第29話 鎚玲有が病み落ちしたきっかけ3

「う、うそ......こんなにおっきいんだ......」



 知火牙ちかげくんの勢いに圧されて手を引かれるまま移動してきた私の目の前には、想像してた何倍もおっきいマンションが建ってた。


「あはは、部屋の中も結構イイ感じなんですよ。ほら、玲有れいあさん、行きましょ?」


「あ、えと、う、うん......」











「................................................なにこれ」


「あれ、あんまりお気に召しませんでした? まぁまだなんにも置いてなくて殺風景だもんなぁ」


「そ、そうじゃないよ!」



 高級ホテルみたいな豪華なエレベータで15階まで上がって、知火牙くんに促されるまま部屋に入った私の目に映ったのは、あまりにも広すぎる部屋。


 お風呂場とかは温泉の浴槽みたいな大きさで一度に何人も入れそうだったし、すっごいジャグジーついてたし。

 キッチンも、ものすごく広いシステムキッチン。

 寝室にはキングサイズのベッド。

 クローゼットとかお手洗い、その他何もかもが規格外の大きさで、私の実家よりも大きい。


 その部屋を一通り見せられて、今は同じ階にある知火牙くんの部屋のリビングでお話中。




「あ、あんなすごすぎる部屋、やっぱりもらえるわけないよ!」



 庶民の私には手に余るよ!


「玲有さん、俺はね、女の人を金で買ったりするような漢らしくないことはしたくないんですよ。だから本当は俺がちょっとした金持ちだってのを伝える前に、いつもの俺を好きになってもらって玲有さんを手に入れたかったんです。でも、俺のことを隠したまま玲有さんに付き合ってもらうなんてのも、それはそれで漢らしくないって思いました」


「へ? あ、そう、なんだ?」


「えぇ。だから、部屋をプレゼントするのを口実に本当の俺を知ってもらおうって考えたわけです。しかも、大好きな玲有さんと同じマンションに住めるようになるわけですから、俺には得しかないんです。ですから、できれば玲有さんには、この部屋をもらってほしいなって」



 笑顔が眩しすぎるっ!

 今までは後輩くんだってのもあって心の平穏を保ててたから大丈夫だったけど、殿上人だって知っちゃったせいでいつも以上に眩しく見えちゃう!


「だから私は相応しく......『玲有さん!!!!!』......はいっ!?」



 きゅ、急に何!? 知火牙くんが大きい声出すなんてすっごい珍しい......。


「玲有さん、あなたは自分の魅力を正しく理解すべきです。いつもいつもナンパされてるでしょう? 今まで何度も誘拐されかけたでしょう? あなたはその容姿だけですでに物凄く素敵な人なんです。にもかかわらず、いつも1人で努力し続けて、人知れず影で涙を飲んで無理をして......。中身まで女神なんですよ!」


「あ、あぅあぅ......」


「俺は、そんな玲有さんが好きです。愛してます。ちょっとおっちょこちょいでがんばり屋な玲有さんを俺が支えたい。素敵な玲有さんに俺だけを支えてもらいたいんです! 玲有さんが俺に相応しくない? いいえ、むしろ俺がまだ玲有さんの魅力に釣り合ってないんです。それを、自覚してください」


「は、はひぃ......」



 知火牙くんの剣幕に圧倒されちゃって、情けない声を返しちゃった。


 そりゃあね? 私だってさっきまではそれなりに自分に自信あったよ? それなりに見た目も整っててモテる方だと思うし。

 けど、知火牙くんのホントの姿みちゃったら、そんなの霞んじゃうよ......。


「じゃあ、玲有さんがわかってくれたってことで、玲有さん。1年半傍で見てきて、貴女の素敵さをたくさん知りました。俺、玲有さんのこと、心から愛してます。離したくありません。他の男に取られたくないんです」



 し、真剣な目......。こんなの、私が自分に自信がないからって断るなんて不誠実過ぎるじゃん......。


 私、知火牙くんの彼女になる。

 ..................よしっ、こうなったら思いっきり知火牙くんを愛して愛して愛しまくって、知火牙くんに相応しいお嫁さんになるぞ!


 でも、まだちょっと不安だなぁ。

 知火牙くん、めちゃくちゃかっこいいのにこんなに凄い人だなんて、他の女が置いておくわけない......。


 私以外の女が知火牙くんとイチャイチャするのを想像したら......。あっ、それはだめだ。






 私、さっきまでなにおかしなこと考えてたんだろ。いくらお金持ちだからって知火牙くんは知火牙くんなのに。

 私、自分が知火牙くんに相応しくないとか言って諦めようとしてた?


 ありえないでしょ。


 うわぁ、知火牙くんの女になるって決意したら急に頭が冴えてきた。

 お金とか関係なく、知火牙くんはこれまで何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も私を助けてくれた。カッコよくて可愛い、私の大事な後輩。私の好きな人。私の初恋の人。その事実が変わるわけ無いじゃん。こんなに大好きな知火牙くんを逃がすなんて、混乱してたからって私、どんだけありえない選択をしようとしてたんだ。


 私よりも知火牙くんを幸せにできる女がいるって、本気で思ってた? バカすぎる。

 私だけ。そう、私だけが知火牙くんを幸せにできるんだ。だってこんなに大好きなんだもん。

 知火牙くんだって言ってたじゃん。私が好きって。私が一番好きって。


 血迷って愚かな考えをしてた私はもう終わり。絶対に知火牙くんを手放したりはしない。

 もし変な女が近寄ってきたら、そのときは容赦しない。


 知火牙くんの自由を奪ってでも私と永遠にイチャイチャして過ごしてもらわないと。

 お金には困らないんだし、ずーっと2人で退廃的な生活を送るのもいいよね。


 ぐへへっ。私の知火牙くん。私だけの知火牙くん。


 あ、そうだ。お嫁さんになるんだから、呼び方もそろそろ変えたほうがいいかな? そうだなぁ......ちーくん、なんてどうかな? ラブラブ夫婦って感じしない?

 うんうん、いいねいいね。そうしよう。ちーくんちーくんちーくんちーくんちーくんちーくんちーくん。私の旦那様。一生一緒だよ。


 おっと、思考が飛躍しちゃってた。まずは知火牙くんのプロポーズを受けないとね。


「ちーくん......。うん」


「だから玲有さん、どうか、俺の3人目の彼女になってくれませんか?」


「はい......。ふ、不束者ですが、どうぞよろしくおねがいしま........................って、え、なに? 3人目?」


「あ、言い忘れてた。実は俺、真の漢としてハーレムを作って全員幸せにすることを人生の目標にしてるんです。それですでに彼女が2人いまして。2人とも幼馴染なんですけど、可愛くてどうしても手放したくないんです。玲有さんと同じくらい。俺は付き合い始めた順番とか関係なく、全員に愛を注ぎますから。安心してくださいね?」











「ちーくん。二度とこのお部屋から出られない覚悟はできてる?」

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