千春の誕生日!①

「お母様ぁ~・・・きましたぁ~・・・。」

 マルグリットの付き人アルベルが扉を開けると千春は小さな声で言う。


「いらっしゃいチハル、ここに座って。」

 マルグリットはニッコリと笑みを浮かべソファーに促す、千春は固い笑みを浮かべながらソファーに座る。


「チハル?」

「はいっ!」

「何故言わなかったの?」

 思わず千春は『何をですか?』と誤魔化そうかと思ったが、マルグリットの笑みが怖く素直に話す。


「えっと・・・私ずっと誕生日は1人で過ごしてたので・・・お祝いされるの慣れてないんです。」

「・・・。」

「ユラのお祝いを見てたので、ちょ~~~っと私は無理かなぁぁ~~~~って・・・思いまして?」

「・・・。」

「あ!お父さんとかヨリとかはプレゼントくれたり電話してくれたりしてたんですよ!?」

「・・・。」

「でも、こう・・・賑やかにするのは慣れてないと言うか・・・恥ずかしいっていうか~・・・。」

「何年くらい1人で誕生日を過ごしたの?」

「え~っと・・・お父さんが出張したり海外に行く事になった頃なので・・・5年?くらいですか。」

「そう、それじゃ5年分祝うわよ、エリーナ、仕立て屋を呼んで頂戴。」

「はい。」

 エリーナは一言返事をするとすぐに部屋を出る。


「アルベル、細工師とアクセサリー職人を呼んで頂戴。」

「はい。」

 アルベルも直ぐに動き出す。


「あの!?お母様?」

「はぁ、まったく、チハル、私はチハルの家族なのよ?」

「・・・はい。」

「遠慮することはないの、私達にもお祝いさせて頂戴。」

「・・・はい。」

 マルグリットは千春の横に座ると顔を抱きしめる。


「お母様?」

「何?」

「・・・怒ってます?」

「怒ってるわよ、娘の誕生日を確認もせず、悲しい思いをさせた自分に。」

 マルグリットはそう言うと頭を撫でる。


「言ったわよね?チハルの『お母様の居なかった時間を、私に少しでも埋めさせてくれないかしら?』って。」

「・・・あ、はい。」

「埋めさせてくれるのかしら?」

「はい、お願いします!」

 千春は本当の笑みを浮かべるとマルグリットに抱き着く。


「フフッ、それじゃ忙しくなるわよぉ♪」

「がんばります!」

 2人は微笑み合う、それを見ていたサフィーナも笑みを浮かべる、暫くすると外が騒がしくなる、そして仕立て屋や細工師が次々と部屋に入ってくる。


「サフィー、アクセサリーは任せるわね。」

「はい、お任せください。」

 サフィーナはそう答えると沢山のジュエリーや貴金属を選んで行く。


「さぁチハル、採寸するわよ。」

「前の採寸じゃダメなんですか?」

「あなた少し大きくなったでしょう。」

「え?分かるんですか?」

「分かるわよ、少し背が伸びたわ。」

「ちょっとだけですけど・・・。」

 そう言うと千春は自分の胸を見る。


「こっちは全然です。」

「あら可愛いわよ?」

「褒められて無いですぅぅぅぅ。」

 2人はクスクス笑いながらも楽しく採寸をしていく、そして採寸が終わり次はドレスを選び、生地色を考える、サフィーナも一緒になりあーだこーだと話し3人で楽しい時間を過ごした。



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「ルプ、知ってたのか?」

「あぁ俺は聞いてたからな。」

「何故教えんのじゃ。」

「言いたく無さそうにしてたからなぁ、必要なら千春が言うだろ。」

「まぁ・・・そうじゃな、何を贈れば喜ぶじゃろうなぁ。」

 ロイロは千春の部屋でソファーで寛ぎながら考える。


「俺達なら酒一択だがなぁ。」

「酒は呑まぬからのぅ。」

「彩葉何か思いつかないか?」

 日本人形の彩葉にルプが問いかける。


「私?」

「あぁ、じい様とばあ様の所に居ただろ?何か知ってる事は無いか?」

「そうねぇ・・・あ!春恵の着物が文恵の箪笥に有るわよ?」

「ほぉ?チハルの母上の着物か。」

「へぇ、それも良いな、ばあ様に言えば譲ってくれそうだな。」

「でもあそこまでどうやって行くの?遠いわよ?」

「あぁ大丈夫だ、神道を使えば良い。」

 ルプはそう言うとロイロに声を掛ける。


「ロイロ、サプライズってやつだ、アイトネを呼んでくれ。」

「儂も行くぞ?」

「あぁ問題無い、彩葉も付いて来てくれ。」

「もちろん行くわよ。」

 ロイロは目を瞑る、そしてアイトネを呼ぶとアイトネは直ぐに姿を現した。


『どうしたの?ロイロ~・・・何?チハルの誕生日?』

「うむ、先程聞いてのぅ。」

『言うかどうか迷ってたものねぇ。』

「アイトネは知っておったか。」

『知ってるわよ、でもチハルって自分の事には奥手と言うか、遠慮するじゃない?』

「まぁのぅ。」

『でも皆が祝うなら私も祝って良いわよね♪』

「ほどほどにせいよ。」

『勿論♪で?あっちに用事が有るのね?』

「うむ、送ってくれるか。」

『まかせて~♪私も付いて行っちゃお♪』

 アイトネはそう言うと部屋を移動する、そしてルプ、ロイロ、彩葉、そして彩葉を乗せた三珠も付いて行く。


「何処から行くんじゃ?」

「俺が居た神社から行く。」

『それじゃ行きましょ♪』

 アイトネは普段と違いワンピース姿になり歩きながら部屋を出る。


『鍵閉めるから早く出てー。』

「鍵もっておるのか?」

『チハルに貰ったわ♪』

 皆が出ると普通に鍵を閉める、そしてルプは姿を消し、アイトネは彩葉を抱くと神社に向かった。



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「コラリーおねえちゃん!」

「ユラ様!どうされました!?」

 ユラはサフィーナの部屋に居たコラリーとドロテに声を掛ける。


「チハルおねえちゃんがたんじょうびなの!」

「「えぇーーーー!!!!」」

「それでね!それでね!」

「はい!」

「ヌイグルミつくりたいの!」

「・・・お任せください!!!」

「コラリー!何準備したらいい!?私何する?!」

 ドロテが落ち着きを無くしコラリーに問いかける。


「待って!ユラ様何のヌイグルミを作るのですか?」

「えっとね!ルプのヌイグルミ!」

「ルプ様ですか、白銀の狼ですね、前作った毛皮で作れそうですが・・・足りるかしら。」

「ユラのピノちゃん?」

「そうです、ピノちゃんと同じ毛皮で作りましょう。」

 ユラの誕生日に貰った狐のヌイグルミはピノと名付けられユラは毎日一緒に寝ていた。


「それでは型紙から作ります、ドロテ、箒使って商業ギルドまで飛んでスノーウィズルの毛皮買って来て!」

「分った!でもあるかな?」

「商業ギルドなら有るわ、ユラ様のご所望なの、ギルマスのメイソン様に直接伝えてもらって構わないわ!」

「了解!行って来る!」

 ドロテは立てかけてある魔道具の箒をガシっと掴むと外へ飛び出した。



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「ルーカス。」

「はい。」

「どうしたらいいんじゃ?」

「自分でお考え下さい。」

「ユラの時はドレスを作ったじゃろ?」

「その案は却下です、マルグリット王妃殿下が仕立て屋を呼びました。」

「・・・領地は。」

「喜ぶわけないでしょう。」

「娘の喜ぶ物って何じゃー!!!!」

「キレないで下さい。」

「なんじゃルーカス落ち着いておるの、お前は何か贈るのか?」

「はい。」

「何を贈るんじゃ!?」

「・・・秘密です。」

「王様の命令じゃ、教えろ。」

「い・や・で・す。」

「儂王様じゃぞ?」

「はい、それはそれこれはこれです。」

「・・・くっ。」

 エイダン国王は娘を持つ貴族を次々と呼び付けプレゼントを考え続けた。





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