第26話 ちょっとやりすぎる鎚玲有
ガチャ。
部屋の玄関のドアが開く音が聞こえる。
この部屋の鍵を持ってるのは私とちーくんだけ。
だから真っ暗で何も見えないこの部屋の中でも、必然的に入室してきたのはちーくんだってわかる。
ま、部屋にさえ入ってきてくれたらちーくんのことは匂いでわかるから、こんな推理意味ないんだけど。
それにしても、もう午前2時だ。
普段のバイトだったらどんなに遅くても23時には帰ってきていちゃいちゃしてくれるちーくんが、午前さま。
天体観測にでも行こうとしてるのかな?
もしかして、浮気、じゃないよね?
「ちーくん、おかえり。遅かったね」
「ただいま。ごめんね、
確かにCHAINには『遅くなる』ってメッセージが送られてきてたけど......。
ちーくんが珍しく疲れた顔してる。
あと、ものすごい女の臭いがする。香水の匂い、臭すぎるよ。
こんな匂い、
私の知らない女の匂い。
............お仕事なんて言って、他の女とよろしくヤってたんだ。
私達にはたくさん我慢を強いておきながら自分は気軽に浮気するんだね......。
「そっか。そうなんだね。こんなに女の匂いプンプンさせてるけど、お仕事だったんだもんね?」
「ん? うん、仕事だったよ? いつも通り便利屋の仕事。あんまり愚痴こぼすのも漢らしくないかもしれないけど、今日は大変だったよ〜」
ふーん。そうやって適当に煙に巻こうって?
私がこの程度のことに気づかないとでも思ったの? 流されると思ったの?
「へぇ、新しい女の子をイカせまくるのが大変だったの? それとも気持ちいいところ探すのが大変だったの? 回数が大変だったの?」
許せないよ。私はこんなに心配して待ってたのっていうのに。
お仕置きして私への愛を思い出してもらわなくっちゃ。浮気が長引くと良くないからね。悪いのはちーくんだよ。
「おらっ............って、あれ?」
あれ、私、ちーくんを気絶させようと思って思いっきりワインの瓶で殴りかかったのに......ちーくんがいない?
パシッ。
あ、あれ!? 瓶が取られた!? 後ろ!?
「危ないよ、玲有さん。玲有さんが怪我したらどうするの。お腹に赤ちゃんもいるんだから、暴れちゃダメでしょ?」
「え? あ、う、うん、ごめんなさい......じゃなくて!」
ひっ......。な、なに凄んでるのよ!
そ、そんなことで屈したりしないんだから! ちーくんにはちゃんとワカってもらうんだから!
「それにしても......あー、そっか。玲有さん、俺のこと全然信じてくれてなかったんだね。残念だなぁ」
「そっ、そんなことない! 私はちーくんのこと世界で一番信じてる! ちーくんのことしか信じてない!」
「じゃあ、なんで俺に殴りかかったの?」
「そ、それは......ちーくんからあんまりにも女の匂いがぷんぷんするから......女に会ってきてないなんて絶対ウソだから......」
そーだよ。脅したって意味ないんだから。
悪いのはちーくんのくせに!
「あー、なるほど。今日の仕事は掃除だったんですよ。それで匂いがついたんでしょうね。心配させてごめんね?」
......は?
「..................お掃除で女の子の匂いが移るほど近くにいたの? えらくえっちな掃除なんだね?」
言い訳も適当すぎじゃない?
私ってそんなに適当でも良いと思われてるってことなのかな......。
「あー、そうじゃなくってね。掃除っていうのは............あー、玲有さんに聞かせるような話じゃないか」
「言え」
私に隠し事しようなんて無駄。
ちーくんがこれ以上私に隠そうとするなら、首に当てたこの包丁で、今すぐ頸動脈を切り裂く。そんで私もすぐに後を追ってやる。来世で、幸せになろ?
「わかったよ。ほんとは玲有さんにはあんまり聞かせたい話じゃないけどね。俺、昔からなんでも屋やってるでしょ? その伝手で人間を処理......掃除する仕事を時々受け持ってるんだ。今日始末したのは結婚詐欺の常習犯の子2人。たぶんその子たちの匂いがついたんじゃないかな?」
「あ............え?」
え、どういうこと?
ちーくんが女の人を............殺ったって、こと?
..................そんな......。
「ちーくんが私以外の女と縁を結ぶなんて、許せない。私に内緒で......私を謀って!!!」
「よしよし、ごめんね。この仕事、実入りは大して良くないんだけどね。受けた依頼はちゃんとやりたいし、それにみんなを幸せにするためにはお金はちょっとでも多くあった方がいいからね。始末する人も消しておくべき人ばっかりだし。けど玲有さんには刺激が強いと思って言えなかったんだ。血なまぐさい話なんて玲有さんは知る必要ないんだから」
頭よしよしきもちー!!!! イクッ。
じゃない!
「ふーっ! ふーっ! お金なんて余るほどあるんだからもういいじゃん! それに......私のこと、信じてなかったんだ!」
「違うよ。そうじゃない。俺は玲有さんのこと信じてる。心からね」
「じゃあ教えてくれても良かったじゃん!」
「玲有さんには、俺が家に帰ってきたら、純粋な気持ちで暖かく迎えてほしいからさ。俺の汚い部分なんて見せたくなかったんだ。俺は、漢、だからさ」
........................もぅ、しょがないなぁ。
「漢、漢って。ちーくんはいっつもそればっかり。その言葉を使われちゃったら私、折れるしかないじゃん。ずるいなぁもぉ」
「あはは、ありがとね。わかってくれて嬉しい。優しい玲有さんはやっぱり素敵だな。愛してるよ、玲有さん」
「わ、私も............」
キス......というか舌をしゃぶられて脳の中がパチパチ弾けるような感覚に陥る。快楽物質が出すぎてる。
ちーくん、好きぃ......。
「んー、でも事実無根の罪で殴られたのは悲しかったなぁ。俺はこんなに玲有さんのこと愛してて信じてるのに、玲有さんは信じてくれてなかった。俺の一方通行だったのかぁ。お嫁さんになって貰う人とはしっかりした信頼関係を結びたかったんだけどなぁ。そっかぁ、玲有さんは俺のこと信用できないかぁ。残念だぁ」
「う、うえぇぇぇぇぇん。ごめんなさぁぁぁぁぁぁい。もう疑ったりしませんから。ちーくんのお嫁さんになりたいんです。ぐすんっ」
「あぁ、ごめんね、いじめ過ぎちゃった。冗談だよ、わかってるでしょ。俺が玲有さんを逃したりしないことくらい」
ほんと、上げて下げて、アメとムチを繰り返す最低のクズ男のくせに......。なんでこんなにかっこいいのよ。
ずるいなぁ。
「うん。ちーくん、大好き」
「俺もだよ、玲有さん。でもお仕置きは必要だよね。来週の月曜はみんなでナカヨシの日にするね」
「やぁだああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます