第28話 鎚玲有が病み落ちしたきっかけ2
へ、部屋......?
そ、それってまさか............同棲しようってこと〜!?
「ち、知火牙くん! そ、それはちょっと早いっていうか......先にご両親にもご挨拶しなきゃだし!」
あれ? 同棲するなら結婚してなきゃいけないんだっけ?
なんかわかんなくなってきた......。とりあえず今日私は知火牙くんと結婚しちゃう、のかな?
......はっ! 私は今日で18歳になったけど知火牙くんはまだ17歳だから結婚はできないか......。なら婚約、かな?
うん、それならできるよね。
いいよ。知火牙くんの想い、私確かに受け取ったよ!
「いやいや、俺の親に挨拶とかはしなくていいですよ〜」
「ダっ、ダメだよ! そういうことはちゃんとしとかないと、常識がない子だって思われちゃう!」
「ホント大丈夫ですよ。親のじゃなくて俺の部屋なんで」
「ほへ? そ、そりゃそうだと思うけど......?」
そりゃ私だって、知火牙くんのご両親のお部屋にお邪魔する気は全然ない、けど?
「あぁ、言い方悪かったですかね? 俺が持ってるマンションの一室を、
「あぁそういうこと......って、え? 知火牙くん、マンションの部屋なんて持ってたの!?」
ち、知火牙くん、なにかとお金持ちだとは思ってたけど、自分の部屋まで持ってたんだ。
そこで同棲生活......。これまで以上に常に一緒の生活......。
..................想像しただけで......最高......。
あぁ、私、今日知火牙くんと初夜を過ごすんだ。
ふふっ、私の誕生日なのに、私が初体験を知火牙くんにプレゼントするだなんて、なんかおかし♪
「いやいや、俺が持ってるのは一室、じゃなくて、マンションそのものですよ」
「え......え???? そんなことある?」
「あ、結構安かったんですけど、立地とか意外と良くて買ったんですよ」
「や、安かった......マンション買うって、そういう、お小遣いで買えちゃうような感覚のお値段なんだっけ?」
「ですね。敷地面積が大体600坪ちょっとで、15階建てにしては、めちゃくちゃ安かったんで」
「......私、あんまり土地の広さってピンとこないんだけど、600坪ってどれくらいなのかな......? って、15階建て!? おっきいやつじゃん!」
なんだか今まで近くに感じてた知火牙くんのことが別次元の人に見えてきちゃったな......。
「んー、600坪なんで......大体2000平米くらいですかね? どのくらいっていうのは説明が難しいですねぇ。タワマンってわけでもないですし、そんなに驚くことじゃないですよ〜」
「ち、ちなみにおいくらくらいで買ったの?」
「えー、確か、35億くらいでしたかね?」
............................................................。
「ごめん、なんて?」
「35億くらいだったと思います」
「さ、35億円?」
「35億円。って、そんなにびっくりすることないですよ。ちょっとした税金対策にもなりますし、実用性もあるんで。人に貸し出したらちゃんと収益も上がりますしね」
い、意味がわからないんだけど......。って、もしかして。
「知火牙くん、私のことからかってるでしょ! お姉さんをからかってそんなに楽しい? ダメだよぉ? 高校生で......っていうか誰だってそんなこと簡単にできるわけないことくらい私にだってわかるんだからね!」
知火牙くんが真面目な表情で言うから危うく騙されるとこだったよ!
まったく......知火牙くん、そういうとこあるよね。平気で先輩をからかって面白がるところ!
誕生日にやるなんてひどいよ!
「え? いや、からかってないですって。俺、いろいろやってるんで、ちょっとだけお金持ちなんですよ、実は」
てへっ、じゃないよ!
え? 知火牙くん、マジでその次元のお金持ちなの?
「こ、高校2年生だよね? そんなこと......ありえるの?」
「んー、ありえてるみたいですよ? けど、真の漢としてはまだ全然足りないんですけどねぇ。世界長者番付にも載れてませんし」
「せ、せかいちょうじゃばんづけ......。載ろうと思ってるの?」
「え? はい、そりゃそうですよ。漢を極めるためには、避けられない道ですからね」
なんか頭痛くなってきた......。雲の上の人じゃん......。
私とは生きてる次元が違うじゃん。
「ごめん......。私、そんな人のお嫁さんになる覚悟......ないんだけど......」
「え?」
「へ?」
知火牙くん、ぽかんとした顔してる......。なに? どうしたの?
覚悟できてないことがそんなに意外かな......。誰だって尻込みしちゃうと思うんだけど......。
「私、知火牙くんがそこまでのお金持ちだなんて知らなくて......。知火牙くんのことは大好きだけど、私、そんな凄い人の隣に立てるような凄い人間じゃないの。だから......お嫁さんになる勇気が、ありません......。だから知火牙くんと一緒に住むっていうのも......受け取れません......」
あーぁ、私の初恋......。こんな意味不明な形で終わるんだなぁ。でもこれでいいんだ。知火牙くんには知火牙くんに相応しい子と、幸せになってほしいもん。私じゃ、ダメだもんね。
さっきまで誕生日だし、知火牙くんと同棲できるって期待して天国状態だったのに、今はもう地獄だよ。
あ、あれ? 私......泣いてる?
「よしよし、泣かないで、玲有さん。そっか。やっぱり玲有さん、俺のこと、好きでいてくれたんですね。嬉しいです。俺も、玲有さんのこと、好きですよ」
抱きしめられてゴツゴツした手で頭を撫でられてる......。安心しちゃうな......。
それに穏やかな声......。ショックで知火牙くんの顔は見れないけど......きっと優しく微笑んでくれてるんだろうな......。
だけど、今「好きだ」なんて言われたって、私、応えられないよ。
「けど、ちょっと誤解があるみたいですね」
「..................誤解?」
「えぇ。俺と一緒に住む、って言ってましたけど、そうじゃないんです。玲有さんへの誕生日プレゼントは、文字通り部屋をお贈りしたいってことなんですよ」
「ずびっ......。どういうこと?」
私と同棲したいって意味じゃなかったってこと?
私をお嫁さんにしたいって意味じゃなかったってこと、なのかな?
それはそれで残念だけど......私は諦めなきゃいけないんだ。ちゃんと知火牙くんの目を見て話を聞こう。
あ......やっぱり凄く優しい目をしてる......。やっぱり好きだなぁ。
「玲有さん、前に言ってたでしょ? 大学に入ったら大学の近くで一人暮らししようと思ってるんだって。玲有さんが目指してるの、
「あ............」
そういえば前にちょっとだけ話した気がする。
けどだからって、部屋をプレゼントするとかありえる?
「一応、部屋は4LDKで風呂とかもそれなりに大きいですし、住心地は悪くないと思うんですよね。それに俺もそのマンションに住んでるので、玲有さんが卒業してもすぐに会えるから、いいかなって思ったんですよ。俺の都合で贈ろうとしてるものだから、玲有さんは受け取ってくれないかもって思ったんですけど......ダメですか?」
「......ダメだよ」
「15階の1部屋を贈りたいんですけど、眺めも結構いいですよ?」
「ダメだって。私なんかがそんなのもらえないよ」
混乱しっぱなしだけど、私には分不相応だってことくらいわかるよ、そんなの。
「ふふふ、玲有さん、やっぱ貴女は素敵な人ですね。そのへんの人なら、願ってもないのに金につられて寄ってくるのに、玲有さんは違う。俺の見込んだ通り、いや、それ以上の人です!」
「なんかわからないけど、それ買いかぶりだよ」
知火牙くん、お金持ちなのに目は曇ってるんだ......。可哀想に。
「玲有さん、俺のこと、好きですか?」
「え? あ、うん、好き......だけど......」
権利はないってわかってるから。もうやめてよ。
「なら安心です。玲有さん、俺の彼女になってくれませんか? いや、俺の彼女にしますね。もう逃がすつもりは、ありません」
「あ......え......? う、うん? だから、ダメだって。私は相応しくないもん......」
「俺、今までほしいと思ったもの、逃したことないんです。玲有さんが俺のこと嫌いでどうしてもイヤだって言うなら、考えますけど。そうじゃないみたいですし。とりあえず、部屋、見に行きましょう?」
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