トーホル大陸に着いたぞい!

「フォォォォンフォォン!」

「見えたって!」

「どれどれ!?」

 皆はゴンドラから顔を出し陸地を見る。


「うわぁ!」

 千春は海沿いの街を見て声を上げる。


「綺麗~♪」

「すごーい!山の方まで家がある!」

 海沿いから山の傾斜も家が立ち並び大きな港町を見ながら皆は声を上げる。


「フォー!フォォォン!」

「え?このまま行くの?」

「フォーォォン。」

「あー、お母様達と来た事あるんだっけ。」

「領主の家まで行くって、何処だろうね。」

 ティスケリーは千春達に言うとそのまま街の上を通り、高台にある大きな屋敷へ向かう、そしてゆっくり高度を落とすと広い庭へ着地した。


「着いたわよー。」

 ティスケリーはゴンドラを下ろすと直ぐに人型に変身し皆へ声を掛ける。


「お疲れ様でした!」

「これくらいなんてことないわよ。」

 ニコッと微笑むティスケリー。


「もしや!ティスケリー様では!?」

 屋敷から執事姿の男性が飛び出て来る。


「あら、あなたは確か・・・。」

「執事長のルグラスで御座います。」

「あら、イイ男になったわねぇ~♪」

 ロマンスグレーのルグラスに微笑みながら言葉を返すティスケリー。


「こちらの方は?」

「冒険者、幸運の庭園、エイダンとマルグリットの息子、エンハルトとチハル、それとその友達よ。」

「なんと!エイダン国王陛下とマルグリット王妃殿下で御座いますか!?」

「え?知ってるの?」

「勿論で御座います、あちらの大陸、ヴァンディ大陸の情報も交易商人から多少なりとも入りますので。」

「あら、そうなのね。」

 へぇ~と感心するティスケリーの横で千春はエンハルトに問いかける。


「ジブラロールはヴァンディ大陸って言うの?」

「あぁ、言って無かったか?」

「はーつーみーみーで~~~~す!」

 エンハルトに思わず突っ込む千春、すると屋敷から壮年の男性が走って現れる。


「ルグラス!」

「セルフ様!ティスケリー様、ジブラロール王族の方々がお見えに!」

 セルフと言われた男は姿勢を正し貴族の礼をする。


「失礼致しました、私はセルフ・フィンコ、この街ルジイタの領主をしております、以後お見知りおきを。」

「うわぁイケオジだぁ。(ボソッ)」

「執事さんもイケオジだぁ。(ボソッ)」

「なに?イケメンしか居ないの?ここ。(ボソッ)」

 コソコソと話すJK軍団。


「急に伺って申し訳ない、私はエンハルト・アル・ジブラロールだ。」

「チハル・アル・ジブラロールでーす。」

 エンハルトと千春は改めて挨拶を交わす。


「エイダン様、マルグリット様はお元気でいらっしゃいますか?」

「あぁ、物凄く元気だ。」

 クスクスと笑いながら答えるエンハルト、領主のセルフも思わず微笑む。


「それで、この度はどういったご用件で?」

「用件と言うほどでは無いんだが・・・チハル達がトーホル大陸に旅行をしたいと言う事で、遊びに来ただけだ。」

「それはそれは、しがない港町で御座いますがごゆるりとお過ごし下さい、滞在期間等は?」

「チハル、どれくらい居るつもりだ?」

「ん?!え・・・えっとぉ。」

 千春は急に話を振られ頼子達を見る。


「何?決めて無かったの?」

「そう言えば何泊するとか話してないな。」

「そりゃ日帰り出来るし、一回来ればリリ達で往復できるからねぇ。」

「街には行きたい!」

「私も!」

「取り敢えず一泊じゃね?」

「んだんだ、楽しけりゃ延長!」

 JK達はその場のノリで適当に決め始める。


「はーい!取り敢えず一泊です!」

 千春はセルフの方へ向き直ると元気に答える、エンハルトは横を向き肩を震わせながら笑っていた。


「それでは部屋をご準備させて頂きますので、こちらへ。」

「有難う、皆、行こうか。」

「はーい。」

 エンハルトに言われセルフの後ろを付いて行く一行。


「・・・。」

「どうした?」

「国も大陸も違うのに領主さん丁寧だなぁ~って。」

 千春の声が聞こえたのか、セルフは千春の方を向き答える。


「ジブラロール王国、エイダン国王陛下、そしてマルグリット王妃殿下、ルクレツィア様、ゲルダム様には大変お世話になりました。」

「そうなんですね。」

 何をしたんだろうと思いながら千春は相槌を打つ。


「漂流し、連絡が取れなくなった私の息子はヴァンディ大陸に漂着し、エイダン様は息子を助けルジイタまで送り届けて頂いたのですよ。」

 イケオジのセルフは満面の笑みで千春へ答える。


「おぉ~。」

「この件はプロステル王国、国王陛下にもお伝えしております。」

「そうなんですね~。」

 身内が褒められているようで千春は嬉しくなりニコニコと返事を返す、セルフは瀟洒な扉の前に立つと執事が扉を開け皆を促す。


「どうぞ。」

 イケオジの満面の笑みで促され部屋へ入るJK達。


「うひょ!」

「わぁ~。」

 思わず声が出る美桜と麗奈、部屋は広く家具や部屋を飾る置物や絵は格式の在りそうな物ばかりだ。


「今お茶を淹れさせますのでごゆるりとお過ごしくださいませ。」

「有難う。」

 セルフの言葉に返事を返すエンハルト、セルフはもう一度礼をすると部屋を出て行った。


「びっくりだぁ~。」

 千春は身内だけになった部屋で思わず声を出す。


「何がだ?」

「こんなに歓迎されると思わないじゃん?」

「あぁ、俺もそれは驚いた。」

「お母様達どれだけ感謝されてんだろうね。」

「さぁ、話は聞いていたがここまでとはな。」

 エンハルトも思わず苦笑いで答える。


「ティスケリーさんは詳しい事知ってるの?」

「えぇ、知ってるわよ。」

「へぇ~、何があったの?」

「説明してたでしょ?ココの領主の息子が漂流して来たの、それを助けて私と一緒に送り届けたのよ。」

「それだけでこんなに歓迎されるの?」

「えぇ、フリエンツ王国の近くに流されて来た交易船はボロボロ、なんとか浮いている状態で辿り着いたの、水も食料も無くなって瀕死の状態で流れ着いたわ。」

「おぉぅ・・・それは可哀そうだ。」

「人魚達がそれを見つけてフリエンツに報告したの、その時偶々遊びに来ていたエイダン王達の耳に入ってね。」

「それで?」

「エイダン達は直ぐに助けに行ったのよ、食料を大量に持って行って皆を助けたの。」

「ハルト知ってた?」

「いや、そこまで聞いたのは初めてだな。」

 フムフムと話を聞きながら千春は頷く。


「それでティスケリーさんに乗って息子さんを送り届けたんだ。」

「えぇ、人間を乗せるなんて最初は断ったんだけどね。」

「そうなの?」

「そうよ?人間を運んだのはその時が初めてね。」

「へぇ~、なんで運んでくれたの?」

「・・・マルグリットと勝負してボコボコにされたのよ。」

「・・・うわぁなんかごめんなさい。」

「信じられる?私ってあの姿でもドラゴン族なのよ?その最強種族を一方的に攻撃するとか・・・。」

「流石お母様だぁ・・・あれ?お父様達は何もして無いの?」

「腕を組んでニヤニヤしながら見学してたわよ。」

「マジか。」

「その後すぐに回復してくれたから許したけど。」

「お母様回復も出来たんだ~凄いなぁ。」

「回復は別の子よ?」

「え?誰?」

「カラーシャと言う子、たしかドワーフの少女だったわ。」

「あー!ゲルダムさんの奥さんだ!」

「あら、あの2人結婚したのね。」

 思い出話をしていると、執事と侍女が入って来る。


「お茶をお持ちしました。」

「有難う。」

 返事を返すエンハルト、執事達は手際よくお茶を淹れ皆に配る。


「・・・ん?これウーロン茶っぽい。」

「ほんとだ~、イイ香り♪」

「こっちのお茶って発酵させてるんですか?」

 日葵と頼子がお茶に口を付けながら話すと千春が問いかける。


「はい、オオルグ茶で御座います。」

 ニッコリ微笑む執事ルグラス。


「こちらは茶菓子で御座います。」

 侍女は小皿に乗せた果物を並べる。


「・・・砂糖漬けの果物だ。」

「ドライフルーツっぽい?」

「果物を砂糖に漬け込むと水分が無くなってこうなるんだよ。」

「へぇーこっち砂糖沢山取れるのかな?」

 JK達の言葉にルグラスはニコッと微笑む。


「多分・・・これめっちゃ高いお菓子だよ(ボソッ)」

 千春は頼子達に耳打ちしながら答える。


「それではごゆっくりお過ごしくださいませ。」

 ロマンスグレーイケオジのルグラスは微笑みながら部屋を出て行った。



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「セルフ様。」

「ルグラス、王女殿下は?」

「はい、お茶や茶菓子も直ぐに詳細をお当てになりました。」

「やはりあの噂は本当なのか。」

「・・・その可能性はかなり高いかと。」

 領主セルフはルグラスを見る。


「あのエイダン様、マルグリット様の御子息、そして王女であり第一王子のフィアンセ、チハル様・・・本当にお会い出来るとは。」

 嬉しそうに話すセルフ。


「如何なされますか?」

「如何も何も無い、全力でこの国、いや!この街を楽しんで頂く!」

「はっ。」

「そして・・・噂に聞く料理を・・・出来れば・・・教えて頂きたい。」

「出来ますでしょうか。」

「交易商人の噂でしかない、それに料理のレシピと言う物は不明なのだ。」

「柔らかなパンもでしょうか。」

「それが本当なら是非食べてみたい。」

 セルフはポツリと呟く。


「先月戻って来た交易商人のホラ話と皆は笑い飛ばしていたが。」

「はい、王女殿下のチハル様が実在し、その噂が本当であれば・・・聖女であると。」

「確認はしたか?」

「いえ・・・もし違えば失礼かと思いまして。」

「そうだな、それとなく俺が問いかけてみよう。」

「・・・。」

「どうした?」

「王女殿下が本当に料理をされるのかと・・・思いまして。」

「・・・ありえない事だな。」

 2人は期待している顔から一気に落ち込む、しかし数時間後には厨房を貸す事になり歓喜するとは思いもしなかった。







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