晩餐、その前に!
「コレを煮詰めて少しトロミ出したいから最後に小麦粉で調節してください。」
「思ったより簡単だな。」
「時間は掛かるけどねー、あとシャリーちゃんの努力の賜物だね。」
ソースやケチャップを見ながら千春は答える。
「後はハンバーグか。」
「最初にフライパンで両面焼き色付けてからソース流し込んで煮込むだけ、食べる20分前くらいに煮込むと良いかな、盛り付けたら軽く生クリームを上から掛けてください。」
「了解だ、今日の晩餐のメインはコレで行こう。」
「他には?」
「ブラックホーンブルのローストビーフやチハルさんの作った料理を色々出すぞ。」
「楽しみ♪」
『私も出席したいわぁ。』
「うわぁ!ビックリしたぁ!見てたの?」
飴を食べて帰ったはずのアイトネは千春の後ろから羨ましそうに声を掛けてきた。
「アイトネ様にもお作りしますよ、客間に準備させましょう。」
『ルノアーちゃん大好き!』
「あ、ルノアーさんそれじゃ2人分お願い出来ます?」
「出来るが、誰か呼ぶのか?」
「モートさーん。」
「やぁチハル。」
「盗賊の件ありがとうございました、料理食べますよね?」
「勿論。」
モートもニッコリ微笑む。
「チハル、そろそろ準備しましょうか。」
「早く無い?」
「そんな事ないですよ、湯浴みもしますから。」
「しゃーない、ユラ行こうか。」
「はーい!」
サフィーナはモリアン達を引き連れ歩く。
「あれ?私の部屋じゃないの?」
「メグ様の所ですよ、ドレスを合わせますから。」
「ぃぁぁ!ドレスかぁぁ!」
「慣れたでしょ?」
「いや、アレは何回着ても慣れないね、サフィーは慣れたの?」
「貴族令嬢でしたら幼い頃から着てますからね。」
「ユラも慣れるのかねぇ。」
テコテコついてくるユラを見ながら呟く千春。
「ユラは細いですからね、コルセットはしますが締める必要ありませんから。」
「・・・つまり私は太いと。」
「・・・健康的な体型ですよ?」
「フォローになってなぁぁい!」
千春の叫びは王宮の廊下を響き渡る。
「何を叫んでるんだ。」
エンハルトは片手を上げ声を掛けてくる。
「なんでもにゃー・・・。」
「他の貴族令嬢が細すぎるんだよ。」
「聞こえてるじゃぁぁん!」
「すまないな無理を言って。」
「ドレス着たらいっぱい食べれないんだよねぇ。」
「いや、そうでは無く出席してもらう事だよ。」
「公爵家とご飯食べるだけでしょ?」
「・・・まぁ表向きはな。」
含んだ言い方をするエンハルトに千春は頭を傾げる。
「チハルはいつも通りで良いのよ。」
「ま、そうだな。」
サフィーナが言うとエンハルトもクスッと笑い肯定する。
「それで良いならいいけどぉ。」
微妙に納得出来ていないが、聞いたところで面倒そうだと思った千春は適当に相槌を打つ、そしてエンハルトと別れるとマルグリットの自室に辿り着く。
「いらっしゃいチハル、サフィーナ、ユラも着替えますよ。」
「はーい!」
元気よく返事をするユラを見て微笑むマルグリット、そして千春を見る。
「ごめんなさいね。」
「いえ、ハルトの婚約者ですからこういうのにもたまには出ないとと思っていたので。」
「ありがとうチハル、今日は色々聞かれても全て答えなくても良いから。」
「へ?」
「公爵家、クロラス公爵はエイダンの弟なのよ、ただあまり仲が良いわけじゃないの。」
少し悲しそうに言うマルグリット。
「兄弟なのに?」
「兄弟だから・・・かしらね。」
話を変えるようにマルグリットはパンと手を叩き笑みを浮かべる。
「さ、準備しましょう、サフィーナも行くわよ。」
「はい。」
4人は温泉に行き湯浴みをする、そして部屋に戻るとドレスに着替える。
「チハル様髪を結いますね。」
「はい。」
いつもポニーテールにしている髪を少し上で止めると、侍女2人で髪を編み込む。
「チハル様化粧致します。」
「え?化粧するんです?」
「当たり前でしょう?チハルは肌が綺麗だからチークと目元だけよ。」
「・・・はい。」
なされるがまま千春はおとなしくしている、チラリとユラを見るとユラも軽く化粧されており楽しそうだ。
準備が終わり寛いでいると、扉がノックされる。
「チハル、サフィー、迎えにきたぞ。」
「お母様と行くんじゃないの?」
「母上は父上と行く・・・フッ、可愛いじゃないか、似合ってるぞ。」
エンハルトは千春とサフィーナを見て嬉しそうに呟く。
「ハイハイありがとうございますー。」
千春はぶっきらぼうに言うが顔を赤らめ目を逸らす。
「お母様行ってきます。」
「エンハルト、エスコート頼んだわよ。」
「はい。」
食卓に向かうだけのエスコートにマルグリットは真面目な顔でエンハルトに言う、千春はハテ?と不思議に思いながらもエンハルトについて行く。
「なんか不穏〜。」
「まぁなぁ、叔父一家は癖が強いんだ、チハルはニコニコしてたら良い、変に答えると面倒だからな、サフィー頼んだぞ。」
「お任せ下さい。」
サフィーナは不敵な笑みをこぼし返事をする、少し歩いた所で二手に分かれた通路から瀟洒な男が女性と歩いて来た。
「(チッ)・・・。」
「これはこれはエンハルト殿下、御機嫌麗しく。」
「レファントも元気そうだな。」
笑みを浮かべ2人は挨拶をすると、レファントは千春とサフィーナを見る。
「あの女性嫌いなエンハルト殿下が2人も婚約者を作られるとは、いやはや何が有るか分かりませんね。」
「レファントも婚約したそうだな。」
「えぇ。」
レファントは隣に立つ美しい女性を見ると、女性はカテーシーで挨拶をする。
「ご挨拶が遅れました、エロン伯爵家のクロミスと申します。」
端麗な顔立ち、そしてプロポーションだ、レファントはドヤ顔でエンハルトに話を続ける。
「こちらが聖女様で御座いますか?」
千春を見て笑みを浮かべるが、足元から舐めるように見るとフッと笑う。
「お久しぶりで御座いますレファント様。」
「やぁサフィーナ久しぶりだね。」
千春に話しかけたが、サフィーナが答えレファントの表情が消える。
「チハルです。」
千春はエンハルトの舌打ちした意味が分かり、名前だけを言う。
「・・・(フッ)クロラス公爵家嫡子レファントと申します、以後お見知りおきを。」
「・・・(今胸見て笑った!コイツ胸見て笑った!!!!!)。」
レファントは千春を見た後サフィーナを見る、そしてもう一度笑みを浮かべた。
「エンハルト殿下、それでは失礼致します。」
何か言いかけたが、話を終わらせたレファントは女性を連れそのまま去っていく、向かう方向は一緒だ。
「チハル、大丈夫か?」
「・・・大丈夫で御座いますことよ、ホホホホホホホホ。」
『ハルト。』
姿を消したルプがエンハルトに囁く。
「(どうしたルプ。)」
『ヤバいぞ。』
「(チハル怒ってるか?)」
『いや・・・殺意レベルだ。』
「・・・。」
ルプのささやきに冷や汗を流すエンハルト、千春はアイテムボックスから小さな箱を取り出す。
「ルプ。」
『どうした。』
「これ、あの男の食事に入れて。」
『薬だろコレ。』
「うん、ミオお勧めの超効く下剤。」
『・・・大人の使用量は2錠か。』
「倍入れよう。」
『・・・わかった。』
「チハル、これ全部入れませんか?」
「1シート入れようか。」
サフィーナもイラついているようで千春をたきつける。
「毒じゃ無いんだよな?」
「薬も取り過ぎると毒だね。」
「舐めてますよね、久しぶりに会いましたが本当に気持ち悪いですわ。」
「・・・俺は見てない、聞いてない。」
「そうですね、ハルトは見てません、聞いてません、良いですね?」
サフィーナがそう言うと千春は箱ごとルプに渡す。
「食事中に何か有ったら1シート追加ね。」
『・・・了解した。』
ルプとエンハルトは無事に済めば良いなと、小さな期待を持ちながら食卓へ向かった。
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「ヤバいな。」
「どうしたの?ロイロちゃん。」
「チハルがキレた。」
「え?ヤバくない?」
「うむ、何があったのか、ちと見て来るぞ。」
「どれくらい怒ってる?」
「・・・殺意を感じた。」
「えぇぇ!チハルちゃんがそこまで怒るってよっぽどじゃない!?王宮に居るんだよね!?」
「あぁ、先程までは楽しそうにしておったんじゃがなぁ。」
千春の感情が分かるロイロは不安そうに言うと、アジトの扉を開き王宮に向かって飛んで行った。
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『・・・あらあらあら。』
「どうしたアイトネ。」
『チハルが怒っちゃった。』
「誰だ、チハルを怒らせたヤツは。」
『公爵家の長男ね。』
「連れて行くか?」
『いえ、チハルが仕掛けるみたいだから様子を見ましょう、もしもチハルを泣かせたら私がヤルわ。』
「魂は貰うぞ、可愛がってやろう。」
客間で食事を待つ間お茶をしていた二柱は虚空を見つめ千春を見守る事にした。
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