第3章 ハーレム崩壊の兆し

第36話 土曜日の御霊知火牙

 プルルルルルル。プルルルルルルル。


 あ、朝から珍しい人から電話だな。

 みんなまだ寝てるし、起こさないようにベランダに出て電話取るか。


「はい、もしもし、御霊みたまですけど」



 電話に出ると、ある程度聞き慣れた男の声が耳元に響く。


<お、御霊、久しぶりだな。今大丈夫か?>


「えぇ、丙午へいごさん。お久しぶりですね。大丈夫ですけど、どうしたんですか?」



 丙午耀へいごよう

 昔、唯桜いおさんのところに突っかかってきた唯桜さんの幼馴染らしい男性。


 唯桜さんを襲おうと漢らしくないことをしようとしてたからいろいろわかってもらった。

 そのときに何故か仲良くなって、唯桜さんとは二度と会わないっていう約束はしたけど、俺とはたまに一緒に飲みに行く仲間になってる。


 投資関係の話とかの話題が合うから、今となってはなかなか良い友達だ。

 唯桜さんを彼女にしたとき、なんか『俺の唯桜が......俺が先に好きだったのに......』とか泣き言も言いながら一回刺してきたけど、いい機会だからともう一度ワカってもらって、すっかり大人しくなったので安心してる。


 かと言って、そんなに頻繁に電話をかけてくるわけでもないので、何かあったのかと勘ぐってしまう。


<いや、御霊を飲みに誘おうと思っただけなんだけどな。どうだ、今晩どっかに飲みに行かないか?>



 警戒はムダだったらしい。ただの飲みの誘いとのことで一安心。

 ただ、今日はちょっとなぁ......。


「行きたいのはやまやまなんですけど、すみません。今日は買い物に行ったあと家の模様替えをしなきゃいけないんで、今日はちょっと時間ないんですよねぇ。再来週とかなら、いけるとおもうんですけど」


<あー、そうかー。それは残念。相変わらずみんなとイチャコラしてんだろうなぁ。羨ましいぜ>



 ん? もしかしてなんか匂わせようとしてる?


「唯桜さんもみんなもあげませんよ?」


<今更そんなこと言わねぇよ! にしてもお前、そろそろ誰かと結婚する気はねぇのか? 『一番相応しい子と結婚する』って伝えてるんだろ?>



 違ったか。良かった。

 けど、結婚......ねぇ。


「んー、そうですねぇ。確かにみんなには『一番ふさわし人にお嫁さんになってもらう』とか言ってるんだけど、実際迷ってるんですよねぇ」


<迷ってる? 何を?>


「ほんとに結婚相手を1人選ぶかどうか、ですよ」


<結婚、しねぇってことか? そりゃ嘘をつくって意味だろ? そんな漢らしくねぇことするつもりか?>


「いや、いつかはしますよ? おっしゃる通り、嘘をつくなんて卑劣な真似する気はありませんし。ただもう10年くらいはこのままでもいいかな〜的な?」


<おいおい、そりゃあ可哀想ってもんじゃねぇか?>



 あの漢らしくなかった丙午さんが、言うようになったじゃないですか。

 けど、それ自体はほんと言う通り。


「それはそうですよね。そうなんですけど......誰か一人を特別扱いするなんて、他の子達が可哀想じゃないですか。それに、『嫁』って言葉をチラつかせたら素直に俺に尽くしてくれるみんなが可愛くて可愛くて、辞めらんないんですよね〜」


<いや、お前............。ゲス過ぎるだろ。ドン引きだわ。ほんとゴミクズみたいなやつだな。漢を語るんじゃねぇよ>



 何を甘いことを。


「ゲスい? 漢なら大事な人のいろんな顔を見て自分だけのものにするのが大事でしょう?」


<..................まぁいいや。けど、お前今、周りにあの子たちいねぇのか? こんな話、聞かれたらタダじゃすまねぇんじゃねぇのか?>


「はは、大丈夫大丈夫、まだみんな寝室で寝てるし、俺だけベランダで喋ってますから。丙午さんが録音とかしててみんなにバラさない限りは大丈夫。まぁ、万一バレたとしても、俺から彼女たちへの愛は変わらないからね。たくさん愛を伝えて許してもらうさ」


<うーん、クズすぎていっそ清々しいな。お前が大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうけどさ。じゃ、飲みはまた今度誘うわ。じゃあな>


「はい、ご連絡くださってありがとうございました。また次回」



 ピッ。


 ふぅ、たまには野郎と話すのも楽しいから飲みも行きたかったけど、今日は無理だからなぁ。

 タイミング悪し!









「..................騙してたんだ。知火牙ちかげ、ボクのこと、騙してたんだ。お嫁さんにしてくれるって、言ったのに!!!!!」


「い、衣莉守いりす!? ......起きてたのか」



 通話を切ってベランダから部屋の中に入ろうと振り返ったそこには、これまでに見たことのない怒りの形相を俺に向ける衣莉守がいた。

 エグいほど怒ってても可愛いとか、マジで天使。


「ボクの純情を弄んだ罪、知火牙の人生で償ってもらうからね。手足をもいで、薬漬けにして、ボクがいなきゃなんにもできないベビちゃんにして、一生愛してやる」


「待て待て衣莉守。どこから話聞いてたのか知らないけど、誰か1人はちゃんと嫁にもらうって。漢として約束は破らないさ」


「10年はこのままって言ってた。たしかに約束は破ってないけど、そんなの許さない。ボクは20代でお嫁さんになって知火牙の赤ちゃん産むんだ!」



 こりゃあ興奮しすぎてて手がつけられないな。声も大きすぎだし、みんな起きてきちゃうよ。






「むにゃ......。おはよ〜。どうしたの? チカと衣莉守ちゃん、喧嘩? ようやく衣莉守ちゃん出ていってくれるの〜?」


「ちーくん大丈夫!? 三頭みずさんが暴走してるっぽい声が聞こえたけど、何もされてない!?」


「ふわぁ〜。朝からなに〜? うるさいよ〜。知火牙くん、あたしを抱っこして〜?」



 あぁ、可哀想に、起きてきちゃったよ。


 それにしても今日も三者三様の寝起き姿。みんな素敵だね。

 4人とも昨晩のおもらしの跡が残ってて、絶妙に可愛い。


「悪いのは知火牙だよ。さっき知火牙、電話で『あと10年は誰もお嫁にもらう気はない』って言ってたんだ。こんな裏切り許せるわけ無いだろ!?」


「「「っ!?!?!?!?!?!?!?!?」」」



 おいおい、ニュアンスが若干変わってる気がするし、ここでそういうこと言うのはやめようじゃないか。


「ち、チカ......? それ、ほんとなの?」


「あーうん、まぁ近いニュアンスのことは言ったかもな」


「「「そんなの許さないよ!!!!」」」


「それもこれも、知火牙が迷う原因は、みんながいるからだよね。ボクだけになれば、知火牙は即行で結婚してくれるはずだもん」


「「「たしかに」」」



 おっと、珍しくみんなの意見が一致してるじゃないか。

 仲良きことは素晴らしきかな。


「ボク、前からいい加減に馴れ合うのも終わらせた方がいいと思ってたんだよね。今までは知火牙ちかげのことなんにも知らないくせに彼女ヅラしてる3人がブザマすぎて滑稽だから黙って見守ってあげてたけど、そろそろ限界だよ。レズセはもうしたくない。今日で決着をつけてやる」


「ふーん、三頭みずさん、威勢が良いね。何かいいことでもあったのかしら? あ、今日が命日になるから嬉しいのかな? レズセが嫌なのは一緒だよ。三頭さんも模久もくさんも、真っ黒だしグロいし舐めるの嫌すぎるんだよね。私、手加減とかするつもり無いから。この際だから模久さんも佳音かねさんもまとめて消し去ってあげる」


「へー、つち先輩、大口叩くねぇ。衣莉守ちゃんはともかく、藍朱あいすも殺ろうだなんて、できると思ってるの? 大体、衣莉守ちゃんはともかく、藍朱のをグロいって言うとかね、それブーメランだから。鎚先輩のも大概汚いからね。そんな身体で人のことバカにしようとかちゃんちゃらおかしいね。ちょっとぽっこりしてきたそのお腹、ボッコボコにして堕ろさせてあげるよ。衣莉守ちゃんも佳音さんもまとめて、絶望させたげるよ」


「みんな朝から元気だねぇ。けどあたし、今日はもうちょっとゆっくり寝たいんだよね〜。3人とも真っ黒で汚いよ。普段から知火牙くんのやつを型どって作ったおもちゃ入れっぱなしだからガバいし。誤差だよ誤差。藍朱ちゃんも、そんなちっちゃい身体で何ができるの? 他のみんなも、無意味なことで争わないでよ。これはそろそろ埋めないとまずいか」





*****






「「「「あへぇ〜〜〜〜〜」」」」


「みんなわかってくれた?」



 あれから10時間以上。

 まだ朝だったのに外はすっかり夜。


 みんな暴れすぎてたからさすがにちょっとお仕置きついでにナカヨシしてあげた。

 土曜日が一日潰れちゃったじゃないか。


 全員、喉が潰れて答えられなくなってるみたいだけど、コクコクって首を縦に振ってくれてるし、わかってくれたみたいでよかった。


「それじゃあ、もうちょっとヤろうか」






「「「「ひっ!」」」」

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