着物が届いた!

「・・・結構音響くね。」

 千春は応接室で寛ぎながら外の音を聞いていた。


「拡張工事が始まりましたからね。」

 サフィーナはチラリと扉を見ながら答える。


「いつまで続くのー?」

「数日は掛かりますよ。」

「そっかぁ。」

 パタリと教科書を閉じる千春、勉強にも飽きソファーに倒れ込む。


「ヨリ達呼んで遊ぼっかなぁ~。」

 スマホをポチポチ操作する千春。


「あ・・・LIME来てる、おばぁちゃん!」

「御婆様からですか?」

「うん、スマホ買ったから登録はしておいたんだけど・・・おー!お母様の着物届いたって!」

「あら、良かったですね。」

「おかぁさーん!」

 千春は門の部屋に飛び込むと、椅子に座り本を読んでいる春恵に声をかける。


「どうしたの?勉強終わった?」

「ん!?ん!おわ・・・ってないけどぉ、ちょっと休憩・・・じゃなくて!」

 千春はスマホを見せながら春恵に言う。


「おばぁちゃんがお母様の着物届いたって!」

「あら、取りに行く?」

「ん!ルプ呼んで来る!」

 応接室に戻ると、丸まって昼寝をしているルプに飛び込む。


ドスッ!!!


「うぐっ。」

「ルプー!」

「飛び込む必要あるか?」

「ある、おばぁちゃんち連れてって!」

「良いぞ、今から行くのか?」

「うん!」

 ルプは千春を乗せたままのっそり立ち上がると、門の部屋に入る。


「春恵、婆さんの所に行って来るぞ。」

「私も行くわ、久しぶりに家見たいし。」

 ルプは千春を乗せたまま門を通る、春恵も楽しそうに付いて来る、玄関を出て庭に入ると鳥居の前に来る。


「これ不用心じゃない?」

 千春はルプの上から言う。


「俺かビェリーじゃ無ければこれは通れないから問題ねぇよ。」

「へー、流石土地神。」

「私は通れそうね。」

 春恵は鳥居を見ながら呟く。


「管理者権限が有る者は通れるだろうな、妖怪の類や人間には無理って意味だからな。」

 ルプはそう言うと鳥居を通る。


「へぇ、ココに出るのね。」

 小さな神社の鳥居を見ながら春恵が呟く。


「無人の神社だ。」

 ルプはそう言うとテクテク歩く、少し歩けば源治の家に到着する。


「懐かしいわぁ。」

 ニコニコしながら家に駆けよる。


「お母さん!ただいま!」

「春恵!?どうしたんだい?」

「着物が届いたって千春が言うから、一緒に来ちゃった、懐かしい匂い♪」

「あぁ、届いたよ、見るかい?」

「どうせならあっちで見ましょ、片付けるの大変でしょ、お父さんは?」

「爺さんは裏に居るよ。」

「私呼んで来るー!」

 千春はルプに乗ったままポンポンとルプを叩くと、ルプはそのまま歩いて行く。


「おじぃちゃーん♪」

「おぉーチー、着物か?」

「そ!おかぁさんも来てるよ!」

「春恵も来たのか。」

 源治は薪を切っていたのか、斧を置き家に入る。


「春恵、お帰り。」

「ただいま、お父さん。」

 何気ない会話だが、春恵の声は少し震える。


「爺さん、着物持ってあっち行ってくるよ。」

「今日戻れるのか?」

「ん~、試着してみたいからねぇ。」

「ふむ、俺もついて行くか、良いか?チー。」

「もっちろん!」

 千春はサムズアップしながら満面の笑みで答える。


「お母さん、荷物はどれ?」

「あぁ隣の部屋だよ。」

 文恵と春恵は隣の部屋に移動すると、春恵は箱を幾つか取り出す。


「あれ?多くない?」

「・・・こっちはメグさん、こっちは春恵のだよ。」

「え?私のも買ったの?」

「春恵の着物はチーちゃんにあげたからね。」

「あー、そう言えば。」

「それにね、爺さんが買えってうるさかったのよ。」

「お父さんが?」

「生まれ変わったから着物も新しい物をあげたいってね。」

「・・・高かったでしょう?」

「そうだね、でも爺さんが全部出してくれたんだよ。」

「もう、お父さんったら。」

 春恵は微笑む、そして箱をアイテムボックスに入れる。


「春恵こっちで使えるのかい?」

「うん、使えるわよ。」

「チーちゃんはこっちでは使えないらしいから。」

「アイトネ様のお陰でね。」

 パチッとウインクする春恵、そして小物もアイテムボックスに入れると源治の所に戻る。


「爺さん準備出来たよ・・・なにしてんだい?」

「ん、今年漬けた梅干しと沢庵をチーに渡してた。」

「美味しいよ!」

 切った沢庵をポリポリと食べる千春、隣でルプもポリポリと食べていた。


「沢山漬けたからな、1瓶渡してもいいだろ。」

「良いよ、好きなだけ持って行きなさいな、ウチじゃ消費出来ないんだから。」

「やった!」

「千春、私が持って行くわよ。」

 春恵はそう言うとアイテムボックスを開く。


「へ?おかぁさんこっちでも使えるの!?」

「使えるわよ~♪だって女神だも~ん♪」

「ずるぅぅぅい。」

「ずるくありませ~ん♪」

 2人はクスクス笑い、千春は空間にポイっと入れる。


「さ、カギ閉めるから皆行くよ。」

 文恵はそう言うと玄関に向かう。


「鍵なんぞ閉めんでも誰も入りゃぁせんだろ。」

「一泊するかもしれないんだから。」

 文恵はそう言うと鍵を閉め、神社に向かう、そしてルプが鳥居のゲートを開き皆は藤井家に戻った。



-----------------



コンコン


「どうぞ。」

 マルグリットはノックの音に返事をする、侍女のアルベルが扉を開けるとモリアンがお辞儀をする。


「マルグリット王妃殿下、チハル王女殿下からの伝言で御座います。」

「あら、何かしら?入って頂戴。」

 モリアンはもう一度お辞儀をし、マルグリットの部屋に入る。


「何かしら?」

「キモノが届いたので、お暇が有れば来て頂きたいとの事です。」

「あのニホンの服ね、分かったわすぐ行くと伝えてくれるかしら。」

「承知致しました。」

 モリアンは答えるとお辞儀をする。


「あ、モリー。」

「はい?!」

「私にも気軽に話して良いわよ?」

「え゛・・・流石にそれはぁ・・・。」

 モリアンはチラッとエリーナを見る、エリーナは微笑み頷く。


「え~、はい!了解です!」

「それじゃ準備して行くわね。」

「はーい!」

 モリアンは答えると扉を開けあっという間に走って消えた。


「良かったのですか?」

 頷きこそしたが、エリーナはマルグリットに問いかける。


「羨ましかったのよね、エリーナも普段から気楽に話してくれれば私の気もまぎれるのに。」

 少し拗ねた様に言うマルグリットに苦笑いするエリーナ。


「善処致します。」

 ニコッと笑うエリーナ、それを見てクスクス笑うアルベル、3人は笑い合う。


「ラティ、チハルの部屋に居るからエイダンにメモ渡して来てくれる?」

「クィッ!」

 一鳴きすると、ラティはメモを咥え窓から飛んで行った。



----------------



「たっだいま戻りましたぁ!」

「はやっ!!!」

 モリアンは扉を開け千春が驚く。


「すぐ来られるそうです!」

「りょ~、おばぁちゃーん、すぐ来るってー。」

「はいよー、春恵のLIMEはこれで良いんだね。」

「そ、私にもLIMEしてね、普段暇だから。」

「チーちゃんに送るのでも10分くらいかかったんだよ?」

「練習よ練習♪」

 春恵はスマホを見てニッコリ笑う。


「千春みて~、登録したよ♪」

「はいはい、登録だけで喜べて幸せですにゃぁ。」

「だって、私が生きてた頃スマホなんて無かったんだもん。」

「ん~・・・あったんじゃない?」

「私持ってなかったもん。」

「・・・もんって、可愛く言わないでくださ~い。」

「ほら、2人とも、着替えるよ。」

「「はーい。」」

 千春と春恵は文恵に連れられ寝室に向かう。


「ルプ、今日は呑めるか?」

「おう、こっちの酒も確保してるからな、爺さんが好きそうなこっちの日本酒・・・日本じゃねぇから米酒か、手に入れてるぞ。」

「おぉー楽しみだな。」

「・・・あ!しくった!酒はビェリーが持ってたんだ!」

 ルプはそう言うと千春の所に向かう。


「千春!」

「なにー?ルプー。」

「ヨリとビェリーは来るか?!」

「呼んだら来るよー。」

「呼んでくれ!」

「ほいよー。」

 千春はポチポチとLIMEする。


「・・・呼んだー、すぐ来るよ。」

「おう!」

 ルプはニッコニコで源治の所に戻る、そして2人はニンマリと笑いビェリーを待った。





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