デミオーガさんいらっしゃーい!

「外が喧しいな。」

 ルプは城壁から外を見ていると兵士が各門を警備していた、いつもの兵よりも多く見える。


「デミオーガが近づいているらしいぞ。」

「魔物か?」

「いや、亜人と言われる種族じゃなぁ。」

 隣には腰かけたロイロが同じく外を見ている。


「危ないヤツ等なのか?」

「その者にもよるじゃろうが、比較的好戦的と聞いたがなぁ。」

 ロイロは遠くを見ながら呟いていると、一点を凝視する。


「いるのぅ。」

「あの旅団か。」

「うむ、魔力は少ないが強そうなのが5~6人おるぞ。」

「ほぉ?手合わせしてみるのも良いかもな。」

「・・・ルプよ、デミオーガより好戦的なのはどうなんじゃ?」

「最近動いてねぇからなぁ。」

 笑いながらルプは答える、しかし視線は旅団を見つめていた。



--------------------



「あれがジブラロールか。」

「やっと着きましたね。」

 フードを被った男2人が馬に乗り城壁を見つめる。


「大将、大丈夫ですかね。」

「大丈夫だろ、その為に田舎の冒険者ギルドで登録したんだ。」

「美味い酒が有ると聞いてここまで来ましたが、何とか辿り着きましたね。」

「あぁ・・・。」

 大将と呼ばれた男は城門を見る、門の前には兵士が並び、商人や旅人、冒険者をチェックしながら中へ入れていた。


「お前ら、絶対に問題を起こすなよ。」

「はい。」

「分ってますぜ大将。」

「酒の為だ、我慢するぜ。」

「飯も美味いらしいぞ。」

「街で言ってたな、王都の飯は物凄く美味いって。」

「楽しみだぜ。」

 男達はそう呟くと、他の旅人に交じりのんびりと近づいて行った。



-------------------



「あの旅団だな。」

 エーデルはホーキンに言う。


「報告では。」

「あの連中はこっちに並ばせろ。」

「はっ。」

 門の前に立つエーデルは列を増やし、旅団を自分の方へ向かわせる、暫くすると馬から降りた男達と、商人らしき男、そして荷馬車に乗った者達が到着する。


「ようこそジブラロールへ。」

 エーデルはニッコリと微笑むが、商人は虎顔の笑みを知らず、思わず怯む。


「は、はい、有難うございます、こちらが商人証でございます。」

 商人は札を出しエーデルに渡す、エーデルは魔道具に照らすと緑いろに光る。


「うむ、次。」

 エーデルは問題の男達に声を掛ける、男達はフードをかぶっているが顔は見えている。


「冒険者証だ。」

「ふむ。」

 冒険者証を照らすと、同じく緑に光る。


「・・・問題ないな。」

 エーデルの言葉を聞き男達はホッとした顔を見せ微笑む。


「それで?目的は?」

「・・・目的?」

「あぁ、お前達はデミオーガだろう?」

「・・・何故分かった。」

「あ~、まぁ俺はデミオーガと会った事があるからな。」

 商人からの告げ口と言えば被害が出ると思い、エーデルは誤魔化す。


「酒だ。」

「俺は飯だ。」

「美味いと聞いた。」

「酒の為に旅して来たんだ。」

「美味い酒があるんだろう?十分な理由だろ。」

 男達はそれぞれ理由を伝える。


「その女性は?」

 隠れる様に後ろから見ている女性を見ながら問いかける。


「姫・・・いや、彼女も冒険者だ。」

「ふむ。」

 思った以上におとなしいデミオーガにエーデルは拍子抜けしつつも質問を続ける。


「この冒険者証は作ったばかりだな。」

「あぁ、冒険者証が有ると便利だと聞いたからな。」

「・・・人族になっているぞ?」

「・・・。」

「デミオーガでも冒険者登録は出来るだろう、何故だ?」

「・・・。」

「答えれないのか?」

「長老・・・うちの長がこの国に行くのを必死で止めてな。」

「ほう?」

「どうも、デミオーガに恨みを持つ魔女が居ると。」

「・・・あー。」

「噂では冒険者を引退したと聞いたらしいんだが、絶対にバレるなと言われたんだ。」

「あんたにはバレましたがね。」

「その魔女にバレなければ良いだろ。」

 エーデルに言う大将の男に続き男達も話す。


「その件も踏まえてなのだが、お前達俺に付いて来い。」

「何故だ?何も悪い事はして無いだろう?」

「そうだ、冒険者として国へ入るだけだ。」

 気付けば周りに兵士が並んでいる、男達と一緒に来ていた旅人たちは既に居ない。


「ま、これだけ話が出来るんだ、問題は無いだろう、しかしその魔女と言う方が問題でな。」

「な・・・なんだと?その魔女が居るのか?」

「居るも何も、その魔女の二つ名まで言えるか?」

「氷の魔女だ。」

「・・・その方はこの国の王妃殿下だ。」

「!?」

「な!?」

 驚く男達、後ろの女性も怯えている、すると城壁の上から白銀の狼と女性が飛び降りて来た。


「エーデル、言う事を聞かんのか?」

「ロイロ殿、そう言う訳ではありませんが。」

 ロイロはそう言うと大将を見る。


「ほぉ?良い面構えじゃな。」

「なんだお前。」

「儂か?ロイロじゃ。」

「俺はルプだ。」

 2人は男達を見ながら自己紹介すると、1人の男がロイロに近寄る。


「お前らは邪魔すんな、俺達は中に入るだけだ。」

「言う事聞かぬと痛い目に合うぞ?」

「うるせぇ!女がしゃしゃり出て来るんじゃねぇよ!」

「やめろ!バンカ!」

 バンカと言われた男はロイロに掴みかかる。


「ふむ、女でも容赦無しか。」

 ロイロはそう呟くと掴みかかって来たバンカを裏拳で吹き飛ばす。


バキッ!!!!!


「おいおいロイロ、手加減しろよ?」

 ルプは飛んで行った男を見ながら呟く。


「手加減したわぃ。」

 ポカンと見ている大将、エーデルは溜息を吐く。


「あー、救護班、見てやってくれ、お前達おとなしく付いて来い。」

 エーデルは大将に言うと大将はハッとした顔に戻る、そして腰にある剣に手をやろうとすると女性がその手を押さえる。


「セルロ、やめなさい。」

「姫!しかし!」

「やめなさい。」

「・・・はい。」

「失礼しました、貴女は人ではありませんよね?」

 姫と呼ばれた女性はロイロに問いかける。


「ほう?ぱっと見チハルと変わらんが、良く分かったのぅ。」

「ロイロ、隠蔽の術掛けてるぞ。」

 ルプは女性を見ながら呟く。


「おぬし名前は?」

「クラータで御座います。」

「儂はロイロ、ドラゴンじゃ。」

「ドラゴン!?」

「変化してやろうか?」

「いえ、その膨大な魔力、そちらの銀狼様と同じく聖獣の類かと思われますので。」

「ほぉ~、中々見どころ有る、のうルプよ。」

「まぁな、それじゃ付いて来るのか?」

「はい、貴方達、行きましょう。」

 最初のオドオドした態度とは一変し皆に指示をするクラータ。


「はっ。」

 大将は返事をする


「こっちだ、付いて来い。」

 エーデルは門の横にある扉に向かう、ホーキンが先頭を歩き、エーデルが続く、そしてクラータと男達が、ロイロはルプに横乗りし、後ろからついて行った。



-------------------



「メグ。」

「・・・。」

「お前は今身重じゃぞ?」

「デミオーガよ?」

「わかっとる、しかしあの時のデミオーガはお前がボッコボコにしたじゃろ。」

「・・・。」

「世代が変わり話が出来る者もおるじゃろぅ。」

「あのデミオーガどもが話?出来るわけ無いじゃない。」

「まぁまぁ、エーデルとホーキン、第一騎士団が警備しておる、竜騎士団も待機しておるんじゃ。」

「・・・。」

「お前のデミオーガ嫌いは相変わらずじゃなぁ。」

「駆逐すればよかったわ・・・この国に来るなんて。」

「まぁまぁ、落ち着け、な?」

 今にも飛び出てデミオーガ達を殲滅しようとするマルグリットを、必死で押さえるエイダン国王、そして苦笑いしている宰相ルーカス。


(チハルの案件以外で胃が痛くなるのは久しぶりじゃなぁ・・・。)

 腹を軽く摩りながら溜息を吐くエイダンだった。









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