テールカ悩む!

「うわぁ!」

 テールカはルルに連れられ千春の部屋に入る。


「良い匂い!」

「テールカちゃんいらっしゃーい!」

「いらっしゃい、貴女がテールカちゃん?」

「はい、チハルちゃんのお母様ですか?」

「えぇ、ヨロシクね、テールカちゃん。」

 春恵はテールカに微笑む。


「・・・あの、私キュクロープス族なんです。」

「聞いてるわよ~♪」

 春恵はニコニコと微笑みながら返す。


「ジブラロールの国、いえ、この世界の誰とも違う青い肌の色、一つだけの目、怖くないんですか?」

「え?何で?」

「だって・・・全然違いますよね?」

「そうね、違うわね、でもこの国の人皆が一人ひとり違うわよ?」

 何を当たり前の事をと春恵は笑う。


「テールカちゃん何か有ったの?」

 悲しげにするテールカへ千春は問いかける。


「・・・飛空島に色々な人が出入りしたわ、そして私を見ると皆驚くの。」

「そりゃ驚くだろうね~。」

 軽く答える千春。


「でも驚いて何か言われた?」

「ん~ん、直ぐに話掛けてくれたわ。」

「んじゃ良いじゃん♪」

 料理の準備をしている侍女達は千春とテールカをテーブルに促す。


「それで島から降りなかったの?」

「・・・うん。」

「そっかぁ。」

 いい言葉が思い浮かばず千春はキョロキョロと部屋を見回す、するとロイロが庭に飛び降りて来た所だった。


「おぉ~良い匂いじゃなぁ!」

「おかえりロイロ。」

「ただいまじゃぁ~♪お、テールカ久しぶりじゃな!」

「お久しぶり、ロイロさん。」

「ん?元気ないのぅ、どうしたんじゃ?」

「んー、見た目で驚かれてちょっと凹んでるみたい。」

「なんじゃ、そんな事か。」

「本人にしたらそんな事じゃないんだよぉ~?」

「ま、そうじゃろな、儂もドラゴンであっちこっち行くがいつも驚かれるからのぅ。」

「いや、それ驚かなかったら逆に凄いわ。」

 ロイロに千春が突っ込む。


「世界は広い、そして種族は多種に渡る、見た目や種族が違えば皆驚くもんじゃ。」

「それをどうにかするには?」

「無理じゃな。」

 ばっさり切り捨てるロイロ。


「仮にじゃ、チハル、バレアタスの時代にチハルが行くとするじゃろ?」

「うん。」

「皆が一つ目、チハルは2つ目、どうなる?」

「・・・キュクロープス族が驚く?」

「うむ、逆も然りじゃ・・・それじゃチハル、ジブラロールではどうじゃ?」

「んー、驚くんじゃん?」

「あぁ、驚くじゃろう、その後は?」

「後ぉ?慣れる?」

「うむ、この国は他の国以上に他種族がおる、目の数どころか手の数、足の数も違う種族がおる。」

「あぁ、そう言えば4本腕の剣士さん居たね。」

「皆驚くじゃろ?」

「うん。」

「それだけじゃ。」

「その心は?」

「気にしたら負けじゃ。」

 カッカッカと笑うロイロ、そして並べられていく料理を見る。


「テールカよ、飛空島で行く場所は全てチハルの加護がある、何も心配せんで良いぞ。」

「は?加護って何!?私そんなのしてないよ?」

「何を言っておる、最強の加護を配っておるじゃろう。」

 ロイロはおもむろにフォークで肉を刺し口に入れる。


「コレが加護じゃ。」

 パクっと口に肉を入れ、嬉しそうに咀嚼する。


「えぇ~、料理が加護なのぉ?」

「うむ、儂や他のドラゴン、そして神すら負けた物じゃ。」

「・・・フフフフ。」

 テールカは笑いだす。


「それにじゃ、テールカよ、お前の帰る場所はもう有るじゃろ。」

「飛空島?」

「家はそうじゃろう、だがジブラロール王国にテールカを見て驚く者なんぞ初めて会う者だけじゃろ?」

「えぇ、皆良い人ばかりだわ。」

「お前の帰る場所はこの国、ジブラロールじゃ、他の国の者の目なんぞ気にせず楽しめば良いんじゃ。」

「・・・そうね。」

「悩み苦しみがどれだけあっても帰る場所とコレが有れば全て勝てるんじゃよ。」

「あー!まだいただきますしてないのに!」

 もう一度肉を口に入れるロイロに千春が指を差す。


「いただきますじゃー!」

「後だし禁止!」

「千春!酒は!?」

「わっち預かっとるよー。」

「流石じゃビェリー!こっちで呑むぞ!」

 ロイロ、ルプ、ビェリーはいつものテーブルを陣取り酒を並べ始めた。


「はぁ・・・。」

「テールカ、大丈夫?」

「悩んでるのがバカみたいね。」

「バカじゃないわよ?」

 春恵が横から答える。


「なんで?」

「バカは悩まないからバカなのよ。」

「・・・極論!」

「ほら、千春、玉子は?」

「あるある!あ!テールカ生卵イケる?」

「え、えぇ、大丈夫な卵なんでしょう?」

「もっちろ~ん♪」

 テケテケと厨房に走る千春、それを見送るテールカ。


「気持ちいいくらいサッパリしてるでしょう?」

 急に声を掛けられ驚くテールカ、声のする方を見るとヴァンパイアのアルデアが立っていた。


「アルデア様。」

「御一緒しても良いかしら?」

「勿論です!」

 ニッコリ微笑むテールカ、微笑み返すアルデアは席に座る。


「私も負けた1人なのよねぇ~。」

 テーブルに並ぶ肉を見ながら呟くアルデア。


「私もです。」

「ココに居る皆ほとんどがそうじゃないかしら?」

「そうなんですか?」

「ま、お酒に負けたのも居るみたいだけど?」

 ペット達を見ながら呟く。


「アルデア様は悩む事は無いのですか?」

「無いわよ、3千年くらい前に悩む事を止めたわ。」

「何故ですか?」

「悩んでも、悩まなくても、結果はほとんど変わらないもの。」

「変わりませんか?」

「ん~なんて言うのかしら、結果は結果でしか無いじゃない?」

「はい?・・・そうですね。」

「悩んだ結果と悩まなかった結果の差って何?」

「・・・えっと。」

「結局どちらを選んでも結果は付いて来た結果でしかないの。」

「えっと・・・どういう事なんでしょうか。」

 うまく説明出来ないアルデア、すると千春が声を掛ける。


「人間万事塞翁が馬だよ。」

「意味は?」

「良い結果がでてもその先それが悪い結果になる・・・かも!しれない、逆も同じ~♪」

「で?」

「今言ってたじゃん、結果は結果であって予測しても無駄って事~、テールカちゃんがコールドスリープで数万年寝てたけど、結果として美味しいご飯を食べる事が出来た!良い事じゃーん!」

「そ、それが言いたかったのよテールカ。」

「・・・本当、チハルって不思議な子、でもせめて普通がよかったなぁ。」

 ポツリと呟いたテールカに千春が答える。


「ココに普通の人居ないじゃん、私くらいじゃん?普通の人。」

 千春の発言に皆が一斉に千春を見る。


「な・・・なに?」

「ないわー。」

「どの口が言っとるんじゃ。」

「チハルさんが普通なら世の中全員普通ですよぉ。」

「チハル、普通って意味知ってる?」

 それぞれがツッコミを入れ千春はアイトネを呼ぶ。


「アイトネー!」

『はぁーい♪』

「私普通だよね?」

『・・・あら、美味しそう♪』

 アイトネはニコッと微笑みいつものソファーに座る。


「おかぁさぁん・・・。」

「あ、まだ出してない料理あったわ。」

 そそくさと厨房に消える春恵。


「ルプぅ、ビェリぃー。」

「個性って大事だよな。」

「個性の塊やん。」


ガチャ


「ん?どうした?チハル。」

「ハルト!私普通だよね?」

「あぁ、普通の女の子だぞ?」

「ほらぁ!」

 ドヤ顔で皆を見る千春。


「泣き虫で寂しがりやで、感情豊かな可愛い俺の婚約者だ。」

「・・・。」

「暑いなココ!」

「ハルトさん、そう言うのは2人の時にしてくださらない?」

 頼子とアルデアが突っ込む。


「はいはい、普通の千春、料理運ぶの手伝うよー。」

 頼子は千春の手を取り手伝いを再開する、2人がキャッキャと楽しそうに料理を運ぶ姿をテールカは見つめ続けた。




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