デミオーガさん呑む!

「ロイロ様美味しいです!」

 クラータはクピクピとウイスキーを口にしながら嬉しそうに言う。


「じゃろう?12年物の良いヤツじゃからな。」

 ロイロも同じくウイスキーを手に答える。


「ロイロの姐さん、あまり姫に飲ませるのは・・・。」

 大将のセルロはこっそりとロイロに言うが、クラータはジロリと睨みつける。


「セルロ、そこに座りなさい。」

「姫・・・もう酔ったんですか?」

「酔って無いわよぉ?」

「うわぁ酔ってるよ。」

 セルロの後ろからカネン、テロモ、ルフアの3人が呟く。


「あなた達も座りなさい!」

 クラータは立ち上がり、ウイスキーグラスを掲げながら怒り出す。


「あなた達あれだけ問題起こすなって言ったのに・・・。」

 クラータはそう言うと、グチグチグチグチと話し出す。


「ロイロの姐さん、あの酒って酒精強いんですか?」

「・・・強いのぅ、ココにある酒で一番強い。」

 ロイロがこそっと説明すると溜息を吐くセルロ。


「セルロ!聞いてるの!?」

「はいぃ!」

 そして男達は正座したままクラータに叱られ続けた。



------------------



「こんにっちわ~い♪」

「チハル王女殿下、いらっしゃいませ、温泉ですか?お泊りですか?」

「えっとー、泊り?」

 千春は春恵とアイトネを見ると、にっこり頷く。


「たまにはこう言う所も良いわよね。」

 日本の温泉旅館風に建てられた宿を見て春恵も楽しそうに答える。


「あ、ロイロ達とデミオーガさんは何処に居ますか?」

「はい、フジの間でお寛ぎ頂いております。」

「挨拶したいので案内お願いしてもいいですかー?」

「はい、こちらへ。」

 仲居さんが案内すると、千春達はゾロゾロと付いて行く。


「こちらがフジの間で御座います。」

「ありがとー。」

 千春はお礼を言い扉をノックする。


コンコン


「・・・あれ?」

 声は聞こえるが返事が無い、千春はもう一度ノックをすると、ビェリーが子供の姿で現れた。


「ヨリきたん?」

「来るっしょ、何してんの?」

「んー、見てみ?」

 ビェリーはそのまま扉を開けると、仁王立ちで説教をするクラータと、正座をする4人の男達が目に入る。


「・・・ロイロ、なにこれ。」

「あー、お説教中じゃ。」

「ん~、どちらさまぁ?」

「ありゃ、女性も居たんだ、千春って言います。」

「それはどうもぉ~♪私はクラータでぇ~すよ~。」

「・・・酔ってね?」

 ぴょこっと顔を出し頼子が呟く。


「酔ってんねぇ、どんだけ飲んだの?」

「ウイスキー1本じゃな。」

「え?その瓶1本飲んだの?」

「うむ。」

「そりゃ酔うわ。」

 千春はクラータに近寄り手を取る。


「なにぃ?」

「アンチドート。」

「・・・へ?」

「酔い覚めた?」

「は・・・はい、あれ?なんであなた達座ってるの?」

 キョトンとした顔で男達を見るクラータ、男達は溜息を吐いた。


「チハルと言ったか、助かった。」

「お嬢さん助かりました。」

 セルロとカネンが千春にお礼を言う。


「えっと、デミオーガさんですよね?」

 ガタイが良く、頭に角を生やした男達を見て千春が問いかける。


「はい、そうです。」

「・・・あれ?全然普通ですね。」

「普通と言うと?」

「もっとほら、何だゴルア!みたいな勢いで言われるかと思ったから。」

「あぁ、それは祖父の代で終わってます。」

「そうなんだ、でも喧嘩っ早いって聞いてたから。」

「それは・・・否定出来ませんが。」

 あはははと申し訳なさそうに頭を掻くセルロ。


「アイトネ、どう?」

『言ってる事は本当みたいよ、少なくともこの子達はしっかり教育受けてるわね。』

「この子!?」

 この子と言われ男達は目を見開く。


「あ、この人神様だから、私達み~~~~~んなアイトネの子みたいなものだよ。」

「神!?」

 一番に驚いたのはクラータだ、そして膝を突く。


「失礼致しました。」

『あら、あなた神託スキル持ってるじゃない。』

「神の声をお聞きした事は有りませんが。」

『そうね、貴女の祀る山の神は昔バグで壊れた猪ですもの。』

「バグ?」

『あ、気にしないでいいわよ~♪』

 パタパタと手を振るアイトネ、思ったよりも温厚なデミオーガを見てホッとする春恵達。


「で、酒盛り中?」

「そうじゃったのだが・・・。」

「姫さんがウイスキーを美味い美味いとガバガバ行ってな、こうなった。」

「ありゃー。」

 ロイロとルプの説明で恥ずかしそうにするクラータ。


「デミオーガさんはこれで全員なの?」

「いや、あと1人居る。」

「何処に行ったの?」

「・・・ロイロの姐さんに手を出して・・・。」

「え?ロイロ?」

「いや、儂は悪くないぞ?あ奴が手を出して来たんじゃ、本当じゃぞ?」

「で?」

「ロイロの裏拳一発で沈んだぞ。」

 ルプが告げ口の様に答える。


「えー!?大丈夫なの?」

「エーデルが救護班に処置させてたから大丈夫じゃねぇか?こいつら丈夫そうだしな。」

 ルプが答えると、セルロが答える。


「アレくらいなら死にはしませんよ。」

「死にかけてましたけど・・・。」

 クラータも思い出したように言う。


「・・・ヨリ、どう?」

「・・・普通じゃん?」

「だよねぇ、狂暴なイメージあったのになぁ。」

「千春なんで残念そうなん?」

 千春が言うと頼子が呆れ気味に言う。


「チハル様!」

「あ、ホーキンさんお疲れさまー。」

「有難うございます、どうなされました?」

「ん、デミオーガさん達見に来ただけー、温泉入ってお泊りするの。」

「そうですか、今日は第一騎士団が警護に入ります、ごゆっくりされてください。」

 ホーキンは千春にそう伝えると、デミオーガ達に声を掛ける。


「お前達の仲間が息を吹き返したぞ。」

「え?死んでたの?」

「死にかけてました。」

「ロイロー・・・やりすぎ。」

 千春はロイロを見ると、ロイロは目を逸らす。


「儂に掴みかかって来るのが悪い!」

「はい、ロイロ様に手を出したバンカが悪いです。」

 ロイロの反論にクラータも口添えする。


「デミオーガさんがそう言うならいいけどぉ。」

 千春は、まぁいっかと廊下を見ると、兵士に連れられた大柄な男が歩いて来る。


「あ、もどってきたよ。」

 頼子がデミオーガ達に声を掛けると、セルロが出迎える。


「バンカ、大丈夫か。」

「あぁ、記憶が飛んで何が起こったか覚えてないんだが。」

 バンカはセルロに答える、そして入口に並ぶ女性を見回す。


「なんだ?この女たちは。」

「バンカ、失礼な事を言うなよ。」

「は?人間の女だろ?」

「おい!」

 他のデミオーガと違い、バンカは偏見があるのかジロジロと千春達を見る。


「なんか他の人と違う感じだね、この人。」

「目線が失礼だね。」

 千春と頼子が呟く、そして。


「大将、なんっすかこの貧乳。」

 バンカの言葉に空気が凍る。


「・・・今なんていった?」

「は?なんだ?貧乳娘。」

「・・・モートさーーーーーん!!!!!」

 千春は大声でモートを呼ぶと、楽し気にモートが現れる。


「チハル、落ち着け。」

「だって!こいつ!こいつ!!!」

「わかったわかった、で?」

「あっちに2泊3日の旅行に連れて行ってあげて!」

「あ、帰す気は有るんだな、しかし3日も居たら帰って来れなくなるぞ?」

「んじゃ一泊で良いよ、お礼準備しとくから。」

「はははは、楽しみにしておくよ。」

 モートはパチンと指を鳴らすとバンカが消える、そしてモートも千春に手を振り消えた。


「・・・えっ?」

 いきなり現れ、バンカを連れ消えた男を見て、セルロやクラータ、他の男達も目が点になっていた。


「チハル・・・様?何が起きたのですか?」

 クラータは恐るおそる千春に問いかける。


「はい!私を貧乳って言ったあの人は冥界一泊旅行に行きました!」

「「「「「はぁぁ!?」」」」」

「千春、やりすぎじゃ無いの?」

 春恵は苦笑いしながら千春に言う。


「だってぇ、おかぁさんもし言われたらどうする?」

「アイテムボックスに数年入れておくわ。」

「あ、その手が有ったか。」

「千春、ハルママ、2人とも落ち着こう?」

 頼子が思わず突っ込む。


「それじゃ私達は温泉はいるので~のんびり楽しんでね~♪」

 千春は誤魔化す様にデミオーガへ声を掛けると部屋を出て行った。


「ほれ、呑み直すぞ。」

「・・・はい。」

 セルロとクラータは素直に頷き部屋に戻った。





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