恐怖の晩餐!
「エンハルト殿下こちらで御座います。」
執事が席に促し千春とサフィーナも席に座る、対面にはレファントとクロミスが座り笑みを浮かべる。
間を置かずライリーとフィンレーも部屋に入り隣に座る、ユラとフィンレーは微笑み合い、ライリーは千春にニコッと微笑む、その後スレンダーな紳士とその奥方が部屋に入ると、エンハルトに一礼しレファントの横に座った。
「待たせたか。」
エイダンはマルグリットと2人で部屋に入り声を掛けると、紳士が立ち上がる。
「お久しぶりです陛下。」
「身内しかおらぬ、畏まらなくても良いぞハニード。」
ハッハッハと笑うエイダン、しかし千春はいつもガハガハ笑うエイダンを見ているせいか違和感を感じた。
「兄上がそう言われるならば・・・。」
「うむ、その娘は初めて会うな、レファントの婚約者か。」
急に声を掛けられクロミスは立ち上がり礼をし、自己紹介をする、そして。
「ふむ、チハル、サフィーナ、ユラ。」
「はい。」
「はい!」
「チハル、サフィーナ、ユラだ、知っていると思うがチハルとサフィーナはエンハルトの婚約者、ユラはフィンレーの婚約者だ。」
3人はベコリと頭を下げると、エイダンは座るように視線を動かす。
「さて、積もる話も有るじゃろうが食事をしながらでも構わんじゃろう。」
そう言うと、待っていましたと言わんばかりに食事が運ばれてくる。
「新しいメニューか、美味そうだ。」
エイダンはチラリと千春を見る、千春はニコッと微笑む。
「それでは頂こう。」
エイダンが言うと、王族は皆いただきますと挨拶をし食事を始める、それを見たハニードはピクリと眉を動かすが食事を始めた。
「美味しいわ。」
前菜が終わり、ハニードの妻アベニーはデミグラスハンバーグを口に入れポツリと呟くと、ハニードも驚いた顔でエイダンに問いかける。
「この料理は?!」
「チハル、新しい料理か?」
「はいお父様、デミグラスソースで煮込んだハンバーグです。」
「うむ、美味いな!」
いつものエイダンに戻り大きな声で笑うエイダンを見て、千春もクスッと笑う。
『千春、入れたぞ。』
姿を消したルプが耳元で囁く、千春はコクっと頭を動かす。
「兄上、食事中に大きな声で笑わないで下さい。」
「うるさいのぅ、飯は楽しく食べれば良いんじゃ。」
「しかし貴族、ましてや王族がその様な事では示しがつきませんよ。」
ハニードはチラッと千春とユラを見る、丁寧に食べているとは言え貴族から見れば2人は落第点の様だ、レファントとクロミスもクスクス笑っている。
「貴族か、マナーマナーと言いおって、ここでは儂がマナーじゃ。」
「それでは道理が通りませんよ?」
「なぁぁにが道理じゃ。」
「実際にそうでしょう、王女殿下御二人のマナーはどうですか?この様なマナーでは他の貴族に笑われます。」
千春とユラを見ながらハニードが言うとユラはピタリと止まる、横に座るフィンレーはユラの手に手を乗せ微笑み、ライリーも微笑む。
「セバス、アレは?」
「はい、次で御座います。」
「持ってきてくれ。」
エイダンが言うとセバスは礼をし、次の料理を持ってくる。
「料理を食べるマナーは分かる、しかしそれは昔の古い風習だ、塩で焼いただけの肉をワインで流し込むだけの食事に何がマナーじゃ。」
テーブルに並べられた料理を見て千春は驚く、まさか王族の晩餐にこれが出るとは思っても見なかった。
「料理を美味しく食べるそれだけじゃ、不快に思うのならば食わずに出ていけば良い。」
そう言うとエイダンはハンバーガーを手掴みで取り齧り付く。
「うむ!美味い!ポテトもあるか?」
「はい。」
セバスが返事をすると、揚げたてのフライドポテトがテーブルに置かれ、エイダンは1つ摘むと口に入れる。
「ほれ、お前達も温かいうちに食え。」
エイダンは何故か楽しそうに言うと、マルグリットがハンバーガーを手に取り齧り付く。
「美味しいわねぇ。」
マルグリットはアベニーを見ながら言う、ハニードは視線を動かすと我妻がハンバーガーを手に取り齧り付く所だった。
「美味しいわ、ハニード。」
「ア・・・アベニーお前。」
「ハニード・・・死にたくなければ食べて。」
「な?何を言っているのだ?」
「ほら、あなた達も食べなさい。」
驚くハニード、そして悲しそうにしているユラを撫でている千春を見る。
「ハニード、レファント、クロミス、食べて。」
悲しそうに、そして最後の通告と言わんばかりの声でアベニーが言うと、3人はハンバーガーを手に取り齧り付く。
「美味しい。」
「美味しいです母上。」
「・・・美味しいですわ義母様。」
3人の返事を聞きアベニーは千春を見る、いや、千春の後ろに立つ二柱を見た、そしてアベニーはマルグリットに声を掛ける。
「今日のハンバーガーも美味しいですわメグ様。」
「お、おい!王妃殿下を愛称で言うとは!」
驚くハニード、そして誰一人この料理の名前を言っていないのに何故自分の妻が料理名を知っているのか混乱する。
「チハル王女殿下、うちの者達が失礼を致しました、ユラ王女殿下、いつもの様に楽しくお食事を続けさせていただいても宜しいでしょうか。」
ニッコリ微笑むアベニー、しかし手は微かに震えている。
「いいの?」
「えぇ、是非ともお願い致します。」
「はい!」
微かに流れる涙を拭くユラ、その声を聞いた二柱は少し溜息を吐くと消えた。
「はぁぁぁ・・・失礼しました。」
大きな溜息を吐くアベニーは謝罪する。
「うむ、構わんぞ、儂も弟を連れていかれる所は見たくないからのぅ。」
「まさかハニードがチハルとユラの事を悪く言うとは思わなかったわ。」
エイダンとマルグリットも息を吐く。
「ど、どう言う事だ?兄上、どういう事なのですか?」
「お前、もう少しで神罰食らっておったぞ、アベニーに感謝しろ。」
先ほどと違い、ぶっきらぼうに言い放つエイダン、しかし顔は安心したのか笑みを浮かべている。
「アベニー、何故、お前は・・・いや、この料理を知っていたのか?それに王女殿下の後ろにいた2人は!?」
口早に問いかけるハニード、アベニーは静かに答える。
「私が知っている事は、チハル王女殿下、ユラ王女殿下を泣かせた者は無事に済まないと言う事、料理の名前の事はメグ様のお仕事を手伝っているから食べた事が有るからよ、あなたに言えば派閥だ、王族だとうるさいでしょう?こっそり王宮にお邪魔してたのよ。」
そう言うアベニーは微かに震える手で水を飲む。
「はぁ、あのお二人は神様、チハル王女殿下・・・聖女様が悲しまれたので出て来られたのでしょう。」
水を飲み終わるとアイトネとモートの事を話す。
「少し懲らしめるつもりではあったが、危なかったのぅ、しかしユラを泣かせたのは許せんなぁ。」
「本当ですわ、義弟とは言え許せませんわね。」
「・・・申し訳御座いません。」
頭を下げるハニード、そしてレファントとクロミスも席を立ち頭を下げる。
「ユラ。」
「はい、ハンバーガーおいしいです!」
「許したっぽいですよ?」
マルグリットが声を掛けると、謝罪を気にせずハンバーガーに齧り付くユラ、そして千春は笑いながら代わりに返事を返す。
「んむぅ、それでは食事を続けようかのぅ。」
「そうね。」
エイダンは仕切り直しセバスに言うと、デザートが運ばれて来た。
「ルプ・・・よく耐えたね。」
『あぁ、アイトネが来るのが分かってたからな。』
「いつ暴れるかヒヤヒヤしたよ。」
『殺気は飛ばしていたが、あ奴ら全然気づかなかったからな、あの女だけだな気付いたのは。』
「ユラが良いならまぁいっかぁ。」
『千春はもう良いのか?』
「もう良いよ、お父様とお母様困らせるのもヤだし。」
『・・・料理に薬入れてるから後で困らせるんじゃねぇか?』
「・・・あ。」
千春とルプがこっそり話をしていると、サフィーナが耳打ちする。
「世界樹の実食べさせたら?万能薬だからあの薬の効果も消えるんじゃないかしら?」
サフィーナの提案に千春は少し考えた後、ぽつりと呟く。
「いや、やっぱりあの男は痛い目にあわせたい、そのままでいいや。」
千春はそう言うとユラを一緒にデザートを食べる、食事が終わりハニードはエイダンとマルグリット、そしてアベニーに連れていかれ、コッテリと絞られた、レファントは数時間後謎の腹痛に襲われトイレの住人となったが、千春がアベニーに渡した世界樹の飴でトイレから出る事が出来た。
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