第4話 模久藍朱の思い出と画策
あれはまだ
「うぇぇぇぇぇぇぇええええん、ママぁ!!!! 行っちゃヤダあああああああ!!!!」
「うんうん、ごめんね〜藍朱。でもママもお仕事いかなきゃいけないから」
「やぁだぁ!!!!」
「よしよし。今晩は藍朱の好きなもの作ってあげるから、ちょっとだけ我慢してね。それじゃあ先生、すみませんが今日も藍朱をよろしくおねがいします」
「はい、お任せください。ほら、藍朱ちゃん。お母さんにいってらっしゃいしよ?」
「ぐずっ......。いっで、らっじゃい......」
「うん、いってきます」
「藍朱ちゃん、偉いねぇ〜」
「ぐずぐずっ。うわああああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁん!」
「あちゃ、また泣いちゃった......」
あのころの藍朱は、登園のあと、ママに幼稚園に置いていかれるみたいな感じがして、どうしようもなく悲しくてずっと泣いてたんだよね。
そんなとき声をかけてくれたのが......。
「藍朱ちゃん、おはよ! 今日もかわいいね!」
「かわいい? えへへ。あ、えっと、ち、
「うん、おはよ! じゃあ、藍朱ちゃん、みんながくるまで僕とこっちで遊ぼうよ!」
「あら〜2人は今日も仲良しさんねぇ〜。ほら、藍朱ちゃん。
「う、うんっ」
*****
「みたいな感じで、チカは泣いてた藍朱をいっつも遊びに誘ってくれたんだよねっ。嬉しかったし、なんだかすっごく安心したんだよねぇ」
「あぁ、そういう時期もあったね」
「他にも......」
*****
「やーい、このノロマ〜。いっつも鈍臭すぎんだよ〜」
「えーーーーんえーーーーん、もう止めてよぉ」
今だったら、小さい男の子のいたずらなんて好意の裏返しみたいなものだし、侮辱の内容も拙い馬鹿馬鹿しいことだし、放っとけばいいって思えるけど、当時の藍朱に絶望感を植え付けるのには十分な攻撃力を持ってた。
藍朱はなんにも悪いことしてないのに、ある日突然あの子達は藍朱のことをからかってきた。中にはまだしゃべれない子もいるくらいの年代のくせに、えらくませてたよね。
しかも藍朱のこといじめてきた中心にいた子が、いわゆるガキ大将みたいな立ち位置の子で、女の子の友達も遠巻きに見てるって感じ。
最悪なことに、そのときはたまたま、いつも一緒にいてくれたチカが1週間幼稚園をお休みしてた。
なんかチカのパパと一緒に、女の子を守れるような強い漢になるための修行、とやらにでかけてるらしい。
チカは昔からたまにそういってちょっとの間姿を見せないときがあった。
もしかしたら藍朱をいじめてきた子たちは、チカがいないタイミングを見計らって近寄ってきたのかもしれない。
あのころからチカはスペックが高かったし、ケンカしたら返り討ちに合うってわかってたから、チカのいる前ではなんにもしてこなかったのかも。
「なんだこの指輪〜。こんなしょぼいの守って。大事なもんなの〜? じゃあそれであそぼーぜ〜! 宝探しごっことかどうよ?」
「い、いやだ! これは知火牙くんがくれたの! なくしちゃヤなの!」
「御霊くんも、ちょっとくらいなら許してくれるって。なっ? 宝探しごっこ、しよーよ」
「やだっ。お願い、それだけはやめて!」
夏祭りの出店でひいたくじ引きであたったけど『さいこーの漢を目指す自分にはいらないものだから』って藍朱にくれた半透明な緑色のプラスチック製のおもちゃの指輪。
寂しさに押しつぶされそうになってたあのころの藍朱にとって、知火牙くんに守られてる、知火牙くんが傍にいるって感じられる、命と同じくらい大切な指輪だった。
なんなら20歳を超えた今でも身につけてる。
もちろん指にはもう嵌らないから、紐を通してネックレスにして首から下げてるんだけど。
それを、いじめっ子にムリヤリ奪われて砂場の中に埋められて、その砂場に水をかけてどろどろにした上で自分で見つけるまで返してもらえない宝探しゲームとかいう残酷な遊びに使われた。
「ぐずぐずっ。藍朱の......藍朱の指輪......。知火牙くんがくれた......大切な! ......あ、あった! ......でもどろどろだ......」
「なんだもう見つけちゃったのかよ。つまんねー。もっかいやろうぜ、今度は幼稚園のどっかに隠してさ!」
もう一度藍朱から指輪を取り上げて放ったいじめっ子のその一言に絶望してたとき。
「あれ、みんな、藍朱ちゃんにいじわるしてるの?」
藍朱のヒーローが現れてくれた。聞こえたのはいつもの安心できる声。
でも藍朱以外の子たちは逆に青い顔してたなぁ。
「藍朱ちゃん、大丈夫? 怪我してない? ほら、指輪だよ」
「あ、ち、知火牙くん......。藍朱は大丈夫。指輪......ありがと......。でも、汚れちゃった......。ごめんなさい......」
藍朱たちが気がついたときには、いじめっ子の手から指輪を取り返してくれて、藍朱に渡してくれた。優しく頭を撫でて声をかけながら。
「大丈夫だよ、藍朱ちゃん。こんなの洗って拭いたら元通りだよっ。それにもし壊れても、また新しいの手に入れればいいじゃん!」
「うぅ......。ぐすっ......。新しいのじゃだめだよぉ。これがいいの......」
チカから初めてもらった大事なプレゼント。
もしこれと同じものを新しくもらっても、コレじゃないと違う、ダメって思ったんだよね。
「あぁ、ごめんね。女の子を悲しませること言うなんて、僕はシンシ失格だ。必ずそれを元通りきれいにするからね!」
「あ、ありがと......知火牙くん......」
って感じのことがあって。
その後は結局暴力とかもなく、チカの「女の子を悲しませるなんてだめだよ。僕たち男の子は女の子を笑顔にしなきゃ!」とかいうチカパパ直伝の謎の漢らしさ理論を爽やかに説いて回ってた。
あれ以降、うちの幼稚園の子たちはちょっとおとなしくなったんだよね。
*****
「ってな感じで意地悪な男の子たちからも護ってくれてたし! 意地悪な男の子たちと違って、チカはいつでも強くて優しくてかっこよかったもん!」
「そんなこともあったねぇ。あの頃のみんなは全然漢らしくなかったけど、あれからはちょっとマシになったよね。年頃だし仕方なかったのかな?」
「かもねぇ。けど、あの頃のチカはホントに純粋だったのになぁ」
「あの頃はってなんだよ。今だって純粋だよ」
「今はめちゃくちゃ不純だよ! 何人も女の子の心も体も落として! ベッドの上で気持ちよくして訳わかんなくして! このヤリチン! 藍朱はずーっとチカ一筋なのに! この指輪だって今でも大事に持ってるのに!」
「あー、うんうん、そうだねぇ。俺も成長して純粋さをちょっと失っちゃったのかもなぁ〜」
あっ、なんか返事が適当......。
「む〜っ。なんだか適当に流そうとしてな〜い?」
「えー、そんなことないよ。けどさぁ、俺たち、幼稚園だけじゃなく公園とかでも一緒だったじゃないか。家も近所だったし。だから幼稚園での朝の一幕とかそんなに覚えてないっていうかさ」
「ひっど! 藍朱にとってはとっても大切な思い出なのに! ............それとももう藍朱のことなんて興味ない? 藍朱と一緒にあの世に行く?」
「あぁ、ごめんな。藍朱の大事な思い出を雑に扱うみたいになっちゃって。そんなつもりじゃなかったんだけど」
むぅ。謝られちゃったらこれ以上追求しにくいじゃん。
あと心中の話はしれっと無視されちゃった。いつものことだけど。本気なのに。
「......そーだよ。ちゃんと反省してよね。藍朱とチカの間には別に特別なイベントなんてなかったけど、ちっちゃい頃からずっとず〜っと一緒にいた大事な幼馴染で、出会ってからの全部が特別な一日だったんだから! 藍朱たちの出会いから今までの全部が運命なんだから!」
「あははっ、そうだね。俺たちは運命で繋がってるよ。だから絶対に逃さないからな?」
わぁ〜っ、チカの目が獣みたいにギラついてる〜。
藍朱の身体、また朝まで穿られるんだろうなぁ〜。
「うんっ、いっぱい愛して?♡」
それから藍朱のことを大事に大事に食い散らかしたチカは、藍朱の頭をなでながらすやすや眠りについた。チカの体力が消耗したおかげで盛りに盛った睡眠薬がようやく効いてきたかな。
チカってば、クスリの耐性も日に日に高くなってくんだから困ったもんだよ。
よし、じゃあ今のうちにいつものやりますか。
注射器は......うん、OKだね。先端をライターで炙って......消毒もOK。
それじゃあ今日も、チカの血、もらうね〜。
チカの腕に刺した注射器のプランジャをゆっくり引いていくと、シリンジの中に真っ赤な血が充填されていく。
1本、2本、3本......。うん、これくらいでいっかな。
次は藍朱の血を採って......うん、これくらいでいいでしょ。
はい、それじゃあいくね、チカ。今日も藍朱の一部、注いであげるからね〜♡
ちょっと拒絶反応でしんどくなっちゃうかもだけど、血液型は一緒だし、何よりチカは藍朱のこと大好きだから拒絶し続けるなんてないもんね。今までも大丈夫だったし、今日もへっちゃらだよ! 放射線消毒とかも必要ないよね? チカと藍朱は一心同体なんだもんね。
だめなときはチカをすぐに楽にしてあげて、藍朱もそっちに行くから心配しないで?
じゃあいくね?
はい、注入〜........................うん、全部入ったね。
ちょっとだけ身体がビクンビクンって跳ねてたけどすぐ収まったし、チカも藍朱と1つになれて嬉しいって顔してる。かわいい。
じゃあ今度はチカからもらったのを藍朱の中に......あぁ......チカの血が流れ込んでくるよ......。クラクラする。チカとのあんまりにもえっちなプレイに、興奮しすぎちゃってるかも......。
好き......大好きだよ、チカ。藍朱だけのチカ。
藍朱とチカの血液交換会。チカが浮気するようになってから毎週やってるから、これまでかなりの量を交換してると思う。
今、チカの体の中を流れてる血のどれくらいが藍朱のなんだろうね?
チカの身体を構成してる何割が、藍朱なんだろうね?
あぁ、幸せ。
一生一緒だよ、チカ。
けど、もっともっとチカと1つになって、この幸せをもっとたくさん味わうために......。
あの泥棒猫どもは絶対に消してやる。
ストーカー幼馴染も孕み豚先輩もビッチ先輩も、邪魔すぎるけど話にならない。
みーんな、チカの中身が藍朱のに置き換わってることにも気づかないで、滑稽だよ。
そんなのでチカのこと愛してるだなんてちゃんちゃらおかしい。
チカもチカだよ。自分が藍朱と1つになってること、いつになったら気づくのかな?
ま、どっちにしても絶対藍朱から逃げられないように、藍朱以外を愛せないように、してあげるんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます