side:市井の人々+α!

「ブタを大量に買う少女?」

 小太りの男は椅子に座ったまま問いかける。


「はい、複数の少女、そして侍女を連れておりました。」

「メイドではなく?」

「はい。」

「・・・何処の貴族令嬢だ?」

「それが・・・黒髪の令嬢は記憶に御座いません。」

「黒髪?」

「はい、それから、確定では御座いませんがラティス王妃殿下に似た女性も居たと。」

「ラティス王妃殿下に似た?この国でラティス王妃殿下の顔を知らぬものなど居ないだろう?」

「どうも髪の色を変えて口元を隠していたようで。」

「・・・変装して少女達と王都でブタを・・・どういう事だ?」

 小太りの男はブツブツと呟き、ハッとした顔で執事を見る。


「・・・まさか、その少女と言うのは、噂のドラゴンに乗って来た聖女様ではないか!?」

 小太りの男は立ち上がり大声で問いかけるが、執事の男は確信が持てず黙ったまま動かない。


「聖女様・・・そうか、ブタの肉が好物なのか、そうかそうか。」

 小太りの男はそう呟くと執事に命令をする。


「今すぐブタを準備しろ!王宮に降ろすブタはパーレッド商会専属商品だ!聖女様に是非ともパーレッド商会を懇意にしてもらうぞ!」

「はい!」

 パーレッド商会の主、パーレッドは直ぐに手紙を準備し王宮へ向かう準備を始めた。



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「ラティス王妃殿下が石工ギルドに?」

「はい。」

「何用で向かったのだろうか。」

 細身の男はモノクルをクイッと上げながら呟く。


「話では少女達を連れ、沢山の鉱石を購入したと。」

「鉱石?宝石ではなく?」

「はい。」

「何の鉱石を買ったのだ?」

「スチュート石やチャカ石、それからトーキ石等を購入したと。」

「ふむ・・・加工前の鉱石を買ったのだな?」

「そう聞いております。」

「石の事なら、このワーフス商店に言えば直ぐに王宮にでもお持ちするのだが・・・。」

 ブツブツと呟くモノクル男。


「ネーク様如何なさいますか?」

 男はモノクル男に声を掛ける。


「その少女達が欲しがったのだろうか、何者なのだ?その少女達は。」

「わかりかねますが、話では侍女達を連れ王都を観光していたと。」

「・・・ま・・・まさか・・・例の聖女様か!?」

 ネークと呼ばれた男は立ち上がる。


「これは・・・!ギニアダ!直ぐに特級の石を準備出来るだけ全部揃えろ!王宮へ向かう!」

「はいっ!直ぐに準備致します!」

 ネークはモノクルをもう一度クイッと動かす。


「聖女様は石好きとは、ワーフス商店にツキが回って来たかっ!」

 ネークはニヤリと笑い登城する為の服に着替え始めた。



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「奥様、申し上げます。」

「あら、カーシャ、何?」

 奥様と呼ばれた女性は伝票を広げ手を止める。


「先程王都の野菜売り場から野菜が大量に買われました。」

「あら、珍しい事もあるのね、在庫は有るでしょう?準備して卸してあげなさいな。」

「はい、今店員総出で出荷しております。」

「それで?何が有ったか聞いてる?」

「複数の少女達が野菜を買い占めたと。」

「・・・複数の少女?何処かのメイド?」

「いえ、その少女達は侍女を連れ、肉や野菜を片っ端から買い占めるという暴挙を。」

「なにそれ、何に使うのかしら?」

「分かりません。」

「何処かで貴族のパーティーあったかしら?」

 女性は懇意にする貴族家を思い出すが、社交シーズンでもない現在、パーティーを行う貴族は思い出せなかった。


「まぁ、ウチの商品が売れたのは有難い事ね、お礼がしたい位だわ・・・ん?」

「如何なさいました?」

「ちょっと待って、侍女を連れてたって言った?」

「はい、様子を見ていた者の話では竜車に乗り王宮へ向かったと。」

「ちょっとまってぇ!?竜車!?」

「はい。」

「今竜車を使っているのは王族だけよ!?王族の方なの!?」

「それは判りかねますが・・・。」

「・・・ま・・・まさか・・・噂の聖女様じゃないでしょうね!?」

「わ・・・わかりませんが。」

「カーシャ!買い占めると言う事はまだ必要かもしれないわ!今準備している野菜を卸すのを止めてきて!」

「は!はい!」

 カーシャは直ぐに部屋を飛び出る。


「聖女様・・・野菜が好き・・・これは・・・ベルノーズ青果店の名が広まるチャンスだわ!」

 女性は立ち上がると、執事に命令をする。


「今すぐ聖女様に贈答品をお持ちするわ!準備しなさい!」

「はいっ!ベルノーズ様!」

 ベルノーズは直ぐに動く執事を見て満足そうに頷くと早足で部屋を出る。


「正装を・・・いえ、ドレス、違うわね、ご挨拶をするだけ、そう、ご挨拶・・・。」

 ブツブツと呟きながら早足で歩くベルノーズは自室へ向かった。



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「ランスルーセン教は終わったな。」

 ポツリと呟く貴族の男。


「仕方あるまいあの光景を見たらランスルーセン教など邪教に等しいわ。」

 もう一人の貴族は断罪された者達を思い出しながら呟く。


「聖女シュリン・・・あのババアの口車に乗らなくて良かった。」

「30年ランスルーセン教を食い物にしてきたんだ、当然の結果だろう。」

「プロト侯爵家も没した、これでプロト派は終わったな。」

「あぁ、アルレット派も焦るだろうな。」

「それはそうだろう、俺達王族派でさえ信じられないぞ。」

「まさか・・・シグリップ国王陛下の呼びかけに断罪の神が顕現されるとは思いもよらなかった。」

「プロト派の残党は間違いなく王族派に媚び入るだろうな。」

 貴族の男2人は目が合うと苦笑いで頷く。


「俺はスチュート男爵の所へ向かう。」

「私もハルーグ子爵と話をしてくるとしよう。」

「忙しくなるが、時代が動くぞ。」

「うむ、シグリップ国王の為ならなんてことは無い、私達が支えればさらに王は強くなるだろう。」

 2人は腕をクロスするように当てると微笑む、そして頷くとそれぞれの仕事へ向かった。



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「神・・・ランスルーセン様。」

 司祭のローブを着た男は教会にある石像へ祈りながら呟く。


「神よ・・・。」

 何度も呼びかける司祭、しかし石像は返事をする事もなく遠くを見つめたままだ。


「なぜ・・・何故だ・・・何故・・・。」

 誰に問いかけるわけでもなく、司祭は呟き続ける、するとフワリと風が動く。


「!?」

 司祭が顔を上げると美しい女性が微笑みながら立っていた。


「あ・・・あなた様は?」

 男神ランスルーセンではなく、女神だった事に残念だと思った司祭、しかしその考えすら罪の意識が一瞬で脳裏を駆け巡り頭を下げる。


『ん~、名前を聞きたいの?』

「はい!是非とも貴女様のお名前を!」

『アイトネよ♪』

「あ・・・アイトネ様・・・おぉぉぉぉぉ。」

 アイトネを見つめながら涙を流す司祭。


「か・・・神ランスルーセン様はいずこに!?」

『あなたの心に居るわよ?』

「心・・・で御座いますか?」

『えぇ、あなたが60年信じた神はあなたの心に居るわ。』

「女神アイトネ様、この教会は・・・今後どうすれば・・・。」

『あなたの神を祀れば良いわ、それにほら。』

 アイトネは教会の扉を覗く少女を指差す。


『信者はあなたの神を信じているのでしょう?』

「・・・はい。」

『それで幸せになれるのならそこに神は居るわ。』

「女神アイトネ様・・・それはどういう?」

『フフッ♪あなたは、あの偽聖女のスキル「魅了」を信仰心で対抗してみせたでしょう♪』

「み・・・魅了!?」

『えぇ♪これからも貴方の神を信じなさい♪』

「女神アイトネ様はそれで宜しいのですか!?女神アイトネ様!?」

 司祭は消えた女神に必死で話しかける、しかし返事は帰って来なかった。


「司祭様?」

 1人のローブを着た少女が司祭に声を掛ける。


「イオ。」

「今の美しい女性は?」

「・・・女神アイトネ様だよ。」

「女神様!?」

「あぁ。」

 ニッコリ微笑む司祭はイオの頭を撫でる。


「神ランスルーセン様は?」

「神ランスルーセン様はココにいるそうだ。」

 そう言うと司祭は自分の胸をポンポンと叩く。


「ここ?」

 イオも自分の胸をポンポンと叩くと司祭は頷く。


「これからは神様が増えるよ。」

「え?」

「私達を見てくれる女神アイトネ様、罪を憎む神モート様、そして心に宿る神ランスルーセン様だ。」

 イオにそう言うと司祭はランスルーセンの像を見上げる。


「これで宜しいのですよね・・・。」

 司祭がそう呟くと石像に光が当たり微笑んだように見えた、そして司祭はもう一度イオと祈りを捧げた。








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