第6話 三頭衣莉守の思い出と画策

「おーい、御霊みたまくーん! こっちこっち! ......って、あれ? その子は?」


「やぁ、お待たせ! この子は模久藍朱もくあいすちゃん。今年はクラスは違うけど、僕と一緒の幼稚園だったんだ!」


「......はじめまして、藍朱あいすです」



 まだ小学校1年生のボクたちだったけど、ひと目見たときから感じた。

 この子はボクにとってなんか良くない存在だって。


 でもまだその頃は恋愛とかわかってなかったから、素直に仲良くしちゃった。もっと早くに気づいてたら、今みたいなことにはならなかったのかな?

 それでも、子どもながらに、友達が取られちゃったような、ちょっとした嫉妬心みたいなのはあった気がする。


「ふ、ふーん。そうなんだ。ボクは三頭衣莉守みずいりすだよっ。衣莉守いりすって呼んでくれたらいいから!」


「う、うん。よろしくね」



 藍朱も、この頃はまだただの可愛らしい人見知りの子って感じだったな。


「えーっと、それで、御霊くん? 藍朱ちゃん、可愛い子だね? それで? 今日はボクと2人で駄菓子屋に行くって約束だったのに、どうしてその子連れてきたの?」


「家を出たらたまたまばったり会ってね。この後暇だって言うから、せっかくだから三頭みずさんに紹介できたらと思ってさ」


「............どうしてボクにその子を紹介しようと思ったの?」


「え? どうしてって......。仲良い子同士が友だちになったらなんか嬉しいじゃん!」


「うーん、そっか。うん、そうかも!」



 いつ思い出してもキラッキラな笑顔だよなぁ。

 そこは今も変わらないけど。


 変わらないって言えば、ボクに嫉妬を覚えさせてくれるのも変わらないよね。


「......ねぇねぇ、チカくん・・・・。早く駄菓子買いに、行こ?」


「ん? あぁ、そうだね。今日はお父さんに50円ももらったんだ! これで藍朱ちゃん・・・・・三頭さん・・・・が欲しい物買うよ!」


「ふふっ、チカくんってば、いっつも藍朱にお菓子買ってくれるね! 大好き!」


「いやいや、当然だよ。お父さんいつも言ってるからね。男なら女の子を幸せにしてこそだ、って。だから、僕が2人にお菓子買うのなんて当たり前なんだよっ!」


「............あ、あはは。そうなんだ。ボクにもお菓子買ってくれるの? ......っていうか、御霊くんと藍朱ちゃんはとっても仲がいいんだね?」


「まぁね〜。僕たちは年少さんのときから友達だから!」



 あのとき、『友達』って呼ばれたときの藍朱の苦虫を噛み潰したような顔!

 あのときはわからなかったけど、しばらく知火牙と一緒に遊んで、どんなことにでも一生懸命努力して結果を残し続ける知火牙を傍で見続けて、好きを自覚するようになって気づいたね。


 藍朱はあのころから既に知火牙のことが好きだったんでしょ?

 そのくせシャイだから気持ちが伝えられなかった。


 ......あのまま一生気持ちを心のなかに仕舞っててくれればよかったのに......。


 ともかく、あの頃はまだボクは恋を知らなかったけど、彼が『チカくん』って呼ばれてるのも、彼女のことを『藍朱ちゃん』って呼んでるのにももやっとしたんだよなぁ。

 あのときはまだ、単に自分の友達が他の子と自分以上に仲良くしてるのに嫉妬してただけなんだと思うけど。


 ボクのことは『三頭』だなんて苗字呼びで、藍朱のことは名前呼び。

 その差に嫉妬する部分はあったんだよなぁ。


 だから、あの後、知火牙だけにこっそり話したことも、友達へのヤキモチだけで、男女のそれじゃなかった。


「あ、あのさ、御霊くん......」


「ん? えっ、どうしたの!? 悲しそうな顔してる! 三頭さんを悲しませたのは誰!? 女の子に悲しい顔させるなんて許せない!」


「あ、えと、その......違くて......。その......御霊くんが......」


「え? なんていったの? もしかして御霊って言った!? 僕が悲しませた!?」


「ち、違くてっ! ただ、御霊くんがボクより藍朱ちゃんと仲良さそうなのが、なんか、寂しいなぁっていうか......」


「えっ? 僕は藍朱ちゃんとも三頭さんともおんなじくらい仲良くしたいと思ってるよ!」



 あぁ、そういえばこの頃から今の女たらしの片鱗は出てたか。ピュアってのを隠れ蓑に女をたらしこむ。昔から全然変わらない最低野郎だよキミは!


「あ......えと、じゃあ、ボクのことも名前で呼んでくれない?」


「もちろん! 僕の方からお願いしようと思ってたところだよ! よろしく、衣莉守ちゃん!」


「あ......う、うん! よろしくね、知火牙くん!」



 あ〜ぁ、あのときにすでに好きになってたら、知火牙はボク専用のお婿さんだったかもしれないのに......っ!



*****



 うん。やっぱり、あの頃から変わらず、知火牙はボクのことを振り回しっぱなしだし、嫉妬させっぱなしだよっ! 悪いヤツだ!


 けど、思えばこの頃の知火牙は本当に本当に純粋だったな。

 この世の汚れなんてなんにも関係ありませんってくらい、ただただ輝いてたっけ。


 心の底から、親切心で、自分と仲の良かったボクと藍朱を知り合わせたがってたんだろうね。

 それが今となっては2人とも無様に知火牙ハーレムの構成員みたいにさせられてるんだから、いつのまにこんなにヒドい男になっちゃんたんだい?


「衣莉守? さっきから静かだけど......寝ちゃった? 起こさないようにするから、いたずらしてもいい?」



 おっと、昔のこと思い出してたらぼーっとしちゃってた。


 っていうか、知火牙ってば、ボクの髪をモグモグ喰んでない? いたずらって、それ? もぅ......変態なんだから。

 ボクの髪、肩くらいまでしかないから引っ張られたらすぐわかるからね?


 っていうか、もし寝てたらダメって言うのもムリじゃん。さては絶対にボクの髪を食べるつもりだったな。

 ..............................嬉しい。知火牙がボクを求めてくれる。お腹の奥がまたキュンキュンする......。



 けど、もう喉も潰れきってるし返事に声だすのも億劫だなぁ。


 いいや。首を振って起きてることだけ伝われば。


「あぁ。もしかして起こしちゃった? ごめんね。今日もイき過ぎて疲れたでしょ。講義の時間になったら起こすから、衣莉守はゆっくり寝てて」



 知火牙の頭ナデナデ気持ちよすぎるんだよなぁ。一生撫でられてたいよぉ。






 あぁ、ボク、幸せだなぁ。


 でもまだまだ満足なんてできない。


 知火牙を独り占めして、延々とこの幸せの時間を享受するんだ。

 2人でずっとイチャイチャして過ごすんだ。


 週に3回だけしか夜を一緒に過ごしてもらえない日々なんて。

 週末には他の女どもとまとめて抱かれる日々なんて。






 終わらせてやる。泥棒猫どもめ。お前らはボクが絶対にコロしてやる......社会的にも、肉体的にも、ね。

 ボクがお嫁さんになったら即行で訴えて不倫扱いにしてやるからな。訴えるための証拠の捏造だってかなり順調に進んでるんだぞ。


 知火牙も、いつまでもボク以外の女を視界に入れられると思うなよ! ボクとの幸せだけ考えなきゃ、めっ、だからな!

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