千春の誕生日!②

「この神社だ。」

 ルプが皆を引き連れ神社にやって来ると烏が舞い降りる。


「狼の!お久しぶりです!」

「おーカラス、神道を使うぞ。」

「どうぞ~、蛇はおらぬので?」

「別行動だ。」

 ルプは知った道を歩くと小さな鳥居が見えた。


「ここを通る。」

「ほう、この世界にも転移魔方陣が有るのじゃな。」

「似て異なる物だがな、人間には使えない。」

 ルプはそう言うと鳥居に足を踏み入れる。


「ついて来てくれ。」

『は~い。』

「うむ。」

 ルプの後ろをついていくアイトネとロイロ、そして三珠もテクテクと後ろを歩く。


「長いのか?」

「そうでもないが・・・。」

 数歩歩くと視界が開ける、そこには古びた家や人外が歩いていた。


「ほほう、別次元空間か?」

「神の作った空間だ、俺達土地神や使いの者が通る道だ。」

 ルプは説明しながらてくてくと暫く歩いた。


「ココだな。」

 横道に入ると小さな祠と鳥居がある。


「ココは何処に繋がるんじゃ?」

「じい様の家の近くにある神社だ。」

 ルプはそう言うとそのまま鳥居に入る、同じ様に少し歩くと景色が変わる。


「ココから5分くらい歩けばじい様の家だ。」

 暫く歩くと人気のない道に入る、そして歩き続けると大きな家が見えた。


「アレだ。」

『素敵な家ねぇ。』

 アイトネが見ていると玄関から文恵が出て来た。


「あら!?ルプちゃん!」

「ばあ様元気かー?」

「チーちゃんは?」

「千春はあっちの世界に居る。」

「あーあー、異世界って所かい?」

「そうだ。」

「それで?どうしたんだい?こんな所まで、それにべっぴんさんが2人も、人形ちゃんも。」

「吾輩もいるにゃ・・・。」

「あら、猫ちゃん喋るのかい?」

「文恵!私も話せるようになったわよ!」

「あらあらあらあら、まぁ中に入ってくださいな。」

 文恵はカゴを持ったまま皆を家に招く、そして居間に案内する。


「お茶を淹れて来るからちょっとまってておくれ。」

「じい様は?」

「買い物を頼んだから、もうすぐ帰って来るよ。」

 ルプに答えると文恵は台所に向かった。


「これは中々趣があるのぅ。」

「だろ?今の日本でもこの手の家は少ないからなぁ。」

 昔ながらの平屋で大きな家、ロイロは面白そうに見回す。


「ばぁさん!かえったぞー!」

「お客さんきてるよー!」

「だれじゃー!?」

 大きな声でやり取りをする2人、ドスドスと廊下を歩く音がする、そして居間にピョコっと顔をだす源治。


「おお!ルプじゃねぇか!」

「元気そうだな、じい様。」

「おう!で?そのべっぴんさんは誰だい?」

「あっちの女神と龍だ。」

「・・・は?」

『アイトネと申します、チハルのおじい様。』

「ロイロじゃ、チハルには世話になっておる。」

「おい、ルプ、どういう事だ?」

「あー、かくかくしかじかってやつだ。」

「分らねえよ!」

「はいはい爺さんお茶を淹れたから買った物頂戴。」

「お、おう、俺が持って行く、お前は話しを聞いてくれ。」

 源治はそのまま荷物を持って台所へ向かう、文恵は座ると改めて挨拶をする。


「チーちゃんの祖母、文恵と申します。」

『あちらの世界で女神をしておりますアイトネと申しますわ。』

「儂はロイロ、ドラゴンじゃ。」

「吾輩は猫又の三珠にゃ!」

「文恵、私は彩葉よ。」

 皆は自己紹介をするとルプが文恵に説明を始める。


「あと4日で千春の誕生日なのは覚えているか?」

「えぇ、忘れるわけが無いわ。」

「そうか、それでな?彩葉に聞いたんだが、千春の母親が着ていた着物は有るか?」

「もちろん有るわよ、大事に取っているわ。」

 着物を思い出しながら笑みを浮かべる文恵。


「それを千春にプレゼントしたいんだが。」

「あら、良いわね、でもチーちゃん着付け出来ないわよ?」

「あぁ、着付けが必要か。」

「ルプ、あの道は人間も使えるのか?」

 ロイロは不意にルプへ問いかける。


「俺が居れば使えるが、他の者がちょっかい掛けて来ると困るな。」

『ちょっかい掛けられなければ良いのね?』

「ばあ様を連れて行くのか?」

「それが早いじゃろ。」

『ちょっとまってね~♪』

 アイトネはスマホで誰かに電話をする。


『・・・あ、ウカちゃん?・・・うん、そうなの・・・それでチハルのおばあ様の家に来てるのよ。』

 アイトネは宇迦之御魂に電話をし説明をする。


『よろしく~♪』

「大丈夫そうか。」

『迎えに来るって。』

「助かる、宇迦之御魂様が居ればちょっかい掛けて来るバカは居ないだろ。」

 ルプはそう言うと文恵を見る。


「ばあ様着物を持って異世界に来てくれるか?」

「爺さんどうしようかねぇ。」

「一緒に連れて行けばいいじゃねぇか。」

「なんだぁ?何処に行くんだ?」

 源治は楽しそうに居間に入って来る。


「千春の誕生日を向こうの世界でやるんだ、じい様来ないか?」

「お?行けるのか?」

「あぁ、裏道を通るからすぐに行ける。」

「誕生日かぁチーは幾つになったんだ?」

「爺さんボケたのかい?18になるんだよ。」

「おぉー、プレゼント持って行かないとなぁ。」

「ルプちゃんはそのプレゼントを取に来たんだよ。」

「ほぉ、そうだったのか、いつ行くんだ?」

「準備が出来たらすぐに戻るつもりだ。」

「おっし、婆さん準備するぞ!」

 源治は立ち上がり楽しそうに言う。


「着物は結構荷物になるわよ?」

『あら、おばあ様私が持ちますわ。』

「女の子に持たせるには多いわよ?」

『ウフフ、大丈夫ですわよ。』

 文恵とアイトネは2人で別の部屋に移動する。


「ルプ、あっちには酒はあるんか?」

「まぁ有るが、こっちの酒ほど美味いわけじゃねぇな。」

「よし、買いに行くぞ!」

「お?持って行くのか?」

「そりゃ行くだろ、あっちにぁ~チーを面倒見てくれている王様と王妃様がいるんだろ?」

「いるなぁ。」

「お礼が居るだろ?」

「じい様が飲みたいだけだろ。」

「ほ~、それじゃ俺だけ飲むとするか。」

「嘘だ嘘だ!俺も飲む!行くぞ!」

「ルプ、酒か!?」

 ロイロが酒と聞き目の色を変える。


「嬢ちゃんも呑める口か?」

「儂はドラゴンじゃ、幾らでも呑めるぞ。」

「よし!嬢ちゃんも付いて来い!」

「ロイロじゃ。」

「おう、ロイロ嬢ちゃん!」

「・・・まぁいいかのぅ。」

 そう言うとロイロも立ち上がる、源治は軽トラに乗り助手席にロイロ、ルプは荷台に乗ると酒屋まで走って行った。



-----------------



『綺麗ね。』

 アイトネは着物を見ながら呟く。


「あの子が好きな色なのよ。」

 深い青色の着物を文恵は愛おしそうに触る。


『それでは私が預かるわね。』

 アイトネは空間を開くと着物を収納する。


「・・・凄いわね。」

『向こうの世界だとチハルも似たような事が出来るわ。』

「そりゃすごいわぁ、まだ沢山入るのかい?」

『えぇ、私のは幾らでも入るわよ。』

「それじゃぁこの着物も持って行くとしようかね。」

 文恵は着物用の箪笥を開くと幾つかの着物を取り出す。


「帯はこれと・・・これも。」

『これは?』

「簪(かんざし)だよ、髪を結う時に使うんだよ、これも持って行くとしようかね。」

 小箱を開き簪や小物を入れて行く文恵。


「アイトネちゃん、食べ物も持って行けるかい?」

『勿論♪』

「チーちゃんが言ってたのよ、食べるのが大好きな女神様が居るってね。」

 そう言うと文恵はニコッと笑いかける。


『チハルったら・・・。』

「チーちゃんにも美味しい物作ってあげたいから持って行っていいかい?」

『勿論!いくらでも持って行くわよ!』

 2人は台所に移動すると、文恵が出す物を次々とアイトネが収納していく。


「あれ?爺さんどこ行った?」

「お酒買いに行ったわよ。」

 文恵の問いに彩葉が答える。


「まったく爺さんときたら。」

『まぁ良いじゃない、お酒が好きな子がいっぱい居るわ、皆が喜ぶとチハルも喜ぶわ。』

「そうかい?それなら良いけどね。」

 暫く文恵とアイトネ、彩葉が話をしていると呼び鈴が鳴る。


「誰かねぇ?」

『ウカちゃんよ。』

「宇迦之御魂様よ文恵。」

「たしかお狐様の神様だね?本当に?」

『えぇ。』

 アイトネが玄関に行くと宇迦之御魂が立っていた。


「迎えに来たわよー。」

『ごめんなさいね。』

「いいのよ、アイさんのお願いだもの♪」

 2人が玄関で話をしていると軽トラが帰って来る。


「お、宇迦之御魂様がもう来てるぞ。」

「お狐様か!?」

「そのボスだ。」

 酒の入った袋を荷台から下ろすと急いで玄関に向かう3人。


「爺さんの準備は終わってるよ。」

「おー、スマンスマン!」

『このお酒も預かるわね。』

 アイトネは買い物袋を空間収納する。


『さ、戻りましょう♪』

「扉を開くわね。」

 宇迦之御魂はそう言うと何も無い所に半透明の鳥居を作り出す。


「流石は神じゃなぁ。」

 ロイロは転移する扉を見て呟く。


「さ、千春ちゃんの家まで直行するわよ。」

「あそこは通らないのか。」

「通りたかった?」

「いや、面倒事は避けたいからな。」

 ルプは笑いながら答える、そして千春の家の前に出る。


「アイさん、これ千春ちゃんに渡してくれる?」

『あら、プレゼント?』

「えぇ、ちょっとだけ良い事があるお守り。」

『渡しておくわ♪』

 宇迦之御魂と別れアイトネは玄関の鍵を開ける、そして源治と文恵はクローゼットを見てポカンと口をあけている。


『さ、戻るわよ手を繋いでね♪』

 アイトネに言われ皆は手を繋いで門を通る、そして異世界へ帰って来た。









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