第16話 土曜日のハーレム(外敵2)

「俺を無視するな!」


「あ、まだいたんですね」



 俺たちが浸ってる間、律儀に黙って待っててくれるなんて、意外と漢らしいところもあるじゃないか。

 できればそのまま立ち去ってほしかったところだけど。


「人前で5人でいちゃつくなんて、どうやらキミには常識がないらしいな!」



 俺に向かって言ってるのか?

 そういうのは常識を弁えてから言ってほしいところだな。


夜枚やまいさんには言われたくないな」


「はぁ!? お、おまっ、そんな真っ直ぐな目でそんな異常なこと........................。ふぅ、この際もうそれはいい」



 一見、怒りのボルテージ上がりまくってたっぽかったのに落ち着いたらしい。

 たまに居るいきなり殴りかかってくるヤツよりは、よっぽど漢として見込みあるじゃないか。


「も、模久もくさん。キミはその男に騙されてる。洗脳されてるんだ! 他の女を3人も侍らせてるクズなんて辞めたほうが良い! 間違ってる! 不健全だよ! どうか目を覚まして!」


「..................」



 話しかけるターゲットを俺から藍朱あいすに変えて叫ぶ彼。


 藍朱はすぐには返事を返さないけど、俺の腕の中でブルブルと震えている。

 あー、これは相当ご立腹のご様子。


 せっかくのいい雰囲気を台無しにされたからかな?


 ま、俺も俺の大事な関係を赤の他人に『間違ってる』だの『不健全だ』だのと不名誉かつ事実無根の批難を浴びせられて、思うところはある。

 それに、藍朱だけじゃなく、衣莉守いりす玲有れいあさんも唯桜いおさんも、彼の剣幕に少し怯えてるじゃないか。俺の彼女たちを怯えさせるなんて、それは万死に値する罪だ。


「藍朱、そんなに怒らないで。あとでたくさんいちゃいちゃしよう。彼は俺が対応するからね。俺にしがみついて黙っててくれたらいいからね」



 今にも怒りが爆発しそうな藍朱をなだめるように声をかけて、目の前の男性に向き直る。


 俺の腕にお姫様抱っこされたまま、こくんと小さく頷いてぎゅっと俺の服を掴む藍朱が愛おしい。

 他のみんなも、さっきまでより俺に密着するように抱きよってくれる。


 キュンキュンさせてくれる彼女たちのためにも、さっさとこの場は終わらせよう。


「えっと、それで、夜枚さん、でしたっけ? いきなり現れて、見ず知らずの相手に『クズ』はひどくありませんか? 俺、あなたに何かしました?」


「俺は模久さんと同じ昏闇くらやみ幼稚園で働いてる夜枚馨やまいかおるだ。クズにクズと言って何が悪い。キミはさっきから誰がどう見たってクズそのものだろう。4人もの女性を洗脳して手篭めにした挙げ句、快楽キスで黙らせるなんて......なんだそれ。うらやま......じゃなくて、最低のクズ野郎じゃないか!」


「..................洗脳とかほんとにあると思ってるんですか?」


「うるさい! そうじゃなきゃ考えられないだろう!? この俺がプロポーズしてやってるのにOKしないなんてことあるか!」



 つばを飛ばしながらサイコなことをのたまう彼は、なんていうか、哀れだな。


 失礼ながら別にそこまで言うほどに顔が整ってるわけでもないし、幼稚園の先生をしてるってことなら、そこまで突出した収入でもないんじゃないかな。他のプロフィールはよくわからないけど、どうしてそこまで自分に自信を持てるのか、理解に苦しむ。


 まぁただの負け犬くんだってことはわかったし、正直もうどうでもいいな。

 ストーカーにならないようにだけ、処理しておかないと。


 今はそんなことより......。


「藍朱」



 ビクッ。


 俺が声をかけたら全身を震わせたあと一層丸くなって俺に身体を預ける藍朱。

 いたずらがバレて隠れようとしてる猫みたいで可愛いけど、俺に隠してたことはちょっと見過ごせない。


「夜枚さんにプロポーズされたって、ほんと?」


「............知らない」



 どうみても嘘をついてるね。


「なんで俺に黙ってたの?」


「..................知らないもん。チカ、さっき藍朱は黙ってたらいいって言ったもん」



 ふぅ、今日の藍朱は頑固だなぁ。


「そっか。じゃあ、今晩は藍朱はナシね?」


「......ヤダっ!」



 変わらずに頑なに俺とは目線を合わせようとしないけど、否定だけはいっちょ前に返す藍朱。やっぱあざと可愛いね。


「それ良いね! 今日は藍朱はなしで! 玲有さんも妊娠中でデキないだろうし、ボクと唯桜さんだけで3Pだね!」


「お、それはラッキー♪」


「はぁ!? 私はスるからね!? 手でも口でも足でも他の穴でも、使えるところはいくらでもあるんだから!」



 衣莉守も唯桜さんも勝手に玲有さんまでハブろうとしてるし。

 っていうか、俺のは冗談で、むしろ藍朱には俺の不安をワカってもらわないといけないだろうから絶対にヤるからね。






「イチャつくなって言ってるだろ!? ......それにまさかお前、俺の模久さんを犯したのか......?」


「はぁ......まだなにか言いたいことがあるんですか? 藍朱はあなたのじゃありませんし、そもそもモノじゃありませんよ。それに恋人同士が愛し合うなんて当たり前でしょう」


「クソカス野郎が......っ! 模久さんの洗脳を解け! 自由にしろ! 模久藍朱は俺が孕ませてやるんだよ! それが模久さんにとっての幸せなんだよっ!」



 ..............................なんという最低発言。

 これは流石に看過できない。


「俺の女に手を出そうとするとか許しませんよ。それに女性に対する失礼な言動。ちょっとお話が必要のようですね」


「はぁっ!? 意味わかんねぇこと言うなよ! だいたいお前も『俺の女』とかモノ扱いしてんじゃねぇか!」


「そうやって細かいことを言うからモテないんですよ」



 夜枚さんはどうやらそろそろプッツンしそうなので、このあたりでちゃんとわかって貰う必要がありそうだ。

 そのためにはみんなが近くにいると危ないな。


 彼女たちだけで帰すのもナンパされたりしそうで不安だけど、ここにいさせるよりかはまだいいか。


「藍朱、衣莉守、玲有さん、唯桜さん。すみません、どうやら彼とは少しお話し・・・しないといけないみたいだ。放っておくと藍朱が危ないかもしれないんで今日中に対処したい。せっかくのデートを中断するのは凄く心苦しいけど、あとはみんなだけで遊びに行って、先にウチに帰っておいてくれる?」



 断腸の思いで彼女たちとの貴重なデートの終わりを提案する。

 恋人とのデートよりも他人を優先する男なんてロクなもんじゃないのはわかってる。でも彼女たちなら、俺の漢としての信条を理解してくれてるだろうし、許してくれるって信じてる。


「いやだけど、知火牙はこうなったら絶対引かないってのは、ボクらもイヤってくらいわかってるからね。従ってあげるよ」


「そうね。私もイヤだけど、ちーくんのお願いだから、渋々聞いてあげる」


「はーあ、藍朱ちゃんのせいであたしたちの貴重なデートの時間が短くなっちゃったなー」


「..................藍朱のせいじゃないもん」



 みんなそれぞれ不満はありそうだけど、納得はしてくれたみたいだ。


「ごめんね。埋め合わせは今晩、必ずするからさ。みんなナンパされないように気をつけてね。明るい内に帰るんだよ。危ない状況になったら連絡してね。あとそれから......」








「何度俺を無視すれば気が済む!? 大体、勝手に模久さんを帰すつもりか!? しかも夜にだと!?」


「はいはい、わかりましたよ。みんなを帰すのは当たり前でしょう。くだらない話に彼女たちを付き合わせる気はないので。藍朱は特に、俺に黙ってたのがダメなことだったってわかってもらうために、たくさん愛し合わないといけませんし。あなたとのお話しは、できるだけ早く終わらせますから」


「こっ、こいつ......っ!」


「じゃあみんな、また夜にね」



 いまにも掴みかかってきそうな彼のことは半分無視してみんなを送り出す。

 みんな肩を落として残念そうに俺の方をチラチラ見ながらも、一言かけて歩き出してくれた。


「帰ってきたらボクがたくさんヨシヨシしてあげるからね〜♡」


「知火牙くん、気をつけてね? お腹の子のパパがいなくなったら、ダメ、だよ?」


「あとであたしの鈴、たくさん鳴らさせてあげるから、早く帰ってきてね♪」


「............チカ......その......ごめんね?」



 四者四様の一言。

 藍朱はコトの原因にもなってるからか申し訳無さそうだけど、みんなのそれぞれの可愛い反応を見られたので、まぁ彼の登場も悪いことばっかりじゃなさそうだ。


 声は聞こえないけどじゃれ合いながら去っていく可愛い彼女たちの背中に手を振って笑顔で見送った後、夜枚さんとやらに向き直る。

 やっぱり待っててくれるあたり、悪い人じゃなさそうだ。


 これは、思ってたよりも早くわかってもらえそうかな?



「それじゃあ、夜枚さん」


「な、なんだよ」




「女々しいあなたに、俺が漢らしさってものを教えてあげますよ」



 どうでもいい余談ではあるが、5時間後、夜枚馨は女性を大切にすることと、自分の分相応を知ること、そして、御霊知火牙の女に手を出すことの恐ろしさを知り、その後、二度と彼らには近づくことはなかった。

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