ヤーテ大慌て!

「おっきぃー!」

 馬車が止まり千春は馬車から降りると、目の前には豪邸が有った。


「はっはっは、貴族の館はコレが普通だ。」

 ケイルスはニコニコと答え歩く、千春はちょこちょこと後ろを付いて行く、パラダが扉を開けるとメインホールが有り、魔物や動物の革が飾られていた。


「おぉぅ、すごい。」

「こいつは儂が仕留めたんだ、手ごわかったぞ。」

 大きな虎の様な魔物を指差しながら自慢げに話すケイルス、すると奥から女性が現れる。


「お帰りなさいませアナタ、そのお嬢さんは?」

「ピリス、王宮で荷物を運んでもらった侍女のチチル嬢だ、噂の収納魔法を使えてな、スカウトしてきた。」

「あら、そうなの?」

「えっと!決めては無いんですが!?」

「はっはっは、ヤーテの友達らしくてな、ヤーテは居るか?」

「部屋に居ますわよ?」

「それでは呼んできてもらおう、チチル嬢はこっちで待っていると良い。」

 ケイルスが言うと執事のパラダが案内する、応接間のようでカーテンや装飾も上品で整っている。


「有難うございます。」

 千春は貴族の館をマジマジと見る、王宮とは違い調度品にも趣味が現れていた。


「お茶をどうぞ。」

 メイドがお茶を淹れ千春の前に置く。


「有難うございます。」

 お茶を啜る千春、香りも良く、いい茶葉を使っているようだ。


「おいしい♪」

 メイドはニコッと笑うとペコリと頭を下げる。


「お父様、御用ですか?」

 外から声が聞こえる、王宮の応接間とは違い防音は緩いようだ。


「お前の友達と王宮で会ってな、連れて来ているぞ。」

「お友達ですか?」

 声が聞こえ扉が開かれる、そしてヤーテは千春をじっと見る。


「やほ~♪」

 千春は手をフリフリしながら挨拶をする。


「・・・!?チ!!!!チ「あー!!!!!ヤーテちゃんひさしぶりぃぃぃぃ!!!!!」」

 千春はヤーテの声にかぶせるように大声で声を掛ける。


「な!?」

 千春は立ち上がりヤーテの手を取る、そして耳元でこそっと話す。


「侍女のチチルで、内緒で出て来たの。(ボソッ)」

「な!?なにやってるんですかぁ!?(ボソッ)」

「どうした?」

「いえ!お父様、チ・・・チチル様と私の部屋でお話しますので!」

「様?・・・お、おう、構わないが。」

「チチル様!此方です!」

 ヤーテは引き摺るように千春の手を引く、ケイルスとピリスはいつも落ち着いたヤーテが大きな声で話すのにビックリしたまま2人を見送った。



----------------



「王女殿下!何されてますの!?」

「ん?探検してたらヤーテちゃんのパパにお手伝い頼まれたから。」

「お父様ぁぁぁぁ!!!」

 ヤーテは思わずテーブルに伏せる。


「あ、ほら、侍女服着てたしバレてないって。」

「それはそうでしょう!王女殿下と知ってたら絶対に頼みませんから!」

「・・・そだね、って言うかヤーテちゃんもっと大人しい感じだと思ったのに元気だね。」

「誰のせいですかぁぁぁぁぁ・・・・失礼しました!」

「あははは、いいよ、普通に話して貰って。」

 千春はそう答えるとヤーテの部屋を見回す。


「可愛い部屋だねー。」

「・・・そうですか?」

「うん、ほら、私の部屋って何も無いじゃん。」

「人形ありましたよ?」

「動くけどねアレ。」

「動いてましたね。」

 千春の誕生日にフランシス達とプレゼントを持ってきたヤーテは彩葉を見ていた。


「それでどういったご用事で?」

「なにが?」

「・・・フィヤー侯爵家に用事が?」

「ん~ん、パパさんと話してたらヤーテちゃんのパパだったじゃん、ヤーテちゃんの家見たかったし誘われたから。」

「それだけですか?」

「うん。」

「そんな簡単に貴族の家に行かないで下さい、何か有ったらどうするんですか。」

「何も無かったよ?」

「うちだからですよぉぉぉ!」

「まぁまぁ落ち着いて、お茶入れようか?」

 千春はアイテムボックスからポットを取り出す。


「お菓子も有るよー。」

 千春はお徳用バラエティーパックと書かれたお菓子を取り出す。


「お父様、その魔法見て何故気付かなかったんでしょうか。」

「使える侍女が居るって聞いた事ある・・・って言ってたなぁ、サフィーの事だろうけど。」

「サフィーナ様は王子殿下の第二夫人になる方ですよ!?侍女扱いなんて!」

「いや、王宮じゃ侍女してるじゃん。」

「・・・そうなんですけど、これからどうされるんですか?」

「別に予定無いんだよねー、夕方までに帰れば良いし?」

「そうですか、お送り致しますね。」

「え?今から?」

「はい、私も今からお茶会が有ります、王女殿下とお茶をしていると言えばお茶会もお断り出来ますが・・・秘密なんですよね?」

「うん!バレたら怒られるね!」

 千春の返事にがっくりと肩を落とすヤーテ。


「お送りします。」

「えー、まだ時間あるしー、あ!そうだ!」

 千春が声を上げる、ヤーテは嫌な予感しかしない。


「ヤーテちゃんのお茶会にメイドで付いて行くとか?」

「ダメです!!!!」

「えーなんで?」

「チハル王女殿下を知っている貴族令嬢も居ます!」

「ほら、変装してるじゃん。」

「私一目でわかりましたよ?」

「ヤーテちゃんは結構会ってるじゃん?」

「そうですけれどー・・・。」

「ヒマなんだもーん。」

「チハル王女殿下の暇潰しで私の寿命が縮むんですが。」

「大丈夫だって~、大人しくしてるから、ね?」

 千春は可愛く言うが、ヤーテにとっては圧が掛かってるようにしか感じられない。


「はぁ、分かりました、チハル王女殿下のお願いですから。」

「やったね~♪」

「その代わり!」

「ん?」

「化粧させていただきます。」

「えー!」

「えーじゃありません!バレたらどうするんですか!」

「その時はその時で。」

「その時は私多分倒れますからね?」

「・・・しゃーない。」

 ヤーテはコソコソと扉を開けると部屋を出て行く、そしてすぐにメイドを2人連れ帰って来た。


「クティス!ケーリィ!この方を別人にして頂戴!」

 ヤーテはそう言うと大きな化粧箱を取り出す。


「ちょ!?」

 メイド服までも準備され着替えまでさせられる千春。


「服も!?」

「当たり前です!この侍女服は王宮の侍女しか着ません!こんな格好で動かれたら直ぐに分かります!」

 ヤーテはそう言うと侍女達に着替えをさせる。


「あ、可愛い。」

 王宮の服とは違い、フリルがヒラヒラ付いている。


「チハル王女殿下は目元に特徴が有りますから目元を徹底して変えます!」

 ヤーテが言うと、クティスは頷きアイラインを強めにメイクをしていく、ケーリィは千春の髪を綺麗に結うと、後ろ髪を隠すように作られたカチューシャも付けられる、そして千春の変装をガッツリとしたメイド2人はやり切った感を出し微笑む。


「如何ですか?」

 クティスは鏡を千春に向ける。


「わぁお!別人!」

「これならチハル王女殿下を知っている方でも直ぐには気付きませんわ。」

 ヤーテは一旦千春をソファーに座らせ次は自分の着替えを始める、そして着替えが終わりメイド2人に声を掛ける。


「クティス、ケーリィ、この事は絶対に内緒よ。」

「はい、お嬢様。」

 クティスが答えるとケーリィも頷く。


「チハル王女殿下、まだ時間は有りますわ、暫くお待ちいただきますけれども。」

「うん、大丈夫だよ、あとチチルって言ってね・・・あ!そうだ、お礼にみんなでおやつ食べよー♪」

 千春は先ほどのお徳用バラエティーパックの他にもお菓子を取り出す。


「クティスちゃん、ケーリィちゃんも食べてね♪口止め料だから♪」

 アイテムボックスから取り出したのはコンビニのエクレアだ。


「最近コレにハマっててさー、生クリームが超おいしいの。」

 袋をピリッと破り取り出すと千春はパクっと口に入れる。


「ん~♪・・・あ、3人も食べて♪」

「お茶会前に・・・。」

「やめとく?」

「いえ・・・食べます。」

 そして4人はお茶会が始まるまで時間を潰した。





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