港町ルジイタで成り行き商談!

「・・・。」

 ポカンと口を開けたまま動かない男にエンハルトが声を掛ける。


「大丈夫か?」

「・・・はっ!し・・・失礼した。」

 男はソファーに座り直すとエンハルトを見ながら話し始める。


「失礼した、改めて紹介させて頂く、私はノワ商会店主、ドココと申す。」

 先ほどとは打って変わって紳士的に挨拶をするドココ。


「構わない、こちらもそれを分かってチハルには何も言わなかったからな。」

「へ?」

 千春は驚きエンハルトを見ると、エンハルトは千春を見てニヤっと笑う、そのままサフィーナとワークスを見ると、ワークスはニコッと微笑む。


「サフィー?」

「どうしました?」

「何も言わなかったのわざと?」

「えぇ、商人は舐められたら終わりです、領主の執事が紹介したとは言え身分も分からない者に対してへりくだる事は有りませんから。」

「へぇ~・・・そうなの?」

 良く分からずエンハルトに問いかける。


「そう言えば俺とチハルの身分を言わずこう言う所に来たのは初めてだったな。」

「うん。」

 ドココはコホンと1つ咳をすると立ち上がる。


「それでは部屋を変えましょう、こちらへどうぞ。」

 落ち着きを取り戻したドココは扉を開けると、部屋に案内した紳士が立っていた。


「ネルケ、向こうで話をする。」

「はい。」

 ドココはそう言うと廊下を歩く。


「どこ行くのかな・・・。」

「それなりの部屋だ。」

「へぇ~。」

 適当に相槌を打つ千春はテコテコ後ろをついて行く、そして案内された部屋に入ると声を漏らす。


「うぉぉぉ・・・。」

「普段はこういう部屋だからなぁ。」

 クスクスと笑うエンハルト、サフィーナも微笑んでいる。


「そちらへどうぞ。」

 ドココは先程とは全然違うソファーに2人を促す、2人はソファーに座るとエンハルトが口を開く。


「ジブラロール王国第一王子、エンハルト・アル・ジブラロールだ、こっちは第一王女のチハルだ。」

「ども♪」

 軽く挨拶する千春に驚くドココ、しかし直ぐに笑みを浮かべる。


「いやぁフィンコ卿も人が悪い、ヴァンディ大陸の王子殿下、王女殿下をお連れするとは。」

「偶々なんだがな。」

「では本当に金貨を両替するだけの予定で?」

「あぁ。」

「それで、先程のドラゴンの鱗は本物で御座いますね。」

「はい、本物ですよ。」

「では、ドラゴンと御友人と言うのも?」

「はい、友人というか居候?」

 エンハルトを見ながら千春が呟く。


「・・・お急ぎでなければ是非その鱗の商談をしたいのですが。」

「あ!みんな外で待ってるんだった!」

 千春が思わず叫ぶと、ドココは手をパンパンと叩く、すると紳士が部屋に入りお辞儀をする。


「小金貨を1000程持ってきてくれ。」

「はっ。」

 紳士は直ぐに部屋を出て行く。


「領主の邸にはどれくらいご滞在の予定で?」

「えっと、居心地よければ数日?」

「明日のご予定は?」

「んーっと・・・未定!」

 千春の受け答えにエンハルトとサフィーナがクスクス笑う。


「明日の2鐘ほどにお伺いしても宜しいでしょうか?」

「2鐘って何時かな、ジブラロールと一緒?」

「はい、私が知っている限りヴァンディ大陸もトーホルと同じだと。」

「んじゃ朝9時かー、大丈夫ですけど・・・鱗買いたいって事ですよね?」

「はい。」

「鱗、いいですよ?」

「え?」

「いつでも拾えますし。」

「お・・・おいくらで?」

「えっと・・・ハルト、いくら?」

「言い値で良いだろ。」

「だそうです!」

「では、金貨2000枚で宜しいでしょうか。」

「はーい・・・って2000枚で買って大丈夫なんです?」

「勿論です、王都に持ち込めば喜んで買う者も居ます。」

「すごいなぁ・・・パパドラの鱗全部毟り取ったら幾らになるんだろう。」

「チハル、それはやめとけよ?」

「・・・ジョウダンダヨ?」

 千春の呟きに苦笑いするドココ、そして紳士が小金貨を手に部屋へ入って来る。


「お持ちしました。」

「では、チハル王女殿下、こちらが小金貨1000枚で御座います。」

「えっと、あっちの金貨出しますね。」

「いえ、鱗の代金から引いておきますので。」

「あ、そっか、それでお願いしまーす。」

「残りの金貨は明日領主邸へお届けいたしますので。」

「はい、それでお願いします・・・はい、パパドラさんの鱗です、あ!おまけにママドラの鱗もあげますね♪」

 千春は黄金の鱗と蒼色の鱗をセットで渡す。


「い!?よよよよよよよよよよよろしいのですか!?!?!?!?」

「はい♪お近づきのしるしです♪」

 小金貨の巾着を千春は受け取る。


「1000枚多いかなぁ。」

 小分けにされた巾着を10袋ポイポイとカバンに入れる千春。


「その・・・チハル王女殿下。」

「はい?」

「そのカバンは?」

「あ、えっとぉ、魔法の道具です。」

「重量が無くなるのですか?」

 数キロはある金貨を入れたカバンを軽々持ち上げる千春を見て問いかけるドココ。


「えーっと・・・そんな感じです!」

 適当に誤魔化す千春、そして用事は終わったと言わんばかりに千春はハルトを促す。


「みんな待ってるから行こ♪」

「あぁそうだな、ドココ殿失礼する。」

「ドココさんありがとうございましたー♪」

 千春はプルプルと手を振り部屋を出る、部屋の外にはネルケと執事が立っていた。


「用事終わったんで街行きましょー!」

 千春はネルケの後ろを歩き腕を上げながらズンズン進む、そして商会を出ると頼子達が手に何かを持ちながら待っていた。


「お帰り千春、遅かったね。」

「おつー、時間かかったねー。」

「ヨリ、レナ、何食べてんの?」

「これ?魚のすり身焼き、結構うまーい。」

「素朴な塩味なのになんか癖になる味だよ。」

「・・・何処で買ったの?」

「ん?ロイロちゃんが持って来たんだよ。」

 千春はあたりを見回すと、青空達にも棒についた魚のすり身焼きを渡しているロイロを見つける。


「ロイロー。」

「お、チハルも食うじゃろ?」

「あー、うん、食べるけど、どうしたの?ソレ。」

「こやつ等に美味い物を聞いたら買って来てくれてのぅ。」

 ロイロがそう言いながら後ろに立つ男2人に親指で指差す。


「・・・怪我してるじゃん。」

 目の周りに青痣を作りへこへこしている男を見ながら呟く。


「お嬢もお食べになりますか?」

「お・・・おじょう?」

「へい、ロイロの姐さんに世話になりまして!」

「・・・世話ねぇ~。」

 千春は魚のすり身を受け取ると2人にヒールを掛ける。


「ヒール!」

 ぽわっと男達に優しい光が纏わりつく、そして青痣が消え、もう一人の男は腕を摩る。


「け・・・怪我が治った。」

「俺もだ、腕の怪我が。」

「ごめんねーうちのロイロがまた無茶してきたんでしょー?」

「いえいえ!そんな事ありません!」

「チハル、違うぞ?コヤツ等が儂にちょっかい掛けて来たんじゃ。」

「もうー、やりすぎでしょー。」

「こういう輩は痛い目にあった方が素直になるんじゃ、のぉ?お前ら。」

「「はい!!!」」

 元気に返事をする男2人、よく見ると1人は獣人の様で耳がフサフサしていた。


「獣人さんだー。」

「あ、俺っすか?」

「うん、何の獣人さんなの?」

「ガローフ族っす。」

「あ~・・・うん。」

 聞いても分からない千春は適当に相槌を打つと魚のすり身焼きを口に入れる。


「・・・うまっ!」

「ね!美味しいよね!」

「マジで塩だけ?って感じ。」

「これは期待できますなぁ。」

 JK達はモグモグと食べながら通りを見つめた。






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