異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます！】

千春1人で遊ぶ！

「た～だいまっと・・・あれ？」

　千春は中間試験が終わり異世界に行くと誰も居なかった。

「・・・あ！午前中で終わるの言って無かった！」

　キョロキョロと見まわすが部屋はもぬけの殻だ。

「あちゃー・・・どうしよっかなぁ。」

　取り敢えず着替えようと寝室に行きクローゼットを開ける。

「んー・・・お、侍女服あるじゃーん。」

　何気なしに侍女服を手に取ると、千春は袖を通す。

「おー、ぴったりー。」

　クルクルと回りスカートをヒラヒラしながらステップを踏む。

「動き易いなー、流石仕事着って感じ。」

　千春はそのまま厨房に行くと昼食を作り出す、誰も居ないので1人分だ。

「軽くでいっかぁ。」

　玉子をスクランブルエッグにするとパンをアイテムボックスから取り出す、魚肉ソーセージを軽く焼いてパンに挟み、ケチャップをかけるとその場で頬張る。

「んめ～。」

　いつもなら行儀が悪いと叱るサフィーナも居ない為、千春は食べながら応接室に向かう、いつもならテーブルに鎮座している彩葉も三珠とお出かけの様だ。

「蝙蝠ちゃーんは・・・あ、寝てる。」

　千春の部屋にいる蝙蝠は主人が寝ているせいか大人しく目を瞑り動かない。

「まぁいっか～。」

　お昼を食べ、また寝室に戻る、着替えようかと考えていると街にお出かけ変装用ウィッグを見つける。

「変装用ウィッグあるじゃん。」

　金髪や栗色、色々と並んだウィッグを手に取りかぶる。

「いいじゃ～ん♪」

　鏡に映った自分を見ながらまたクルクル回ると千春は外に出かけた。

「1人で歩くの初めてかも～♪」

　てくてくと廊下を歩く、何度か貴族とすれ違うが誰も千春に気付かない。

「ヤバっ楽しい。」

　普段歩く時はサフィーナが必ず近くを歩き、後ろにはサリナやモリアンが付いている、千春はスキップしそうになるがそれを押さえ歩き続ける。

「そこの娘。」

　貴族の紳士が千春に声を掛ける。

「・・・。」

「娘！」

「へ？私ですか？」

「お前以外に誰が居る？」

　千春はキョロキョロ見回すが女は自分だけだ。

「なんでしょーか。」

「・・・いや、手伝ってもらおうと思ったのだが、無理そうだな。」

　千春の貧弱な腕を見る紳士。

「その荷物ですか？」

「そうだが・・・お前には無理そうだ、声を掛けてすまんな。」

　紳士は軽く微笑み荷物を見る。

「運びますよ？」

「ん？身体強化を使えるのか？」

「いえ、こうやって・・・。」

　千春はアイテムボックスを開くと荷物を収納する。

「なんと・・・収納魔法か！それが使える侍女が居ると聞いた事があるが、ほうほう、便利だな。」

「何処に運ぶんですか？」

「外に馬車がある、そこまで頼む。」

「は～い♪」

　千春は何が楽しいのかルンルンと紳士の後ろを付いて行く、暫く歩くと門があり、外には数台の馬車が並んでいた。

「コレだ、この荷台に頼む。」

「は～い♪」

　千春は荷台の上にアイテムボックスを開くとポトンと落とし荷台に乗せた。

「助かった、これは駄賃だ。」

　紳士は小金貨を千春に渡す。

「良いんですか？」

「かまわんよ、お前は誰かの侍女か？」

「誰かと言うと？」

「お付きではないのか？」

「えっとぉ、ないですねぇ。」

「ふむ、儂の所に来ないか？給料は弾むぞ？」

「え゛・・・えっと、いや、そのぉ～。」

「なんだ、他にも誘われているのか？・・・あぁそのスキルが有れば誘われもするか。」

　紳士は1人で納得し頷く。

「そ、そうなんです！別の方にも誘われてまして！」

「うーむ、まだ選んでないのなら一度話をしてみないか？儂はケイルス、ケイルス・フィヤー侯爵だ。」

「フィアー侯爵？・・・え～・・・あれ？何処かで。」

「ん？もしかして娘を知っているのか？」

「娘？・・・あー！！！！ヤーテちゃんのパパ！？」

「やはりヤーテを知っておったか、学友か？」

「いえ、フランちゃんの・・・フランシスの友達なんです。」

「・・・公爵家令嬢を呼び捨てか、お嬢さんは何者なのだ？」

「え？あ、フランちゃんにこう呼べって言われて！」

「そうか、お嬢さんの名前は？」

「なまえ！？え～・・・チ・・・チルです。」

「チチルか、可愛い名だが、チチル・・・チチル・・・貴族令嬢で記憶にないな。」

　貴族は目を瞑り記憶を探る、しかし出て来ない。

「おっと、引き留めて悪かった、仕事が有るのだろう？」

「いえ？」

「・・・ん？仕事は無いのか？」

「えっと、はい、今日の仕事は終わりました！」

「そうか、どうだ？今家にヤーテも居る、遊びに来るか。」

　紳士は楽し気に話しかける。

「良いんですか？」

「かまわんよ、家を気に入って働いてくれると儂も助かる、そのスキルは貴重だからな。」

　ハッハッハと笑いながら千春に話しかけるケイルス、千春は貴族の家に興味が有り思わず返事を返す。

「よし、それじゃ馬車に乗るが良い。」

「おじゃましまーす♪」

　千春はピョンピョンと馬車の段差を飛び乗り中に入る。

「おぉー、貴族の馬車初めてだ。」

　王族の馬車とは違い、豪華な椅子にテーブルも有る、横には飲み物が設置され趣味全開の内装だ。

「どうだ、最新式と言われる馬車だ。」

「って事は揺れも少ないんですか？」

「知っておったか、賢者タイキ様の最新技術が盛り込まれた馬車だ。」

　思わず吹き出す千春。

「けんじゃぁ！？」

「賢者タイキ様を知らんのか、今王国で色々な発明をしている方だ、今は地方を回っていると聞いているが。」

「そ、そうなんですねぇ～・・・。」

　話をしていると老人が現れる。

「ご主人様、出発致します。」

「うむ、出してくれパラダ。」

　ケイルスはそう言うとパラダはお辞儀をし扉を閉める、そして馬車が動き出す、ケイルスは千春とヤーテの話や王宮の話をしながら王都邸へ向かった。