第14話 土曜日のハーレム(幸)

「んー! このシューアイス、とっても美味しいよ! ほら、チカも一口食べてみて!」


「あ、いいの? じゃあ、一口だけもらうな」


「はい、あーん♡」


「うん、確かに美味しいね。暑いから余計にアイスが美味しく感じるよ」


「えへへ。やーん、藍朱あいすが美味しいだなんて、チカのえっち」


「うんうん、どっちの『あいす』も美味しいよね。帰ったらこっち・・・の藍朱を美味しくいただこうかな」


「帰ってからなんて言わずに、今どうぞ。はい、召し上がれ♡」



 俺の腕にお姫様抱っこされた状態で目を閉じて突き出してくる藍朱の唇に軽くキスを落とす。


「えー、それだけー?」



 なんて軽く文句を言いながらも、残ったシューアイスを食べ始める藍朱。


 拗ねたふりしてリスみたいに口いっぱいに頬張るから、アイスが冷たくてキーンってなってるのがかわいい。あざとかわいい。

 心配しなくても、帰ったらちゃんと食べるからね。


「もー、知火牙ちかげ、藍朱ばっかり構ってずるいよ。シューってパサパサだし、喉乾いたでしょ? はい。ボクのわらび餅ジュース飲んで口の中さっぱりさせて?」



 俺の右腕に抱きついてプラスチックの容器を顔の前に差し出してくる衣莉守いりす

 白と薄い黄緑のコントラスト。抹茶味らしいそれは、衣莉守の髪の匂いも相まってとても甘い匂い香りを漂わせてる。


「あぁ、さすが衣莉守は気が利くねー」


「全然だよ〜。はい。知火牙は藍朱を抱っこしてるから手が使えないし、ボクが持ってるから飲んで?」


「ありがと。うん、これもとろとろで甘くて美味しいね。なんか余計に喉乾きそうな味だけど」


「はぅっ。ご、ごめん。確かにそうかも......」


「はは、衣莉守の気持ちが嬉しいから俺は満足だよ」


「あうぅぅ。ごめんね、代わりにボクのツバ飲ませてあげるから許してね」



 言葉の上では反省してるっぽいけど、なんだかんだ自分の欲求最優先で行動してる衣莉守も、ものすごくかわいい。


 軽く腰を落として上を向いて、衣莉守からのプレゼントを受け取る。

 衣莉守の身長は俺よりも15cmは低いから、受け取るにはこうやってかがまないといけない。


 藍朱は150cmくらいしかなくて軽いから、お姫様抱っこしてる状態で中腰になるのも全く苦にはならない。

 背中に玲有れいあさんも背負ってるけど、それも加味しても気にならない程度だ。


「はひ、どーほ」



 目一杯口の中でつばを溜めて渡してくれる。

 当初の名目上の目的である喉が潤うことはないけど、満足感は高いのでなにも文句はない。


「甘いものばっかりじゃ飽きちゃうでしょ? あたしのケバブ、あげるね」


「確かに口の中甘くなってるからこういうしょっぱい系ほしかったんだよね。さすがは唯桜いおさん、目ざといですね」


「えへへ、でしょ? はい、あーん」



 俺の左腕にぴったりくっついてる唯桜さんに差し出されたケバブにかぶりつく。

 シューアイスとわらび餅ドリンクで甘ったるくなった口の中がドネルケバブの適度なしょっぱさが中和してくれる。

 ピリ辛ソースだから、余計に水分が欲しくなるけど。そんなつまらないことを言って女性の好意に茶々を入れるようなやつは漢じゃないからね。


「どーお?」


「うん、すごく美味しいよ。唯桜さんに食べさせてもらってるから、余計に美味しく感じるのかな?」


「んふっ。もー、知火牙くんってば、そんな嬉しいこと言ってくれちゃってさ♪ でーもっ。口元にソースつけっぱなしじゃあ、台無しだよ?」



 そう言って、唯桜さんは俺の口元についたソースをぺろっとひと舐め、ふた舐め......どんだけ舐めるの?


 適当な言い訳を作ってまで俺とキスしたがってくれる唯桜さん。

 どうせ「年上のあたしが『キスしたい』なんてお願いするなんてはしたないことはできないから口実を作っちゃおう」みたいな考えでケバブ買ったんだろうなぁ。可愛いなぁ。


 今晩もたくさん鳴かせて懇願させてあげるからね。


 とはいえ唯桜さんに口周りを舐り回され、実質キスをしながら歩く俺たち。一応前方は警戒してるし、歩く速度もかなり緩めてるから大丈夫だと思うけど、ちょっと危ないかもな。


「ふぅ。ごちそうさまでした♪」


「それは俺の台詞なんですけどね?」



 満足そうにしてる唯桜さんの輝くような笑顔を見たら、なにもかもがどうでも良くなってくる。


 ニコニコな唯桜さんの表情を微笑ましく見てると、背中側から俺のうなじあたりにすりすりと何かがこすりつけられてる感触。

 何か、っていうか、頭を擦り付けられてる。


「んもー、みんな、ちーくんに甘えすぎ。そんなにめちゃくちゃしてたらちーくんが歩きにくいでしょ」



 俺の背中側から顔を出してヘルプをだしてくれる玲有れいあさん。

 いつもながら、一番周囲を見てるのは彼女かもしれない。高校時代に完璧生徒会長だなんて揶揄されてたのも、伊達じゃないらしい。


「あはは、ありがと、玲有さん。でも俺は大丈夫だから」


「むーっ、大丈夫とかじゃなく! 私は離れろって言ってるの!」



 ぷんすかって擬音でも聞こえてきそうなわかりやすい態度で噛み付いてくる玲有さんは子猫みたいで可愛い。

 俺がみんなといちゃいちゃしてたから嫉妬しちゃったのかな? ごめんね、やめるつもりないんだ。


「一番くっついてるのはつち先輩でしょ。そろそろ降りたらどうですか?」


「はいー? 藍朱ちゃんには言われたくないなー。そのお姫様抱っこの方がくっついてるでしょ。それに私、妊婦さんだもん。ねー、ちーくん」


「「「チッッッッッ」」」



 みんな可愛いんだから、舌打ちなんてお下品なことやめようよ。

 ま、みんな俺のことが好きってのが伝わってきて嬉しいけどね?


「まぁまぁみんな落ち着いて。そうですね。身重......ってほどまだ育ってはないですけど、身体は大事にしてもらわないと。俺たちの子どもなんですから。まぁ、妊婦じゃなくてもいつもおんぶしてるわけですけど」


「もー、細かいこと言う子は漢らしくないぞ〜? それとも私をおんぶするの、本気で辛い?」



 漢らしくない!?

 ......ただの軽口だよね?


 ってか、妊婦がどうとか適当なこと言ってるけど、そんなのは関係なく俺のおんぶはずっと玲有さんが占有し続けてるでしょうに。

 それに、俺がこの程度でしんどくなるようなヤワな鍛え方してるわけないって知ってるでしょ。


「辛いわけないでしょ? むしろ嬉しいですよ。玲有さんとくっついていられますし、胸の感触も堪能できますし」


「んもぅ、おバカ......。でも嬉しいこと言ってくれたから、ご褒美に私のいちご飴あげる。こっち向いてあーんして?」


「あはは、ありがとうございます。あーんむっ!?」



 首を背中の玲有さんに向けて口を開けると、柔らかい感触が口に触れて、唾液と一緒に甘くて少し硬い飴が流し込まれる。


「ごほっ。ちょっと、玲有さん、変な体勢だと危ないですよ」


「えー、みんなにはしてたのに、私はダメなの?」



 上目遣いで目を潤ませてあざとく聞いてくるとか、破壊力やばすぎるよ。


「いえ、全然大丈夫です。それに、美味しいですね」


「でしょ! 私の唾液でさらに甘さアップしてると思う!」








 こんな風に色んなものを適当に買い食いしながら商店街を歩く俺たち5人。


 今日は土曜日だからみんなでデートする日。

 最近は朝から晩まで全員で部屋に籠もってナカヨシするばっかりだったから、ひさびさの外デートだ。


 みんな楽しそうだし、俺もウキウキする。


 右腕に衣莉守。左腕に唯桜さん。藍朱をお姫様抱っこしながら、玲有さんをおんぶ。

 いつもの布陣でいちゃいちゃしながら歩くこの時間、至福が過ぎる。


 すれ違うと誰もが振り向くような美人4人を連れて歩けている。

 みんな他の男に取られることなく幸せそうな笑顔を俺に向けてくれている。


 漢として彼女たちをある程度満足させられていると感じられることに、感動すら覚える。



「あぁ、俺、幸せだ......」

「「「「<藍朱/ボク/私/あたし>も......」」」」



 無意識に口をついて出た心からの本音に、みんなが追従して賛同の声をあげてくれる。

 やっぱり、俺は本当に幸せ者だ。


 こんな幸せな時間を、永遠に味わっていたい。

 俺たちの幸せを脅かすものが、なにも現れませんように。











「お、おいお前! 模久もくさんから手を離せ!」



 ..................喉乾いたなぁ。

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