ワークスの刀!

「ん~・・・ん?」

 千春が起きると横に誰か居た。


「おかぁさん・・・じゃない、お母様でもないー・・・だれ?」

 千春はキョロキョロと見まわすが、自室の寝室だ。


「ん・・・おはようチハル。」

「へ?サフィー?」

「そうだけど?」

「・・・へ?」

「覚えて無いの?」

「うーん・・・覚えてない。」

「ま、覚えてないならそれはそれで。」

 クスクス笑うサフィーナはベッドから降りる。


「はぃ!?なんで裸?」

「何故かしらね~♪」

 意味ありげに言いながらサフィーナは着替える、千春は布団を捲ると・・・。


「なんで私も裸なん・・・。」

「チハル、学校でしょ?」

「あ、うん、えぇ~?ルプ?」

「・・・。」

 ルプは目を瞑ったまま無言だ、千春は直ぐに下着をつけ着替えを始める、サフィーナは侍女服を纏い部屋を出て行った。



----------------



「おはよぉ?」

「千春おはよ、早いわね。」

「おかぁさん、私なんでサフィーと寝てたのかな。」

「あら?覚えてないの?」

「ぜ~~~~んぜん。」

「昨日の歓迎会で間違ってお酒呑んじゃったのよ千春。」

「あ・・・なんかそれは覚えてる。」

「それで楽しそうに酔っぱらってたわよ。」

「とーめーてーよー!」

「こっちじゃ呑んでも良いって自分が言ったんじゃない。」

 春恵は呆れた様に千春に言うと、一緒に応接室に向かう。


「チハル朝食は?」

「いただきますぅ・・・。」

 サフィーナに言われ答える千春、暫くすると侍女達が集まって来る。


「おっはよぉーございまぁ~す!」

「おはよーモリー。」

「昨日はお楽しみでした?」

「へ!?」

「あれ?」

「なに?記憶ないんだけど。」

「・・・あー、はいはいはいはい。」

 意味の分からない返事を返すモリアンはそのまま厨房へ移動した。


「おかぁさん、私何が有ったの?」

「ん~、ま、覚えてないなら別にいいんじゃぁないかなぁ~?」

 顎に指を当てながら考え、千春に答えるとニッコリ笑う。


「おはようございます、チハル様。」

 ワークスは執事服を着て身なりを整え千春の部屋に入って来る。


「ワークスさんおはようございます!」

「本日のご予定は?」

「今から学校です!」

「学校・・・ですか?」

「うん・・・あ!!!!!」

 千春は大事な事を伝え忘れていた。


「おかぁさん、まだあっちの事教えて無いよね?」

「そう言えば教えて無いわ。」

「?」

「えっと~、私とおかぁさん、そこにいるルプは別の世界から来てるんだよ。」

「あー、転移ですか。」

「へ?分かるの?」

「はい、そう言う世界でも生活した事が有りますので。」

「えー!?・・・あ、転生して記憶残ってるんでしたっけ。」

「はい・・・チハル様、敬語はお止めください。」

「んぁぁ、でちゃうんだよぉ、年配の人と話してるとぉ。」

 アハハと笑いながら千春は答える。


「隣の部屋に門が有ってね、私と女神様達だけしか通れないの、私と一緒なら行けるけど、行ってみます?」

「それは私が行っても宜しいので?」

「いいよね?おかぁさん。」

「良いんじゃない?サフィーちゃん達も行ってるし。」

 千春は門の部屋の扉を開け、ワークスを呼ぶ、そして手を繋ぎ日本へ移動した。


「はい、こっちが私達の世界、日本だよ。」

「日本・・・。」

「そ、地球にある日本って国。」

 玄関を開け、外を見せる千春、ワークスは千春の後ろから景色を見る。


「・・・変わりましたね。」

「何が?」

「いえ、私が居た時は木造建築しか無く、道も舗装されていませんでした。」

「・・・は?」

「何回前だったか忘れましたが、日本に居た事が有りますね。」

「はぁ!?マ!?」

「ま?」

「あ、本当?って事。」

「はい。」

「ねぇねぇ!年号覚えてます!?」

「年号・・・元中でしたか。」

「げんちゅう~?聞いた事ないなぁ。」

 千春はスマホで検索する。


「あったぁ!西暦1384年・・・え、室町時代!?」

「室町時代は知りませんが。」

「あー、そうなんだ・・・って日本に居たのぉ!?」

「はい、確か20歳程で死にましたが。」

「若いな!」

「その後は違う世界に生きましたので。」

「・・・アイトネの世界で生まれ変わってたと思ってたよ・・・って事はその聖女さんも違う世界の人!?」

「似たような世界でしたが、会えると信じていたので。」

「・・・そっか。」

 感傷に浸りそうなワークスに千春は声を掛ける。


「ワークスさん、ご飯たべよ!」

「そうですね。」

 返事をするワークス、話の事は気にしていないようで、好々爺の様に笑みを零す。



---------------



「ただいまー。」

「おかえり~。」

「おかぁさん、ワークスさん日本に居た事あるって。」

「そうなの?!」

「うん、室町時代に居たみたい。」

「へぇ~、今の日本見たらビックリしたんじゃない?」

「してたー。」

「チハル、朝食の準備出来ましたよ。」

「はーい。」

 千春はいつもの食事をし、弁当とカバンを手に取る。


「それじゃ行ってきまーす!」

「「「「いってらっしゃーい。」」」」

 皆に送り出され、千春は学校に向かった。



--------------



「サフィー、昨日お楽しみしました?」

 モリアンはニヤニヤとサフィーナに問いかける。


「・・・ひみつ♪」

「えー。」

「モリーちゃん、そう言うのは聞かない物よ?」

「ハル様、気にならないんですか?」

「ん、まぁ私見えるから。」

 フフッと笑うとサフィーナを見る、サフィーナはプイっと横を向く。


「ルプさん!」

「なんだよ。」

「一緒の部屋に居ましたよね!?」

「あぁ。」

「で?」

「何が『で?』だ。」

「わかりますよねー?!」

「・・・不敬で首切られたいか?」

「・・・いえ!なんでもないです!」

 モリアンはスチャっと立つと、いつもの業務に戻った。



-------------



「ワークス、室町時代に居たのか。」

「そうらしいですね。」

 ルプはサフィーナにお茶の入れ方を教えてもらいながら話す。


「剣術は?」

「居合を。」

「居合か、手合わせしてみたいな。」

「刀がございません。」

「持っていた剣では・・・無理か。」

「はい。」

「ん、木刀ではどうだ?」

「木刀ですか、出来ない事も無いですが。」

 ルプは立ち上がり、桜に声を掛ける。


「桜!」

『なーに?』

「木刀を作れないか?」

『出来るわよー。』

 桜の精、桜が手を広げると、一本の枝が落ちて来る、そしてそれを手に取ると、木がボロボロと崩れて行く。


『はい、どうぞ。』

「ちょっと短いな。」

『チハルの記憶だとコレが木刀よ?』

「ワークス、長さはどれくらいだ?」

 後ろに居るワークスに声を掛けるルプ。


「二尺四寸ですね。」

「あ~・・・柄は?」

「一尺有れば。」

「桜、これくらいのサイズで頼む。」

 ルプは1mほどの線を地面に書く、桜は先程の様に枝を持つと、反りの入った木刀が出来上がった。


「どうだ?」

「本来の速度は出せませんが。」

「それはそうだろうな。」

 ワークスは軽く木刀を振る。


ヒュッ


「・・・。」


ヒュッ!シュッ!シュッ!


「・・・。」

「どうだ?」

「はい。」

「それじゃ行ってみようか。」

 ルプはそう言うと数歩下がる、ワークスは腰に木刀を当てる。


「いつでも良いぞ。」

「それでは。」


ボッ!


 空気を切り裂き一瞬で間合いを詰めるワークス、ルプは見事に避けるが二撃目が振り下ろされる。


シュッ!!


 ルプはそれをスレスレで避けるが、下からの三撃目がルプの顎を狙う。


ヒュッ!!!!


「・・・三度避けますか。」

「ヤバかったな、真剣なら二撃目が入ってたかもしれねぇ。」

「入れるつもりで打ち込みましたが歳には勝てませんね。」

「いや、上等だろ、これなら安心して千春の警護を任せれる。」

「そう言う事だと思いました。」

 ルプとワークスは微笑む。


パチパチパチパチ!


 部屋から拍手が聞こえる。


『凄いわ~。』

「ほんと、居合初めて見ちゃった。」

 アイトネと春恵が拍手をしていた、横に居るサフィーナとサリナは目をぱっちり開けたまま呆けている。


「サリナ、あれ避けれる?」

「無理です、サフィーナ様は?」

「無理。」

 2人はポツリと呟くと、アイトネがワークスの所に飛んで行く。


『チハルの為に使う剣よね?』

「はい。」

『少し記憶を見せてもらうわね~♪』

 アイトネはワークスを見ながら頷く。


『神授するわ。』

 アイトネがそう言うと手の上に刀が浮き上がる。


『コレで良いかしら?』

 鍔の無いシンプルな日本刀をワークスに渡す。


「これは・・・。」

 かちゃりと音を立て刀身を見せるワークス。


「私の使っていた刀です。」

『そのレプリカよ、でも本物より丈夫だと思うわよ~♪』

 ワークスは軽く刀を振る。


「・・・おいおい、アイトネヤバいもん持たせるなよ。」

『・・・ワークスちゃん?それ本当に危ないからね?』

「はい、チハル様の許可が無ければ切りませんので。」

『ルプ、もう一回さっきのやってみたら?』

「やめておく、一撃目で切られる自信あるからな。」

 ルプは苦笑いしながら部屋に戻る、ワークスは鞘に納めるとアイトネにお辞儀をする。


「女神アイトネ様、有難うございます。」

『それでチハルを守ってあげてね。』

「はい、命に代えましても。」

 ワークスはそう言うと刀を握りもう一度頭を下げた。











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