アイトネ、キレる!

「アレがデットナ国?」

「はい!」

 千春はロイロに乗り一緒に乗っている少年王スクエドに話しかける、スクエドはロイロにしがみ付きながら必死で答える。


「ロイロ、王都どんな感じ~?」

『向こうも気付いた様じゃな、兵士が走り回っておるわ。』

 ロイロは王都を囲む城壁を見ながら答える。


「む?」

 黄金のドラゴンパパドラは城壁をみながら唸る。


「あら、まさか攻撃するつもりかしら?」

 ママドラはパパドラの横を飛びながら呟く、すると一斉に魔法が飛んで来る。


「ちょー!?嘘でしょぉぉ!?」

 美桜はメイドドラゴンのヒスイに抱き着き叫ぶ。


「大丈夫ですよミオ様、結界を張っておりますから。」

 ヒスイは落ち着いた声で言う、魔法は先頭を飛ぶパパドラとママドラの結界に弾かれる。


「チハル、攻撃されたら反撃して良いのよね?」

「うっ!?えぇっとぉ・・・あんまり人は殺したくないんだけどぉ!」

「城壁は良いのよね?」

「・・・あぃ。」

 仕方ないと言う思いで千春が呟くと、ママドラ、パパドラが顔の前に光る玉を作り出す、そして。


ドゴォォォォン!

ボゴォォォン!!


「・・・アレ死人出てね?」

 ソラはミカの背から問いかける。


「運が悪い人間は死んだかもしれないわね~。」

 ミカは興味なさげに答える。


「このまま王城へ向かうわよ~♪」

 ママドラはゆっくり、王都の人間に見えるように飛びながらドラゴン達と編成を組み王城に向かう。


「ふむ、城にも兵士が居るな。」

「魔法使いも居るわね、攻撃してくるかしら?」

「その時は焼き払えば良いだろう。」

 パパドラは楽し気に答える、するとロイロは千春に言う。


『チハル。』

「なに?」

『魔力を練っているぞ。』

「げぇ!?攻撃してくんの!?」

『じゃろうなぁ。』

「ドラゴンが反撃するって分からないの!?兵士さん達!死んでも良いの!?」

 千春が叫ぶ、するとエンハルトが千春に声を掛ける。


「チハル、貴族の命令は絶対だ、命令されれば死ぬと分かっていても戦う。」

「嘘でしょ!?」

「こちらの世界では当たり前のルールだ。」

「・・・そんな・・・殺す為にドラゴン連れてきたわけじゃないのに。」

 千春は自分の考えが裏目に出た事に唇を噛む。


「ロイロ!止めれない!?」

『魔法を弾く事は出来るが、攻撃を止めるのは無理じゃ。』

「そんなぁ・・・アイトネぇ!」

 千春は悔しそうに、目に涙を溜めながらアイトネを呼ぶ。


『あの子達の攻撃を止めたいの?』

「うん!出来ない!?」

『私が出て良いの?』

「良い!お願い!」

 千春は必死にアイトネを見る。


『チハル、そんな悲しい顔をしないで。』

 アイトネはフワリと千春の横に来ると細い指で千春の涙を拭く、そして一瞬で兵士の前まで移動した。



------------------



「何事だ!?」

 王の職務室で準備をしていたバダー公爵は遠くから聞こえる破裂音を耳にし、王城のテラスに走る。


「城壁の方で煙が出ております!」

 執事のキャルメルは遠くに見える煙を指差す。


「アレは・・・なんだ?」

 空に浮かぶ小さな点、鳥にしては大きすぎるソレをバダー公爵は目を凝らし見つめる。


「・・・ドラゴン!?」

「ドラゴンで御座いますか!?」

「何故ドラゴンが!?」

 バダー公爵が叫ぶように言うと、城の外が騒がしくなる。


「何をしている!?」

「分りません。」

 バダー公爵は城の外の上から覗き込む、デットナ国の兵士、魔導士達が集まり動き回る。


「まさか・・・戦うつもりか?」

「そ、そのようでございます。」

「馬鹿野郎!ドラゴンは魔物じゃない!話す事が出来るのだ!何故攻撃する必要がある!」

「しかし!城壁が破壊されたようで御座います!」

 執事キャルメルはまだ煙を上げる城壁の方を指差す。


「それなら何故ドラゴンは王都を攻撃しない、城壁でドラゴンに攻撃を仕掛けたのではないか!?」

「わ、分かりません。」

「兵士と魔導士を止めろ!」

「し、しかし!私では!」

「チッ!」

 バダー公爵は急いで廊下に出る、そして全速力で城の外を目指し走った。



------------------



「アグリ様!ドラゴンは城に向かって来ています!」

 アグリと呼ばれた男は鎧を着こみ外に出る、そして王都を見下ろす城の前に立つ。


「チッ、トカゲ野郎め。」

 アグリは少しずつ大きく見えて来るドラゴンに舌打ちをする。


「魔導士団!前に!」

 指示を飛ばすアグリ、魔導士達は指示通りに前に出ると魔力を練り始める。


「アグリ様!ドラゴンに魔法は効かないと聞いております!」

「ふん、女は黙ってろ、所詮デカいトカゲだろう。」

 ドラゴンを見た事も、戦ったことも無いアグリ、伝説の様な存在とは言え所詮トカゲの大きな物と思い込むアグリは鼻で笑う。


「しかし!ドラゴンは種族として・・・。」

「黙れ!王の居ない今、軍に指示をするのは俺だ!」

 アグリは鎧を着た女性を突き飛ばし、唾を飛ばしながら命令し下がらせる。


「アグリ様!」

 魔導士が叫ぶ、気付けばドラゴンは想像以上に近くまで寄っていた、そしてドラゴンの上に人が乗っているのを見てアグリは目を見開く。


「・・・す・・・スクエド王?」

 小さく呟くアグリ、しかし驚きは一瞬で終わる、そして気付けばアグリは笑っていた。


「魔導士団!あの黒いドラゴンを狙え!」

 ロイロの姿を見つめながらアグリは魔導士団に命令する、そして魔導士団達は目の前に魔法を練り上げると一斉に魔法を飛ばした・・・しかし。


パチン


「な!?」

「魔法が・・・。」

「きえ・・・た?」

 魔導士団は目の前から発射されるはずの魔法が弾け消え驚き戸惑う。


『・・・チハルが泣いたわ。』

 宙に浮かぶアイトネは悲し気に呟く、そして魔導士団、兵士、そして突き飛ばされ倒れた女性と視線を移し最後にアグリを見つめる。


「・・・何者だ。」

 アグリは足が震えるのを必死で押さえながら声を絞り上げ問いかける。


『・・・あなたがチハルを泣かせたの。』

 目が座ったアイトネはフワリと地面に降りるとアグリの前まで歩く、アグリは恐怖と畏怖、そして今まで味わった事の無い恐ろしさに腰を抜かす。


「あ・・・あ・・・あ・・・。」

 狼狽するアグリは失禁しガクガクと体が震える。


『永遠の死を味わいなさい。』

 アイトネはそう言うとパチンと指を鳴らす、アグリはアイトネの前に現れた小さな穴に吸い込まれ消えた。


「アイトネ、アレでは俺が回収出来ないぞ?」

 気付けば横にモートが立っていた。


『回収しなくて良いわ、消滅するまであの世界で死を味わえば良いから。』

「まぁ構わないがな、この城に濁った魂が沢山見える。」

『それはモートにあげるわ、でも人の法で裁くんでしょ?』

「その予定だが・・・もうキレるなよ?」

『キレて無いわよぉ~?』

 普段の話し方に戻ったアイトネは倒れている女性に声を掛ける。


『貴女、兵士と魔導士の子達を引かせてくれるかしら?』

「はい!お任せください!」

 女性は立ち上がり騎士の礼をすると、直ぐに指示をする、兵士達は直ぐに動き魔導士達も城の方へ引く、アイトネは満足そうに頷くとドラゴン達の方を向き手を振ると、パパドラは大きな声で吼え地上へ降り立った。






~~~~~~~~~~~~~~~~~

謹賀新年!

今年もがんばるぞぉ!


2025年1月1日

ちっき

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