第12話◆王女は謎の言葉を残し、魔女は栄光をつかもうと手を伸ばし、その手を踏みにじる為にシュテルクスは存在する
「アリア。これを収納して物陰に避難して、お兄様は陛下と殿下を安全なところに!ヴァン様、できればアリアを守って欲しいです」
急いで片付けているアリアに水晶も一緒に亜空間収納に入れくれるように頼みます。完全に弱らせて封じないとまた出てくるかもしれません。精神を殺せるモノがあればいいのですが、現時点では初代様が使った方法に倣うしかありません。
その時、壁が爆発し煙と土埃が聖堂内に入ってきました。
「み~つけた!こんなところにいたんだぁ」
·····誰ですか?いえ、土煙の隙間から見える姿は王女メリアングレイスです。先程見た王女の姿ですが、なんと言いますか威厳というか、王女としてのプライドというものが置き去りされているように思えます。しかし、先程足止めをしていた魔女はこのように軽い感じで話す人物では無かったはずです。
「すっごく、探したんだよ〜。結界なんて張っちゃってさぁ。結界壊したら誰もいないって酷くない?」
私は眉間をもんで再び王女メリアングレイスの姿を捉えますが、その姿に変わりはありませんでした。
「女王になる私を馬鹿にして、酷いよね。でも大丈夫。みんなみんな死ぬから。死は誰しも与えられる平等な祝福」
笑顔で聖堂内に入ってくる王女メリアングレイス。いいえ。違いますわ。王女メリアングレイスは物欲は人一倍持っておりましたが、それは御自分の立場を貴族の方々に見せ占めるための行為だと理解しております。では、目の前にいる人物は魔女イーラなのでしょうか?
「貴女は誰?なんと呼べはよろしいのかしら?」
父の横に並んで、私は黒刀を抜いて尋ねます。
「私が誰かですって?私は
ん?人格がぶれている?
「その白髪を見ると私を殺した者を思い出すわね。今度は私が竜人を殺して····ふん!裏切り者のリラシエンシア!あんたの母親を殺したのはあんたの叔父だって教えてあげるわよ!」
母が殺された?いったい何の話をしているのですか?隣の父から物凄い怒気が発せられているのに気が付かないのですか?
「お父様。お母様は生きていますからね。昨日会って確認していますよね」
私は父に小声で声を掛けますが、私の声が聞こえていないのか、歯ぎしりまで聞こえてきます。
「あんたの婚約者の王子を殺したのは国王の妹だから、あんたが剣を向ける相手は違うって指摘してあげる」
え?第二王子はそこで変な顔をしている人物ですよ?で、なぜヴァン様も剣を抜いているのですか?できれば、よくわからない王女から離れて欲しいです。
しかし、6年会わなかっただけで、義兄となる第二王子を認識できない貴女の方が問題だと私は思います。
あ!まだどうするか決めていないのに、勝手に動かないでください。お父様!ヴァン様も!
私はその二人の背を追うように駆け出します。
「ちょっと!だから、剣を向ける相手が違うって言っているでしょ!」
王女は結界を張って父の剣を受け止めますが、暗黒竜が封じられた魔剣では普通の結界など紙くずと同じです。斬り裂かれた結界の隙間からヴァン様が王女に斬りかかり右腕を斬り飛ばし、父が王女の胸を剣で突き刺します。
普通ならこれが止めとなるはずです。しかし、突如として王女の周りに風が巻き起こり、ヴァン様と父が弾かれてしまいました。
「感謝するわ。やっと煩い小娘を黙らせることができたわ」
風が止んだその場所には切り落とされた右腕が元通りに戻り、斬り裂かれたドレスが元に戻り三日月のような笑みを浮かべた魔女が立っていました。ええ、目の前のモノは魔女と認識できました。私が先程まで足止めをしてた魔女イーラ。なんとも言えないドロリとした重々しい空気が彼女が人外のモノだと指し示しています。
私はカツカツと踵を鳴らし、魔女イーラに近づきます。
「そう、その彼女は今はどうしているのかしら?」
私のどうでもいい戯言に魔女が赤い唇を更に歪ませ笑いを深める。
「こんなはずでは無いと泣いているわ。言葉如きで竜人を止められると思ったのかしら?人とは愚かな生き物ね」
愚かね。だけど、その愚かな生き物と言った人の身体を依り代にしているのは貴女自身であることに気がついているかしら?
さて、魔女を弱らせるにはどうすればいいのかしら?今の王女メリアングレイスはどれほどのレベルになっているのかしら?第四側妃は戦う人では無かったので、そこまで強くはありませんでした。
私は王女メリアングレイスが戦場で戦っていた姿を知りませんし、どれほど戦えるか····。
ふと、頭をよぎったことがあります。もしかして、王女メリアングレイスのレベルを上げに必要なクエストを私が潰していたのではないのかということです。何故なら、私と父がことごとく魔物を討伐しつくしていたのですから。
ということは、最終戦に必要なレベルを保持していないという結論に至りました。
父ほど強くないのであれば、私の魔力のゴリ押しでいけるのではないのでしょうか。ええ、レベルがカンストしている私ですが、未だに父に敵いません。父に伝説の魔剣をもたせたら、レベルの底上げになってしまったようです。恐ろしいですわ。
私は石畳の床を蹴り、魔女イーラとの距離を一気に詰め寄ります。魔女イーラも私が人ではなくドラゴニュートであることを理解しておりますので、簡単には近づけさせません。踵をカツンと鳴らしますと影から獣の形をした影が襲いかかってきます。
その影を黒刀で薙ぎ払い更に足を進めますと炎の槍が襲ってきました。これぐらい避けるのは容易ですわ。ダンスを踊るように炎の槍を避けますと背後から爆音が響きます。また建物に風穴が空いてしまったようですね。
そして、黒刀を振るい魔女の首を捉えたかと思えば、その直前にカツンと何かに触れ阻まれてしまいました。
「ほほほほほ。先程と同じ様にはいかないわ」
どうやら、結界が張られているようです。その直後に横腹に衝撃が走ります。斜め下に視線を向けますと、影の獣に突進され横腹を噛みつかれています。しかし、影ごときでは、私の皮膚を傷つけることはできません。
影の獣を握り潰し、身体を反転させ、飛ばされた壁を足がかりに魔女の方に向かおうと見てみれば、丁度父が魔女に斬り掛かっているところでした。私は父に向かって雷撃を放ちます。
父は私の意図を汲み取って雷撃を絡め取り、魔女を一刀両断する勢いで振り下ろしました。斬り裂かれた魔女は悲鳴も上げずに形を崩し、影に潜っていきました。
やはり、こうなってしまいましたか。
先程はこの状態から国王陛下を人質にとられ、操られ魔女の盾とされてしまったのです。しかし、あの時は時間稼ぎが目的でしたので、それでも良かったのです。
私は父の側に駆け寄り、注意を促します。
「お父様。魔女が影に潜ってしまいました。どこから来るかわかりませんので、気をつけてください」
「魔女は殺しても死なないとは本当のことだったのか」
父は魔剣を見ながら唸るように言っています。恐らく王女の胸に剣を突き立てたときのことを言っているのでしょう。
「王女は死んだのか?」
ヴァン様が駆け寄って来ました。私と父は振り返り、ヴァン様に刃を突き立てます。ヴァン様はそのような禍々しい気配は放っておりません。二本の刃を突き付けられたヴァン様は····いいえ、ヴァン様に姿を変えた魔女は再び影の中に潜っていきます。
「許しません。許しません。許しません」
「リア。程々にしておくように。でないと、建物が壊れるからな」
そう言って、父が離れていきます。ええ、わかっていますよ。ここには本物のヴァン様とアリアがおりますもの····ああ、でしたら。
「お父様。アリアとヴァン様はどちらにいるのでしょうか?」
私から二人の姿は見えませんが、父は離れたところにいる他人の気配というものを感じるそうなので、わかるはずです。
「ここから言えば、左側の扉の向こうにいるが、我を忘れることはないようにしろ」
父はそう言いながら、私から更に距離を取っていきます。そんなに、顔をしかめなくてもいいと思います。
取り敢えず、そちら側に結界を張っておけば問題ないでしょう。
私のヴァン様に。私のヴァン様なのに。魔女如きがヴァン様の姿を模するなど許せることではありません。どうしましょうか。
そうですね。斬っても斬っても死なないのであれば、回復する暇を与えなければよろしいのです。
炎の槍を視界の端で捉えます。そして、反対側からは影の獣が向かって来ています。
私は黒刀で、炎の槍と影の獣を薙ぎ払い、視線を巡らします。腕を組んで私の方に視線を向けている父の背後から赤毛が垣間見えます。今度はアリアの姿を模してきたようです。
魔女は人の心の隙を突こうとしているのでしょうが。しかし、我々は竜人。人ではないのですよ。
父は背後に迫ってきた
飛ばされた魔女の腹に刃を突き立てます。
「私の
私と魔女を取り囲むように稲妻の檻が出現します。この十年でこの魔術も格段に威力を増しました。この隙間を抜けるのは本当にアリアしかできないでしょう。
そして、このように光で満たされた檻の中では影も薄くなり、獣を出すことも、影に逃げることも適わないでしょう。
「私を怒らせたことを後悔してください。魔女イーラ」
「私は女王イーラティーミアだと言っている!」
私から距離をとり、何一つ傷がない魔女はまたカツンと踵を鳴らしますが、何も出てくることはありません。影の魔術はどこにでもある影を用いることで、その形を成す魔術ですので、この様に影がない状態を作り出されると、影は形を成すことができません。便利なようでこのような状態を作り出されると使えない魔術なのです。
魔女は驚いた表情をして周りを見ます。慌ててこの檻から出ようと手を稲妻の檻に触れれば弾かれています。
あの時の父を見て檻の威力が足りないと痛感しましたので、普通の人なら焼け焦げます。
「これぐらいで私に勝ったと思わ··」
話している途中の魔女の肩から腹に掛けて斬りつけます。誰が貴女の話など聞くものですか。
腕を斬りつけ、足を斬りつけ胴を斬りつけ首をはねる。しかし、魔女の再生能力は傷を回復し続けます。そして、魔女からも氷の刃が飛んで来ます。
ならば、私は雷撃をまとい、魔女からの攻撃を避け、黒刀を振るうのみです。結界に阻まれようが結界ごと切り裂きます。この黒刀も父の魔剣ほどではないですが、レア武器なのですよ。
どれぐらい攻撃をし続けたでしょうか。床の上にうめき声を上げる人の形だったものがいます。このようになってもまだ動けるのですね。
ですが、私の怒りは収まりません。黒刀を振り上げそのまま···
「リア。もういい」
ワタシの右手を阻むモノは誰ですか!誰であろうとワタシの行動を阻害することはできません!
私は右手を掴んでいるものを睨みつけます。
「ヴァン様···」
私の目に金色の瞳が映り込みます。
「お嬢様。最早、魔女は虫の息です。封じ込めましょう」
私の足元には屈み込んで、膝丈ほどの大きな水晶を支えているアリアがいました。
私は二人の姿を交互に見ます。何故ここにいるのでしょうか?
「お嬢様。旦那様から我を忘れるなと言われておりましたでしょう」
そうですわね。そうでしたわね。アリアにはこの稲妻の檻を解除する術を教えているのでした。
「か···身体。新しい··うつわ」
はっ!このままだとアリアが魔女の標的にされそうです。
私は黒刀を鞘に収め、水晶を持ち上げ掲げます。
「『混沌の古より存在する邪神イーラティーミアよ。その依代を
古文書にあった文言を唱えますと、水晶が光だし、魔女を足元から水晶化していきます。
「次は··次こそは····わらわが王となり····そなたを····」
王となることに囚われた哀れな女の魂は、人の形をした水晶の檻に囚われました。
貴女は誰かの為に王となりたかったのですか?
「この魔女は私が貰い受けてもよいか?」
今まで隠れていたと思われる王太子殿下は現れて尋ねてきました。
「お嬢様に全てを任せて、功績だけ己の物にしようというのですか!」
アリアが王太子殿下に食って掛かっていますが、私は全く構いません。それに王太子殿下はこのためにわざわざ隣国から出てきたようなものなのですから。
「ええ、良いですよ」
「お嬢様!」
「良いのです。しかし、その魔女を何処に封じるか聞いても良いですか?」
これだけは聞いておかねばなりません。何れ魔女が復活したときに、そのときのシュテルクスに引き継がないとならないのですから。
「それはここから北のジジッロに亡んだリアスヴァイシャス神教国の遺跡がありましてね。その最深部にその時代は異教とされていた神を祀る神殿が残っているのです。ええ、今は我が国で神と崇めるレイ神の神殿です。そこなら誰も祈りを捧げることもなく、訪れる者のいない。遺跡の入口を壊し遺跡がある痕跡を隠してしまえば、依代となる者も訪れない。良い案だと思いませんか?」
王太子殿下も色々調べて動いていてくれていたようです。ですから、私は北の辺境領であるジジッロに呼び出されたのですね。
「では、魔女封印は王太子殿下にお任せします」
そして、私は右足を引き腰をかがめ、
「我らシュテルクスは建国からの盟約により、その責務を果たしました。この封じられた魔女の依代にて、完了したことを報告いたします」
これは歴史には刻まれることはないでしょう。ですが、これはシュテルクスとしての責務は果たしたと胸を張って言えます。
私は···いいえ、父と私はこの場にいる王族の方々にシュテルクスとしての矜持を示しました。
「面をあげよ」
国王陛下の声で身体を起こします。私の横にはいつの間にか父がおり、目の前には国王陛下と二人の殿下がいらっしゃいます。
「この度のシュテルクスの働きに感謝の意を述べる。はぁ···」
ん?国王陛下、なんですか?そのため息は。
「その姿を見るのは2度目だが、やはり実際に見てみると人ならざる者の戦いには、人ならざる者の力が必要なのだろう」
その姿?二度目?何のことですか?国王陛下。
「お嬢様。ツノが出ておりますので、引っ込めてくださいませ」
私ですか!頭の横を触ると硬い感触に手が当たりました。ちらりと横目で父を見ます。が、無視ですか!我を忘れるなと忠告を無視したからですか!一度目というのは絶対に父のことですよね!
息を大きく吐き出し、私の中の力を収めていきます。幼い頃は戦いに夢中になると本能というものが目を覚まし、一部竜人化していましたが、大きくなって抑えられるようになっていましたのに、あの魔女の行いに我を忘れてしまったからでしょうね。
皮膚は強固な鱗の鎧をまとい、鋭い牙は獲物に食らいつき、刃のような爪は骨すらも断ち切る。それこそ我が祖である
例え人の皮を被ろうとも所詮お前たちは化け物だと言うことですわね。
「これは王としてではなく、
そう言って国王陛下は私に頭を下げられました。王としてではなく、一人の父親としての言葉なのでしょう。
「陛下。私は、私の思惑の為に動いたに過ぎません」
「それも理解している。君たちシュテルクスは変わっているからな。扱い難いのはランドルフのときに十分味わった」
····お父様。いったい何をされたのでしょうか?恐らくお母様に関わることだとは予想はつきます。
父を窺い見ますが、興味がないと言わんばかりに無視を決め込んでいます。
そして、王族の方々はこの騒ぎを収める為に、魔女の水晶体と共に去っていきました。
私は手に持っている大きな六角柱の水晶を上に投げ飛ばします。古文書と同じ場所に戻します。次いで重力無効の魔術も掛けておきます。ええ、100kg超えの水晶を天井に留めて置くこと自体無理があるので、水晶は元々魔術で浮き続けていたのです。
横を見ますと既に父の姿はありませんでした。え?もしかして、何も言わずに帰ったのですか?
「お嬢様。旦那様は先に戻ると言われ、お帰りになられました」
背後から声を掛けられました。アリアには言って帰ったのですか。私はくるりと後ろを振り向きます。私も帰りま····いえ、別に現実逃避をしていたわけではないのですよ?背後からヒシヒシと不機嫌な気配は感じ取っていましたから。
「リラシエンシア嬢。先程の質問に答えてもらってはないのだが?」
え?ヴァン様、何の質問でしょうか?この事態の説明はしたはずです。うーん?
首を傾けてみますが、ヴァン様の言葉には基本的に直ぐに答えておりますので、そのようなことはないと思うのですが?
それよりも、騎士団の方は良いのでしょうか?兄の姿が見えませんので兄に任せたと思ってよろしいのでしょうか?
「ヴァン様。リラはこの状況の説明はしましたわ。ヴァン様の言う質問がどの質問のことなのかわからないのです。それから、先程のようにリラと呼んで欲しいですわ」
私はニコリと微笑みます。すると、ヴァン様は大きくため息を吐きました。
え?もしかして呆れられてしまいました?それはいけません。私はヴァン様の言葉を一言一句思い出しますが、全く思い当たることがありません。
「虫けら。貴様がウジウジ悩んでいることなど、お嬢様からすれば、その辺の石ころ同然の事だと理解できないのですか」
アリア。そのような言い方はないと思います。っということは、ヴァン様にお悩み相談をされていた?いいえ、そのような記憶もありません。
「わかっている」
「わかっていても理解していないから、どうでも良いことで立ち止まることになるのです。お嬢様はシュテルクスなのです。それ以外の者共は地に伏してひれ伏すべきなのです!」
アリア。私は
「お嬢様を見れば理解できますよね。これ程のことを成しても、王族に手柄を全て横取りされても、道端の石ころを蹴飛ばしてしまったら、当たってしまったわという感じだから別にいいという欲の無さ」
「アリア。それは違いますわよ!」
「では、手柄が欲しかったのですか?」
そんなモノはいりません。私は大きく首を横に振ります。
「という感じのお嬢様の前では、虫けらの悩みなど些細なこと。そして、いつまでもお嬢様の言葉の意味に気づかない愚か者はさっさと言うべきことを言いなさい!」
アリア、いつもながら毒舌が酷いわ。私はこの結末を迎えるために、何年も前から動いていましたわ。それは側にいたアリアが一番良くわかっているでしょう?
アリアの言葉に屈したのかヴァン様が私の前で跪いてしまいました。ヴァン様、アリアの言葉を真に受けないでくださいませ!
ヴァン様は私の右手を手に取りました。え?なんですか?
「リラシエンシア嬢。
「····」
「リラシエンシア嬢?」
「え?なんだかパニックなのですが?もしかして、私ヴァン様に告白されています?ここはどう答えるべきなのですか?いいえ、答えは一択なのですが、このように畏まった「お嬢様、心の声が出ていますよ」はっ!」
アリアの言葉に思わず左手で口を塞ぎます。そして、深呼吸して騎士の鎧をまとって私に許しを請うヴァン様を見下ろします。確かに憧れるシチュエーションですが、私はヴァン様と視線を合わすために、かがみ込みます。そして、左手で私の右手を取っているヴァン様の手を包み込みます。
「ヴァン様、リラはずっと言っておりましたよ。ヴァン様の
いいえ、ただのひと目です。貴方を生かす為に悩み悩み抜いた馬鹿な女の妄執です。
「貴女には昔から予想外の行動をされて驚かされてばかりだ。アリアの言うとおり、愚かなのは俺の方だったということだな」
え?アリアはちょっと···ものすごく口が悪いだけで、優しい子なのですよ。
「ヴァン様は悪くないですよ?」
ヴァン様が何を言いたいのかわからないと首を傾げていますと、私はヴァン様の方に引き寄せられ、抱えられてしまいました。
ふぉー!!この状況は10歳のとき以来じゃないですか!ドキドキが!私の心臓が!
「リラは俺の妻になるということでいいのだな」
つま。ツマ。妻!!勿論、なりますとも!
「リラはヴァン様の奥さんになりますわ」
ヴァン様はそのまま立ち上がって、奥の方に足を進めていきます。そして、聖堂の一番奥にあるレイ神を祀ってある祭壇の前に私を下ろしました。
「ヴァンフィーネル・ダヴィリーエはレイ神の
血にひれ伏し····これは、ヴァン様がシュテルクス家に入る意味が含まれています。それにこの言葉を神に誓うことができるのは、私がシュテルクスの当主に立ったときに、伴侶と成る者に課せられた誓い。私はここに居ない父を探すべく視線を巡らしますが、探しても居ない人は居ません。
「お嬢様。旦那様はお嬢様の事をお認めになっております」
なんですって!アリア、今ここでそのような事を言うのですか!いつそのような話をしたのですか!当事者である私はのけものですか!まさか、弟を差し置いて、私を次期侯爵として父は考えていたのですか。はぁ…私は金色の瞳を見上げます。
「リラシエンシア・シュテルクスはこの血を持って国に準じ、ヴァンフィーネル・ダヴィリーエと共に生きることを望む事をレイ神の
私はこの国、オストゥーニ国の為に力を振るい、盟約を守ったことをレイ神に報告した。すると、この聖堂内に普段は祭司も誰も居ないはずなのに、聖堂の上層部にある鐘の音が響き渡った。いいえ、複数の鐘の音が聞こえるため、この王都にある5つの教会の鐘も鳴っているのでしょう。
「神もお認めなったのであれば、誰も文句は言わないだろう」
ヴァン様は見えない神を探しているのか祭壇の上部を眺めています。それとも、光が入ってくる色ガラスを見ているのでしょうか?
そんなヴァン様に抱きつきます。
「ヴァン様!リラはお腹が空きましたわ。リラとデートしてくださいませ。断ることは駄目ですわよ!」
「こんな時でもリラはリラのままなのだな」
え?どういうことでしょうか?ヴァン様と一緒にいていいのですから、食事も一緒にして良いですわよね。
「それがお嬢様なのです」
アリア。それは誇らしげに言うことなのですか?
「確かに、それがリラだ。その前に誓いを」
そう言って、ヴァン様は私をそのまま抱き寄せ、私に口づけをしてきました。ぐふっ。これは不意打ち過ぎます。
斯くして、私の願いは叶ったのです。王都を守り、ヴァン様と生きる未来を手にしたのです。
ただ、気になることは、あの王女は何者だったのでしょう。しかし、それは闇の中に封じられてしまいましたので、知ることはできません。いいえ、知ってどうすることもできませんので、これで良かったのでしょう。
私は笑顔でヴァン様の腕に掴まって、聖堂を後にします。その背後には死の山が築かれていることは理解しております。私は私の
私は千人の命と一人の命を天秤にかけ、一人の命を取ったのです。
その者たちからすれば、私は裏切り者と呼ばれるのでしょう。ですが、私は勇者ではなく、英雄の血族であります。
私の幸せは屍の上に成り立つ、それは一生忘れることはないでしょう。
_______________
後書き
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
本編はこれにて完結です。次回からヴァンフィーネルSideを4話と補足して、女王の話と王女メリアングレイスSideを投稿します。
ヴァンフィーネルSideは時系列での総集編みたいになっています。読むか読まないかは読者様にお任せいたします。
王女メリアングレイス視点はその話がないとわからないことがありますので、1話追加します。リアにとって興味がないことですので、デュークの疑問の答えは本編には書かれていません。
ここまで長い話にするつもりはなかったのですが、主人公は父ちゃんでいいんじゃないと思ってきてしまいました(¯―¯٥)いえ、なんだかんだ言って、リラは父ちゃん好きなんで、こんな感じになってしまったのですが。
今回の話も、好みが分かれる物語だと思いますが、少しでも面白かったと評価いただけいるのであれば、お手数ではありますが、最後若しくは目次の☆☆☆をポチポチポチと押していただければ、嬉しく思います。
ご意見ご感想等がありましたら、応援コメント欄を開いて入力していただければ、ありがたいです。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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