第16話 ロゼは女神【テディside】

 それからはあっという間だった。


 母上は私が結婚しないものと諦めていたのに、可愛いロゼが来たものだから大喜びで張り切りだした。


「テディ、ロゼッタちゃんは今は側妃だけど、絶対正妃にしていずれは王妃よ。あの子は公爵令嬢だし、賢いし、美しいし、なんの問題もないわ。あなた、ロゼッタちゃんを悲しませたら承知しないわよ」


「承知しております。この命にかえても守り抜きます」


「当たり前よ」


 当たり前だ。ロゼは私の唯一無二。ロゼが死んだら生きてなんていられない。


「婚姻式は大聖堂でやりましょう。白い鳩も飛ばしましょう。馬車でパレードして、夜会もたくさん人を呼びましょう。側妃だけど正妃なのよ。ロゼッタちゃんが真の妃なんだと無言のアピールをしなくてはならないわ」


 母上は鼻歌を歌いながら自室に戻った。ロゼに話す前にウエディングドレスの打ち合わせをしておくらしい。

 まぁ、あの事以来ずっと元気がなかったから母上にとってもよかったのかもしれない。


 しかし、ロゼにはパレードは嫌だと却下された。


 やはり私なんかと並んでパレードするのはいやなのだろうか? 婚姻式も王宮内のチャペルでいいと言う。


 ロゼは正妃に気をつかっているようだった。


 いもしないのに。馬鹿馬鹿しい。


 国のメンツのためになんで私が犠牲にならなきゃいけないんだ。我が国は被害者だ。シンバレッド王国とキンバリー帝国の間で話をつければいいだろう。だんだんキンバリー帝国に怒りがわいてきた。


 何もかもぶちまけて、ロゼを正妃として迎え入れたい。私はロゼのためなら戦争しても構わない。ロベルトには申し訳ないが、私はロゼが世界でいちばん大切なんだ。


「テディ、お前また何か、良からぬことを考えてないか?」


 アーノルドは私を冷たい目で見ながら言う。


「お前は超能力者か?」


「お前がわかりやすいんだ。ロゼッタ嬢が絡むと能無しになる。しっかりしろ!」


 王太子のくせに側近に叱られた。



 ロゼは会うたびに正妃に会いたいと言う。

 なんでそんなに会いたいのだろう?


「どうしても会わせていただけないのなら挙式は致しません」


 ロゼと結婚できない! 私は固まってしまった。ロゼと結婚できないなら死んだ方がましだ。


「病が重いのですか?」


 ロゼは正妃の病が重くて会えないと思っているのか? なんて優しいんだ。やっぱり女神だ。


「ロゼを必ず幸せにすると誓う。だから私を信じて欲しい。頼む」


 私はもうそれしか言えなかった。


「わかりました。もう言いません。私は波風を立てたくないだけです。正妃様に敵意を持っていないことを解っていただきたかったのです。だって、テディ様を取られたと誤解されて命を狙われたりしたら嫌ですもの」


 私は咄嗟にロゼの手を握った。


 ロゼはそんなことを思っていたのか。ロゼの命を狙う奴なんかいたらただではおかない。


「そんなことは絶対させない。ロゼのことはこの命をかけても守る」


「痛いです」


 へ? あっ、やってしまった。


 私は慌ててロゼから手を離した。


「すまなかった。力加減がよく分からなくて……申し訳ない」


 女性に触ったことがほとんどないので、力加減がわからない。普段は気をつけているが感極まって力いっぱい握ってしまった。


 気をつけよう。こんなことでロゼに嫌われたく無い。


 私ひたすら謝り続けた。



 ロゼが王宮に引っ越しの荷物を運んできた。

 正妃が離宮で自分は王宮なんて申し訳ないと言う。

 本当は正妃などいない。私が愛しているのはロゼだけだと言いたい! 

 しかし、喋らないようにキンバリー帝国のやつに見張られいる。腹が立つなぁと思いながら歩いていると、ロゼとマックスが仲良さげに話いる姿が目に入った。


 美男美女だ。なんてお似合いなのだろう。マックスならすぐに正妃になれる。私よりマックスの方がいいのではないか。


 いや、ロゼは渡さない。絶対渡さない。

 私は大急ぎで2人の元へ駆けつけた。


「マックス!」


 マックスは普通の顔で私を見る。


「兄上、どうされました? 私は義姉上にお祝いの言葉をお伝えしておりました。兄上もおめでとうございます。では、姉上、またゆっくりお話いたしましょう」


 ヒラヒラと手を振りながら行ってしまった。

 ロゼにまたゆっくり話そうだなんて絶対嫌だ。阻止してやる。


 私はロゼを見た。


「ロゼ、マックスとは仲が良いのか?」


「いえ、特には。はじめてお話したかもしれませんわ」


 そうなのか? 本当にそうなのか?


「マックスとは何の話を?」


「結婚のお祝いを伝えられました」


「それだけ?」


「はい、それだけですわ」


「そうか」


 本当にそれだけなのか。


「マックス様と話してはいけないのですか?」


「いけなくはないが、その……あいつは……見目麗しいので」


 私は心配なんだ。マックスにロゼを取られたくない。


「ふふふ、私はテディ様の方が素敵だと思いますよ」


 え? 何? 私の方が素敵? 


 今ロゼはそう言ったよな?


 本当か? 本当なのか? 


 夢じゃないのか? 


 嬉しくて死にそうだ。


 あっ、エスコート、エスコートしなきゃな。


 私は無言で手を差し出した。


 ロゼがにっこり笑って手を取ってくれた。


 マジ女神。眩しい、眩しすぎる。


 この手は一生洗わないでおこうと思った。

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