第5話 水曜日の三頭衣莉守

「ふぅ〜っ。今日も最高に気持ちよかったよ。ありがとな、衣莉守いりす


「はぁ、はぁっ......。あ、あぅ......。ボ、ボクも、気持ちよかったぁ......」



 今日もいつも通り、途中から数えるのを放棄しちゃうくらいイかせてもらった。

 知火牙ちかげはボクが悦ぶトコロを全部知ってくれてて、いっつも喉が枯れるまで鳴き叫ばされる。


 唾液も、何リットル飲まされて、何リットル飲ませたのかわからない。


「あ、なんだ、まだしゃべれるんだ。これはもうちょっとできそうだね?」


「ふぇぁ......もう、ムリだよぉ......」


「じゃあ、やめる?」


「..................いじわる......」



 それからまた何回か頂上まで導かれて......。


 知火牙が1回出すまでに、ボクは5回以上は達してしまう。

 触れられなくっても、知火牙はボクのほしい言葉をくれるし、それだけで満たされる。


 この非対称な関係はとっても悔しいけど、僕が知火牙のことを何でも知ってるように、知火牙もボクのことをばっちり知ってくれてるってことがわかって嬉しい。


 だから身体はすっごいダルいし喉も痛いけど、心は満たされる。


 ただ......ボクの担当は水曜日。

 明日も明後日も普通に大学なんだけどな......。


 腰も砕けてヨロヨロで、声はガシャガシャで、首筋にはキスマークのオンパレード。その上、女の匂いプンプンさせて大学行くの、結構気まずいんだよ?

 朝まで抱かれてましたって丸出しだし......。


 それに明日......木曜日は藍朱あいすの番だから......一日ムラムラして過ごさなきゃいけない。

 しかも金曜日も土曜日も、ボクだけじゃない。


 知火牙と2人っきりでいちゃいちゃできるのは週に1回だけ。


 正直、結構辛いんだよね。


 だからせめて知火牙の口から聞かせてほしいことがあるんだけど......。


「はぁはぁ......ボグのごど......一番、好ぎ?」



 あぁ、喉がガラガラだ。全然可愛くない......。

 こんな可愛くない姿、知火牙には見てほしくない。けど......もっと見ててほしい。


「あはは、声ガラガラだ。あんまりしゃべらないで。ほら、のど飴舐めようね」



 知火牙が自分の口に含んだのど飴を、腰が砕けて動けないボクの口の中に口移しでねじ込んでくる。

 ............甘い。はちみつの味がする。


 っていうか、がんばって声に出したボクの質問、スルーされてる?


「ボグのごど......好ぎ?」


「あぁ、ごめんごめん。スルーするつもりじゃなかったんだ。ただ衣莉守が苦しそうだったから」



 そう思うなら、ここまでボロボロになるまで抱かないでほしい。

 ......いや、抱いてはいてほしいか。


「そうだね。俺がしてほしい体位とかプレイとか、言ってほしい言葉とかも全部察してくれるし、安心感あるよね」


「むぅ、ボグが聞ぎだいのばぞうじゃなぐで......」



 ボクはただ、知火牙に衣莉守が一番好きだって、言ってほしいだけなのに......。

 知火牙は嘘はつかないから......正直すぎるから、ボクが『一番』だとは言ってくれない......。


 こんなやり取りのせいでさっきまで満たされてた心に小さく影が差す。


「ほら、もう声ガスガスだよ。しゃべらない方がいいって。えっと、『ボクが聞きたいのはそうじゃなくて』って? うん、わかってると思うけど、俺は衣莉守のこと、大好きだよ? めちゃくちゃ愛してるし、絶対に逃さない。でも、一番っていうのはまだ言ってあげられない」


「ぐすっ......。ごのグズ〜。ボゲ〜」



 知火牙は本当にヒドイやつだ!

 ボクはこんなに知火牙だけを愛して身も心も何もかもを捧げてるのに、知火牙は他にも何人も囲っちゃってさっ。


 ボクの惚れた弱みにつけこんで、その上、快楽で頭をおかしくさせて、それで黙らせるなんて、本当にヒドい!


「ごめんな。でも、俺が自分で自分を認められるくらい漢らしくなるには、必要なことなんだ。もし衣莉守が耐えられないって言うなら、残念だけど......」



 ほらまたこうやってしょんぼり落ち込んだ顔してボクを誘惑する!

 言ってることはゴミクズのそれでしかないのに。


 いつもいつもそんなんでボクが絆されると思うなよ〜!


「............ヤだ。ボグは知火牙のお嫁ざんになるんだもん。ぞれがでぎないなら知火牙をぶっ転がずもん。............社会的に」



 あぁ、ボクはなんて心の弱いダメなやつなんだ。

 しょうがないじゃないか。知火牙が離してくれないんだから。


 でも、もしボクがお嫁さんになれなかったら、本当に社会的に抹殺するから。


「あー、それは......怖いね。衣莉守なら本当に俺を社会的に殺せちゃうもんな。......もう法律を勉強するのとか、やめない? 大学もさ、法学部なんて堅苦しいとこ、辞めていいんだよ?」



 ふふっ。珍しく知火牙が狼狽えてる。可愛いなぁっ!


 でも、ほんと〜に知火牙はクズだなぁ。

 ボクが知火牙にとって脅威になる法律を勉強してるからって、大学を辞めるように誘導するとか、ほんとゴミ。


 ................................................でも大好き。


「......やべないがら」


「そっか。そりゃそうだよね。衣莉守は凄く頑張ってるんだもんね。応援してる」



 あぁもうっ!

 そうやってキラッキラの爽やか笑顔で言われたら全部許しちゃうんだってば!


 ............思えばボクたちが出会った頃からボクは知火牙に振り回されっぱなしだった......かも。

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