第15話 土曜日のハーレム(外敵1)

「お、おいお前! 模久もくさんから手を離せ!」


「えっと、すみません、どなたでしたでしょうか?」



 それなりに多くの人で賑わっている商店街のど真ん中で大声を上げる男性。

 『模久さん』って藍朱あいすの名前を呼んでたし、どうやら俺たちに声をかけているらしい。


 っていうか、まぁ、だいたいの要件は察しがつくけどね。


 まったく、こんな往来で大声を上げるなんて、他の人の迷惑を考えられないのだろうか。

 常識が欠如してるし、漢失格な人だな。とりあえず第一印象は良くないよ?


 もしかしたら俺が更生させてあげないといけない人かもしれないな。


「........................夜枚やまいさん。何の御用ですか?」


「夜枚さん?」



 藍朱が俺の胸元にぎゅっとしがみついて、さっきまでより3オクターブくらい低い声で呟く。

 おそらく目の前の彼の名前だろう。


 そして、藍朱は彼のことを知っているらしい。

 大方、何かしらで藍朱と出会って、優しい藍朱の振る舞いに勘違いしてしまった可哀想な人なんだろうけど。


 ..................どういう関係だ。俺の大切なパートナーの藍朱にちょっかいをかける羽虫か?


「も、模久もくさん......。その人がキミが言ってた大事なヒト......なのかい?」


「そうです。この人が藍朱の旦那さまです。今デート中なので、遠慮してもらえます?」



 藍朱の声も目線も絶対零度の冷たさ。誰に対してでもいつもニコニコ笑顔を崩さない藍朱がキレてるなんて、珍しいなぁ。

 残念ながら俺にMの気はないらしいので、この態度を自分に向けられたいとは思えないけど、これも藍朱の一面だと思うと愛しい。


 突然の闖入者にみんな呆気にとられてたけど、藍朱の言葉にハッとしたように衣莉守が反応する。


「このイカれ女! 知火牙ちかげは藍朱の旦那さまじゃないでしょ! ボクの旦那さまだ!」


「は? 衣莉守いりすちゃん、あんまり巫山戯たこと言ってると、お尻の穴から腕突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたあと、赤ちゃんの部屋引きずり出してお嫁さんとしての権利奪い取るよ?」


「それはこっちの台詞なんだけど? あ、藍朱のはもう妄想妊娠で堕胎したから使いものにならないか? 大丈夫、知火牙はボクがもらってあげるから。ついでにそのちゃっちい指輪もボクがもらってあげるよ。藍朱にはもういらないでしょ?」


「............衣莉守ちゃん......。いや、このストーカー女。とうとう越えちゃダメな一線を越えちゃったね」


「だったら? ボクに手を出したら知火牙は二度と藍朱のこと抱いてはくれないと思うけど?」



 今にも人をコロしそうな鬼のような形相で衣莉守を睨みつける藍朱と、俺が『みんなにはケンカしてほしくない』って言ったことをちゃんと覚えてて藍朱を煽るあたり辛うじて理性が残ってるっぽい衣莉守。


 俺を挟んで可愛らしいキャットファイトを繰り広げる俺の愛しい彼女たち。

 玲有れいあさんの妊娠報告以来、すっかり俺の前でもケンカするようになったなぁ。まぁこれくらいなら微笑ましいから良いけど。


「まぁまぁ、藍朱ちゃんも衣莉守ちゃんも落ち着いて。ね? 知火牙くんの奥さんは妊娠してる私に決まってるんだから、意味不明なことで争わないで?」


「「逆レイパーは黙ってて!」」



 玲有さんが例によって止めに入るフリしてさらに2人を煽る。


 この中で一番に俺の子を身籠ったことを相当嬉しく思ってくれてるらしい。いつも鬼の首をとったみたいにそのことを振りかざしてみんなを煽ってる。

 ニヤけてる顔も最高にキュート。


 藍朱も衣莉守も元気よく突っ込んでて、今日も平和だ。


「そーだよ、勝手に妊娠した玲有ちゃんは無理せず黙ってシングルマザーやっときなって。ヤバい幼馴染ちゃんたちも、いい加減足を洗ってさ? 知火牙くんのことはあたしに任せておいてくれたらいいからさ」


「「「ビッチはもっと黙ってて!!!!!」」」



 唯桜さんも混じっていつも通りにぎやかな空間が形成される。

 みんなが俺のことを取り合ってくれるなんて、幸せの極致みたいな時間だ。


「みんな、俺のこと好きでいてくれてありがとうね。俺、ほんと嬉しいよ。絶対にみんな手放さないからね」



 みんなの唇にキスを1つずつ落としながら言うと、ピリピリしてたみんなの表情が打って変わって蕩けきったものに変わって、さっきまでの剣呑な雰囲気も霧散していく。


「「「「あうぅ、愛してる......」」」」



 なんなら最近は、俺からキスさせるためにこうやってケンカするフリをしてるんじゃないかって思うくらいには、ここまでがお決まりの展開になりつつある。
















「俺を無視するな!」


「あ、まだいたんですね」

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