど?」
「俺は今の所これ以上ハーレムを増やす気はないんですよ。悔しいですけど、俺の身1つじゃ、4人を幸せにするのが限界なんですよ。これ以上はみんなを不幸にしてしまう。だから、すみません。俺の漢らしさの限界です......情けないですけど」
「ふーん。そぉなんだぁ」
ふぅ。これで諦めてくれるかな。
「ならもう、しょうがないよね」
凛夏先輩は、俺に急に抱きついてきたと思ったらゆっくり離れていく。
俯いてるからわかりにくいけど、口角をやや上げて嗤う凛夏先輩。
その視線の先、つまり、俺の腹部には、鈍く光り輝く包丁が、ぶっ刺さっていた。
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